-Chapter09-
「なぁ、そう思わねぇか? 目の前のことから逃げ出すことしか出来ない奴は、これから先も何もできないでくのぼうでしかないと思わねぇか?」
一体誰に語っているのか、少年は笑いながらそんなことを言う。彼は正気ではないと、一目でわかった。
「――なぁ、おい。お前に聞いてるんだよ!」
ふと、俺の頬を何かが掠める。今のは一体なんだ? 全く見えなかった……。
「人の話を無視するなんざいい度胸じゃねぇか、ええ? お前にそんな権利があるとでも思ってんのかよ!」
彼がそう叫ぶと、周囲の人々から血飛沫が上がる。一瞬の出来事に俺は何もできなかったが、
「な、何をしてるんだ!」
俺は彼に向かって叫んだ。すると彼はニヤリと笑って、
「そうそう……そうやって反抗的に勝負を挑んでくれるのが一番なんだよ……さてと、お前の魔法を見せてみやがれ!」
そう言ったかと思うと、宙に浮きあがった。彼はどうやら魔法で浮き上がっているらしい。今俺の周りで発生した風から考えると、彼は風の魔法を使っているのだろうか? 俺の魔法が特殊というのもあるが、ああいう遠距離からの攻撃には俺の魔法はとことん不向きだ。
「くそっ……!」
とにかく彼が打ったと思われる風の何かをかわすため、俺は魔法を纏う。
「アン? ……なんだよ、そんなちゃちな魔法かよ。ちょっと期待して損した感があるな。まぁいい、今までの逃げてく奴等よりは楽しめそうだ……」
彼はそう言うと、大きく振りかぶって何かを飛ばしてきた。予備動作が必要なのかは分からないが、軌道が読みやすい。魔法で強化されているおかげで、彼の放った風の魔法は難なく避けられそうだ。……いや待て、こんなに明らかな攻撃しか仕掛けてこないはずはない……そう思い背後の方に気をやると、何かが俺の方に向かってきていて、俺は慌ててそれを両手に纏った魔法で弾く。
「カッ、いいねぇ……攻撃してこないのはちと残念だが、反応は上々、予測もそこそこ……お前がその魔法以外を使えば、なかなか面白い戦いになりそうだ……!」
少年は愉快そうに言った。彼は戦闘狂なのだろうか、非常に楽しそうだ。
「くっ……そんな暇つぶしみたいな感覚で、簡単に人を襲っていいと思っているのか……?」
周囲で倒れている人を見ながら、俺は彼に訴える。すると彼は俺をあざ笑うかのように鼻をならし、
「暇つぶし? 違うねぇ……こいつは復讐だよ! 俺の復讐劇さ! どうせお前には言っても理解できねぇことだろうがなぁ……今までの俺はこんな行動が出来るような男じゃなかった。が、今はなんだか気分がいい……今の俺なら何だってできそうな気がするぜ!」
彼は言いながら、再び風を打ち出してくる。俺はそれをかわしつつ他の方向からの不意打ちを警戒していた。
「そろそろ飽きてきたしなぁ……全方向から攻撃でもしてみるか?」
彼は飽きっぽい性格なのか、右手を上に上げて全方向からの攻撃をかまそうとしていた。全方向から……いくつかの怪我は覚悟しなくてはならない。とりあえず命は守ろうと、俺は頭と心臓部の近くに手をやる。
「三、二、一――!?」
彼がカウントダウンを始め、零と言う瞬間、彼の近くで爆発が起こった。いや、爆発というよりは、火炎か……?
「随分と遊んでるわね。杣が逃げてきたから手を焼いているのかと思ったけど、大したことはないかしら?」
彼と同じくらいの高さに、一人の少女が浮かんでいた。確か彼女は、昨日杣と出会っていた――。
「誰だてめぇ? せっかくの所を邪魔しやがって……まぁいいぜ、お前は攻撃手段を持っているみたいだからなぁ。お前から先に遊んでやるよ!」
少年はそう叫ぶと、少女に向かって風を打ち出す。しかしその風は、彼女に届く前に炎の熱風で消えてしまっていた。
「あんた、もう少しいい動きしてたはずなんだけどね……練習に丁度いいから付き合ってたけど、今回は練習相手にさえならなそう」
ポニーテールの少女はよく分からないことを言いつつ、彼女の周りに炎を増やしていく。彼女の魔法は炎らしい。確かに彼女の足元からはバーナーのような炎が噴き出していた。熱くはないのだろうか?
「アン? 練習相手……? カッ! 随分俺のことを軽視してるみたいだが、そんな余裕、すぐに消し去ってやるぜ!」
そんな彼の叫び声と共に、上空で少女と少年の戦闘が始まってしまった。俺はその間に倒れている人たちの応急処置をしていく。皆多少の出血はあるものの、命に関わるような怪我を負っている人はおらず、一安心した。
「――ん?」
ふと、誰かの視線を感じて、俺は周囲を見渡す。しかし誰の姿もそこにはなく、俺は首を傾げて再び応急処置を始めた。少しだけ気温が下がった気がするのは、気のせいだろうか?




