-Chapter06-
「来たな、泥棒猫!」
怜はむしろ彼女の方が猫なんじゃないかと思わせるような構えで、杣を迎え撃った。
「何の話?」
杣は状況が掴めず、俺に話しかける。
「えーと……多分嫉妬?」
杣と朔が話していることに怜が嫉妬したのだろうと思った俺は、俺なりの推測を杣に言ってみる。すると杣は、
「そう」
とだけ言って、くるりと怜たちに背を向け、歩き出した。
「にゃっ!?」
それに驚いたのは怜であり、色々と不満げに杣の方を見ていた。その不満が朔に向かないことを祈りながら、俺は優奈ちゃんに先に帰らせてもらうことを伝え、杣を追いかけることにした。
杣を追いかけていると、なぜか周囲の景色が見たことのないようなものに変わっていく。ここはどこなんだ? 金属なのかレンガなのかよく分からない建物が並ぶ中で、杣はそんなことなど全く気にしていないかのように先を歩いていく。杣が角を右に曲がったので、俺も曲がろうとすると、
「動かないで」
聞き覚えのない声が、俺の背後からした。何を構えているのかは分からないが、おそらく俺に危害を加えられる何かを持っているのだろう。
「杣……なんで彼をここに連れて来たの? そもそもあんたがこの場所は誰にも知られてはいけないって言ってたじゃない」
背後の人物は、杣と関係があるようだった。俺は驚きながら、杣の方を見る。杣はふっと振り向くと、
「もし私が彼を連れて来ないでこの場所に来たら、彼は私を探すよ。そうすると彼は私たちの知らないところで裏通りに入って、黒に取り込まれていたかもしれないでしょう?」
背後の人物に何かを説明していた。黒とは一体何なのか、背後の人物との関係は一体何なのか、疑問は尽きなかったが、俺はまだ動くことさえ許されていないようだった。
「ふん。最近のあんた、焦ってない? 何かタイムリミットでもあるの?」
背後の人物――女性らしい――は、杣に質問をする。
「あと半年――」
彼女はそう言い、その先の言葉を飲み込んだ。背後の人物と杣の話を聞く限り、どうやら二人は何かを企んでいるようだ。そして杣の方にはあと半年というタイムリミットがあるらしい。何を企んでいるかは皆目見当もつかないが、どうしてそれを俺に相談してくれないのか、少しだけ残念な気持ちになった。
「別にいいけど。――で、今回は何をする気なの?」
特に興味を抱いていなさそうな様子で、背後の人物は言う。
「朔君の家に行ってみようと思う。彼の安全も含めて、彼には同行してもらうことになるだろうけど……」
朔の家? 彼女らの企みには朔が関係していたのか?
「まぁ、そうね……あんたのそれなら侵入は容易そうだし、それでいいんじゃないの?」
背後の人物はそう言うと、俺の背後から杣の方へ移動する。特徴的な赤い色の髪を持った、ポニーテールの少女だった。
「じゃあ、迅……こっちに来て」
杣がそう言ったので、俺は言われた通り、杣の近くへ寄る。その瞬間、足元がまるで沼にはまったかのように、ずぶりと沈み込む。
「なっ……!?」
俺は驚こうとしたが、そんな暇すらないほどに、俺の周りを黒い影のようなものが包み込もうとしていた。咄嗟に目を瞑り、ゆっくりと目を開ける。するとそこはさっきまでの見慣れない通りではなく、どこかデジャヴの感じる部屋だった。
「さて、まずは情報を集めるところからかしら」
ポニーテールの少女は、部屋の中を散策し始める。俺の部屋ではない上、部屋の構造的に男性の部屋っぽいので、彼女らはもしかして空き巣でもしているんじゃないかと心配になってくる。――というか、ここにいる時点で俺たちは不法侵入者なんじゃないか? 俺は不安になって、一階に降り、外に出ようとする。鍵がかかっていたため、朔たちはまだ帰っていないようだった。俺は鍵を開け、ドアを開ける。すると、
「わぶぁっ!」
少し離れた位置から、朔の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「な、も、もう帰ってきてるのか!?」
俺は急いでドアを閉め、二階に駆け上がる。いくらなんでもこの状態で朔に遭遇するのはまずい。
「お、おい、朔が帰ってきてるぞ!」
俺が朔の部屋らしい場所のドアを開けて叫ぶと、二人は少しだけ驚いたような顔をして、
「予定より一時間ぐらい早いわね……あんた、何かしたの?」
ポニーテールの少女が杣に尋ねる。すると杣は、
「彼が朔君を自転車で轢いたの」
とだけ答えた。間違ってないが……いや、あれには色んな事情があって……。
「とにかく、急いで部屋を戻して退散しないとね」
杣はそう言って、部屋を元の状態に戻し始めた。ある程度元の状態まで復元したところで、階段を駆け上がる音が聞こえてくる。慌てる俺と対照的に、二人は冷静で、
「迅、掴まって」
杣はそっと手を差し伸べてきた。俺が彼女の手を取ると、再び影のようなものが俺を包み込み、視界が回復するころには俺はもとのあの奇妙な場所に戻ってきていた。




