-Chapter05-
朔は優奈ちゃんの取り出したネギをしまうように説得しているようだった。別に隠し味として加える分にはいいと思うんだがな……別にあのネギすべてをカレーに入れるという訳じゃないだろうし。朔に止められてネギをうさぎのぬいぐるみの中にしまう優奈ちゃん。あの中に入れられたネギが腐らないことを祈りつつ、注文を待つ。両手を合わせて何かを強く祈るような仕草の朔を見ていると、すぐに店員がやってきて注文された品を持ってきてくれた。最初は朔と杣の分。杣はそれを受けとると、朔の前に彼の分のハンバーグを置いた。ほどなくして、俺と怜の分の料理も運ばれてくる。俺の頼んだナポリタンと怜のために頼んだトロピカルパフェを見比べると、絶対怜の方がお金がかかっているだろうことが一目で分かった。しかしこの料理でも絶対に怜は不満を言ってくるだろう。そう身構えていたのだが……。
「わーい、パフェだー」
すごく棒読みでありながらも、パフェの量や数に文句を言うことは無かった。一人で勝手に身構えていたことに少しの恥ずかしさを感じながら、俺は自分の分のナポリタンを食べ始める。すると、
「ぼ、僕のは!?」
急に朔が俺たちに尋ねてきた。僕の――つまり朔の料理ということか? それなら確か、
「え? 朔の注文したハンバーグはさっき来てたぞ?」
そのはずだと、俺は食べる手を止め、食べているものを飲み込んでから答える。
「うん、確かに私が店員さんからもらったから、覚えてるよ」
確かに杣はちゃんと店員さんから朔の分のハンバーグをもらった。それなのに朔はハンバーグにありつけていない。つまり朔の分のハンバーグを誰かが食べて――。
「ふぁくくん、ふぉんなにくぃにしなくふぇもいいにょ」
口をもごもごさせながら怜が言った。行儀が悪いなと思いながら怜のトロピカルパフェを見ると、それは注文が届いたときと、ほとんど形が変わっていなかった。それで彼女が何かを頬張っているということは、つまり、
「――なんか、いいや、もう」
俺が怜に注意を促そうとしたとき、朔は呆れ果てたような声でそう言った。被害者がそう言ってしまったら、俺が彼女に言う必要性はなくなる。むしろ不必要でさえあるのだ。
「朔、お前も大変だな……」
せめて何か言葉をかけてあげようと、俺はそんなことを口にした。さすがにファミレスに来て水以外の何も食べないで帰るというのはあまりにも無残なので、俺はナポリタンを六分の一程朔に分けることにした。俺がナポリタンを分けていると、
「はい、これ」
杣がドリンクバーから十杯分のドリンクを持ってきていた。これを杣が飲むならともかく、朔にあげるというのはドリンクバーの悪用であるとは思うが、彼はほとんど何も口にしていないのだから許してほしい。いや、それでも十杯はさすがに多すぎやしないだろうか?
「さーて、お腹いっぱいになったし、帰ろっか」
傍若無人な怜は、お腹をさすりながら帰ろうとする。優奈ちゃんまでも朔に食べ物を分け与えたというのに、怜は本当に彼に何も与えなかった。彼女と朔は仲が良いのか悪いのか微妙に分からなくなってきた。
「今日はなんか……悪かったな」
朔を轢いてしまったこと、そのお詫びも満足に出来なかったことを、俺はまとめて朔に謝る。すると彼は、
「いいよ、大丈夫」
無理に笑顔を作ってそう答えた。彼の優しさが伝わってくると同時に、本当に彼に申し訳ないという思いも抱く。
「そ、そうか? ならいいんだが……」
とりあえず朔の思いを無下にすることは出来ず、俺は支払いを済ませてファミレスの外へ出る。――が、外にいるのは俺と怜と優奈ちゃんの三人。朔と杣はファミレスでまだ何かを話しているようだ。
「むー! 朔君、あの杣って女にたぶらかされてる!」
怜は不満を表に出して怒っていた。
「いや、杣は俺の彼女だから……大丈夫、杣はそんな人をたぶらかすようなことはしないと思うぞ」
俺は杣をフォローする。すると彼女は、
「なら余計駄目じゃない! それはつまり朔君が一方的に杣のことを好きになってしまうということで……泥棒猫!」
暴走気味にそんなことを言っていた。これからの杣と朔のことが心配になってきた。怜に何かされたりしないだろうか。
「ど、泥棒……!? 杣さんは泥棒なの!?」
優奈ちゃんは怜の言葉の一部に強く反応していた。純粋な子供としての性なのだろうか。俺としては怜と優奈ちゃんのコンビは非常に危険な香りがする。
「その通りだよ、ちなみに泥棒猫って言うのは……」
怜は優奈ちゃんに教えなくていい知識まで教えようとしていた。
「えー!? 杣さんはお兄ちゃんを奪っちゃうの!?」
どんどん朔と杣の印象が悪くなっていくので、俺は慌てて優奈ちゃんに本当のことを言おうとすると――。
「おまたせ」
杣が、ファミレスから出てきた。




