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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeα-
111/344

-Chapter54-

 がくりとうなだれている朔に、なんと声をかけたらいいのか分からず、俺はただ周囲の様子を見ていた。舞はずっと俺と朔に背を向けたまま、何も言わずに立っている。朔は黒い死体から転がっている塊を拾って、何かを見ていた。朔が持っているのは、黒い筒状の小さなものだった。中に何かが入っているようで、彼はそれを取り出す。出血のせいか彼の手に赤いしみが出て来ていたが、彼はそんなことを気にしてはいなかった。ふと、炎のせいか熱風が周囲に吹く。その勢いで朔の持っていた紙は吹き飛ばされ、炎の中に消えていこうとしていた。朔は無意識にかそちらの方へ歩き始める。このままでは朔が燃えてしまうと感じた俺は、

「やめろ、朔!」

 咄嗟に朔の腕を掴んで、朔を止める。彼はその手を離そうとするが、彼にそんな力は残っていなかったみたいだ。少しすると、彼はがくがくと震えながら、地面にぺたんと座り込んだ。

「う、嘘だ……こんなの、嘘だ……」

 彼は呆然としながらそんなことを呟き、しばらくすると両手で顔を覆って何かを呟きながら、泣いていた。

 それから、どれほどの時間が経っただろう。周囲の熱に慣れ始めた頃、不意に朔が笑い始めたのだ。

「は、ははははは……」

 どこか狂ってしまったかのような笑み。彼は上を向いて涙を流しながら、笑う。それはどこか悲しげにも、どこか自分を責めているようにも、どこか自暴自棄であるようにも見えた。彼の涙が頬を伝い、地面に落ちようとするとき、洞窟の入口から、叫び声が聞こえた。

「――駄目っ!」

 入口の方を見ると、杣がこちらに向かって手を伸ばしながら、こちらに駆け寄ってきていた。その瞬間、指鳴りの音と共に、視界が暗転した。

 ――暗い。何も見えない。肌に熱さを感じる。ゆっくりと目を開ける。いつの間に目を閉じたのだろうか。周囲には誰かの泣き声が聞こえる。初めに視界に入ったのは、どこか後悔している表情を浮かべた杣だった。次に目に入ったのは、振り返った時に、驚きの表情を浮かべていた舞。そして最後に、地面に目を落とす。するとそこには、黒い炭を抱いて泣き叫ぶ――一人の少女の姿があった。

「なん、で」

 舞は、呆然としながらそんなことを言った。少女は、泣きながら何度も何かをつぶやいている。彼女の持つ空色の髪は、炎のすすのせいかかなり汚れていた。それより、朔はどこだ? 俺は周囲を探す。が、朔の姿は見えない。ふと、少女の嗚咽交じりの声の中に、あるフレーズが入っていることに気付いた。

「……君、さ……ん、朔君……」

 さ、く? ちょっと待ってくれ。少女が黒い炭を抱きかかえながら、その炭に呼びかけるかのようにそんなことを言っている。状況だけで考えるなら、あの黒い炭は朔ということになる。そんなはずはないのに。

「朔、何かしたのか……?」

 驚きと疑問と悲しみとが積もって一周し、俺は冷静に疑問を呟いた。ただ、悲しいものは悲しい。俺の頬には、知らない間に涙が流れて来ていた。隣にはいつの間にか杣が立っていた。

「やっぱり、こうなっちゃったのか……」

 杣は、そんなことを言う。このとき俺は、冷静じゃなかったのかもしれない。杣の方を睨むと、俺は強気な物言いで、

「何か、知っていたのか?」

 と、呟いた。杣は一瞬口を開きかけて、閉じる。言えない理由があるのか、それとも言う理由がないのか。

「怜! あんた何をして――」

 舞は、空色の髪を持つ少女に叫ぶ。だが、彼女の言葉は途中で止まってしまっていた。俺も、杣に問いただそうとしていたことを忘れ、怜と呼ばれた少女を見ていた。あのときの表情は、忘れない。朔を失ったせいなのか、彼女の表情は、怒り、悲しみ、憎しみ、後悔、怨み、嫌悪、敵意、憎悪、殺意、嫉妬、軽蔑、劣等感、苦しみ、恐怖、絶望、空虚といった、様々な負の感情を詰め合わせたような、そんな顔をしていた。何も言えなかった。何もできなかった。ただ、単純に、彼女はどこか狂ってしまったと思った。

「朔君……ごめんね、私のせいで」

 彼女は、何事もなかったかのように、再び朔に語り始める。舞は、これ以上怜を問うようなことはしなかった。それにつられて、俺も杣を問うことができなくなった。暗い沈黙が続き、炎の音だけが周囲に響く。少しずつ炎の勢いも弱まり、そこからしばらくすると、炎も完全に消えた。――そのときだった。

 ガラスの棒が折れたような音が聞こえたかと思うと、周囲の景色が歪み始めた。

「こ、今度はなんだ!?」

 俺は叫ぶ。視界はどんどん歪み、俺の意識もまるで歪みの中に取り込まれていくかのように薄れていく。だんだんぼうっとしてきて、意識を保てなくなる瞬間、

「またね」

 誰かが、誰かに呼びかけるような声が聞こえて、俺はそのまま意識を失った。

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