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本祭①

 「巳神様!巳神様!」

 村人の大きな声で蓮は目を覚ました。

 その声の慌てようから緊急事態なことはわかった。

「凛。起きて」

隣で寝る凛を起こして、部屋から出る。

「ああ、蓮さん。山の方で何かがあったようです。」

先に出てきていたであろうサキがそう話す。

「申し訳ありませんが、私は祭りの準備があります。お二人で現場に向かっていただけないでしょうか。」

サキはもうしわけなさそうに言った。

その言葉を聞いた蓮は彼女が外に出てくるよりも神社にいてくれた方が安心だと考えた。

「わかりました。何もないとは思うけど、行ってきます。」

 

 村人に案内されて村の広場を抜け、山の入り口に来た。

 道の脇には多くの村人が集まり地面を見下ろしていた。

「あ……あそこを見てください。」

 一瞬、誰も声を出せなかった。

 山の入り口、倒木の影に横たわるそれは、人の形をしている何かだった。

衣服は残っている。

だが、中身がない。

皮膚という「境界」だけが、そこからごっそりと失われていた。

「ひっ……」

 村人の一人が喉を鳴らす。

吐き気をこらえるように、口元を押さえた。


 蓮は一歩、前に出ようとして止まった。

 足が重い。

 目が勝手に逸れる。


 その時だった。

「おめぇら!どきやがれ!」

のぶとく大きな声が後ろから響いた。

周囲の人間全員が後ろに目をやる。

そこに立っていたのは巳神 辰造だった。

「あいつ、昨日の男!」

凛は昨日に自分の身に起きたことを思い出した。

「落ち着いて。あの男、何か知ってそうだ。」

蓮は辰造に近寄ろうとする凛を制止し、静かに話した。

「あぁ、辰造さんでしたっけ?これが何か知っていたりするんですか?」

蓮は落ち着いて質問をする。

辰造はずっと額に汗を流している。明らかに動揺しているのだ。

「知らねぇ。お前らも何も見んかったことにしな。これは俺が預かる。」

そういうと辰造は死体にボロ布を被せ、担いで小屋に運んで行った。


「さぁ、どいたどいた。」

次にやってきたのは志津という老婆だった。

彼女はバケツに水を汲み、死体のあった場所にかけた。

地面に残っていた黒いシミは流され、何もなかったように茶色の土が顔を覗かせた。

「今日は祭りじゃろう。こんなことに気を使ってないで楽しまんか。」

志津は聴衆を睨みながらそう告げて家へと戻っていった。


 そんな呑気なことを言ってられるような場合じゃないと蓮は思った。

しかし、そこに群がっていた住民は志津の言葉を聞くと、何事もなかったように各々の仕事や家に向かっていった。

 蓮はそのことを不思議に思い、「祭りの提灯をつける仕事がある」と言って戻ろうとした村人を止めて話をした。

「なんでそんなにすぐに気持ちを変えられるんですか?いまさっきまで目の前に死体があったんですよ!?」

蓮の質問を聞いた村人は不思議そうな顔をして言った。

「なんでもなにも、志津さんと辰造さんがああ言ったんだから何もないんだよ。」

そう言うと村人は仕事に向かっていった。

蓮は村人の言っていることも志津の言っていることもわからず、ただそこに立ち尽くしていた。

「あいつら、村人に何かしているんだわ。」

凛が隣からそう言った。

「あ、あぁ。僕もそう思うよ。洗脳か何かしているのかもしれない。」

蓮も同じことを考えていた。

 彼らはなんらかの方法で村人を洗脳し、自分たちの言葉次第で思うように動く操り人形のような状態にしているのだ。


「蓮は先に戻ってて。私、あの男の小屋を調べてみようと思う。」

凛はそう言うと、辰造の走っていった方向に向かって歩き始めた。

「わかった。気をつけろよ。何かあったら携帯に連絡してくれ。」

蓮はそう言って神社に向かった。サキにこのことを伝えなければいけないし、彼女に何もなかったか確認するためだ。


「戻りました。」

社務所についた蓮はそう声を発した。

しばらくすると廊下の奥から静かにサキが現れた。

「おかえりなさい。あら、蓮さんだけなのですか?」

サキは玄関に立つ蓮を見てそう質問した。

おそらく凛が隣にいないことを不思議に思ったのだろう。

「凛はもう一度村を調査すると言って行きました。」

蓮はさっきまでに自分が目にしたことをサキに話した。

サキは顔色を変えることなく静かに蓮の話を聞いていた。


蓮が話を終えると、サキは笑顔で彼のことを見つめていた。

「それでは、久しぶりに2人で山の方に行ってみませんか?せっかく蓮さんが村に戻ってきたと言うのに、それらしいことを何もできていませんでしたもの。」

サキは静かにそう言った。

山……蓮が死体を見た場所とは逆の方向にある山だ。あそこへ行くのは蓮には気が重かった。思い出したくもないあの日のことが嫌でも思い出されてしまうからだ。

 彼女はそんなことは考えていないだろう。村にいた時、彼女とよく山の中に作った小屋に行って遊んでいたから、そこに行って思い出話でもしようと考えているのだろう。

「えぇ……祭りの用意はいいんですか?」

蓮はやんわりと断ろうと言い訳を探した。

「祭りの用意ならもう済んでいます。あとは時間になるまで待つのみです。私は、蓮さんと久しぶりにお話がし

たいだけです。何もあの日のことを話そうだなんて思っていません。あなたがこの村にいなかった20年間のことを話したいだけです。」

彼女は蓮の体に手を当てながらそう言った。

彼女も手のひらはまわりの気温に対すると驚くほどに冷たく感じられた。

彼女の体が冷たいのか、蓮の体温が高くなっているのかはわからなかった。


凛は茂みから男の小屋を覗いていた。

「あの男がいなくなったらすぐに入って中を調べよう。」

カメラをズームして曇った窓から中をみて、そう小声を出した。

小屋の中では辰造が何か作業をしていた。

手元が見えず何をしているかはわからないがさっきまでに自分が見たものや、これまでの彼への疑い、村全体の雰囲気から何かを察していた。

 

 2人は静かに山道を歩いていた。

山の中はあの日のように深く霧が立ち込めていた。

 しばらく歩くうちにどんどんと霧が濃くなっていく。

霧で視界が奪われていく中、蓮はあの日のことをずっと反芻していた。

足がふらつく。あのことを考えるだけで足取りが重くなっていく。

「大丈夫ですか?やはりあの時のことを思い出してしまいましたか?」

サキは優しく声をかけて手を伸ばす。

蓮は彼女の手を握り、やっとの思いで再び歩き始めた。

「もう、この辺でいいですかね。」

 サキは周りを見渡すとそう呟いた。

そして、握っていた蓮の手を離し体を押した。

蓮は尻餅をついて彼女の方を見上げた。何が起こっているかがわからなかった。

彼女はそのまま蓮の体を倒して、上に跨った。

彼女の体はそこにいるのかいないのかがわからなくなるほど軽く感じられた。



 小屋の中から出てきた男は周りをじっと睨み、どこかへ歩いて行った。

「今だ」

 そう思った凛は物音を立てずに辰造の小屋へ侵入した。

 小屋の中は薄暗く、今朝のこともあったため昨日よりも不気味に感じられた。

作業台の上には今朝の死体であろう塊が置いてある。

今日はこれを見にきたわけではない。

もっと、この村やあの男の核心に迫るような何かを探しにきたのだ。

ヒントがあるとしたら、作業台の後ろにある棚であろう。

1番上から順に中身を調べていく。

針、糸、接着剤、スポンジ……これまでにこの村で見てきた覚えのあるものが多かった。

どこの棚を開けても同じようなものばかりが入っていた。

最後の棚を開けると、そこには古い紙切れが入っていた。

紙切れの上には「蛇神伝説原案」と荒々しい文字で書いてあった。


――

 蛇神伝説 原案 ⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎年

250年前、この村はもっと小さい集落だった。

村の男……喜三郎が山の中で迷い、小さな洞窟へと落ちた。

その洞窟で喜三郎は大きな目なしの大蛇を見た。

その大蛇は喜三郎に対して話しかけ、村で大蛇を信仰するように促した。

――


「作るにしてももう少し凝ったストーリーにできないのかしら」

凛は紙に書いてある文章を途中まで読み、そう言って棚に戻した。

つまらなそうにしても、この文章は大きな鍵だった。

この村の信仰は古くから続いているものではなく、辰造が無理やり作り出した御伽噺だったのだ。

「もう、ここには用はないわね。今度はあのお婆さんのところに行ってみるか」

 そう呟いた途端、首に大きな衝撃が走った。



「ちっ、このアマ、余計な詮索はすんなっつったのによ……」

辰造は小屋に侵入した女の首を強く殴った。

横たわる女を担いで小屋の地下に運んで行った。

「奴らにバレてなけりゃいいが、」



 蓮は昂る気持ちを抑えるのに必死だった。

サキの重みは、羽毛のように実体がない。

 覆い被さる彼女の長い黒髪が、蓮の視界を霧よりも白く塗り潰した。彼女の顔が近づくたび、むせ返るような沈丁花の香りが鼻腔を突き、蓮の思考を真っ白に麻痺させていく。

 「……サキさん、何をして……」

「何も、恐れることはありません。貴方の心臓の音が、こんなに近くに聞こえる……。嬉しい。ずっと、こうして貴方に触れていたかった。あなたを愛したかった。」

サキの指先が、蓮の頬から首筋へと滑り降りる。その指は驚くほど滑らかで、同時に生きた人間の体温を一切感じさせないほどに冷え切っていた。蓮はあまりの冷たさに身震いしたが、彼女の瞳に見つめられると、意識が深い霧の中に消えてしまったかのように何も考えられなくなっていた。

「貴方は、私に全てを預けてくれればいいのです。あの日からずっと、貴方を縛り付けてきた罪も、後悔も、私が全て食べてあげましょう」

彼女の唇が蓮の耳元に触れる。囁きは、甘い毒のように鼓膜を伝い、蓮の理性を溶かしていく。蓮は抗うように彼女の背中に手を回したが、指先に触れる彼女の肌は、吸い付くような異様な質感を備えていた。それはまるで、出来立ての絹のようでもあり、あるいは丁寧に鞣された薄い革のようでもあった。

「あぁ……熱い。蓮さん、貴方はこんなにも生きている……」

サキは蓮の胸元に顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。蓮の昂る鼓動に呼応するように、彼女の身体が微かに震える。蓮は、彼女の冷たさが自分の熱を奪っていくのを感じながらも、それを心地よい救済だと錯覚し始めていた。

周囲の霧がさらに深くなり、二人の世界を外界から完全に隔離する。

この瞬間、蓮の意識から凛のことも、辰造のことも、そして血の匂いのする今朝の死体のことも消え失せた。あるのはただ、霧の中で自分を抱きしめる、この世で最も美しく慈愛に満ちた「宿命」への、陶酔的な依存だけだった。


 ふとした時、蓮の目には再び彼が映った。

彼はずっと見ている。

この村に戻った時に一言声をかけただけでそこからはただ静かにこちらを見つめている。

体の大きさも、黄色のレインコートもあの日と変わらない。

「どうしたんですか?何かありましたか?」

サキの言葉で蓮は我に帰った。

もう一度木の影に目をやっても彼はいない。

「いや、何か見間違えたみたいです。」

そう願いたかった。彼がいるはずがない。彼は……兄は20年前にこの山で死んだんだ。

「もしや、また蒼さんを見てしまったのですか?」

サキには蓮の異変はお見通しだった。あの時からずっと関わっている幼馴染には隠し事など通用しない。

「はい、やっぱり兄は……蒼は僕のことを恨んでるんです。あの日、自分を犠牲にして今ものうのうと生きている弟が憎いんですよ。」

蓮の目には自然と涙が流れた。

ずっと思っていた。彼にもう一度会えるならしっかりと話したい。あの日のことを謝りたいと。

「蓮さんは悪くないですよ。蒼さんもあなたが今も生きていてくれることを喜んでいるんですよ。」

サキは子供のように泣きじゃくる蓮を抱きしめて言った。

「もう一度、あの場所へ行きましょう。そうすれば気持ちが落ち着くかもしれません。」



 蓮たちは静かに山を歩き始めた。

あの日の場所へ向かって歩を進めていた。

 10分ほど歩いてだろうか、目の前に崖が見えた。

ここが蒼の死んだ場所。

彼が蓮を庇って死んだ場所だ。

「どうですか?何か思い出しましたか」

何も答えられなかった。

嫌というほどあの日の光景が脳裏で再燃した。

「安心してください。彼もあなたのことを恨んでなんかいませんよ。ずっと待っていたんですよ。あなたが帰ってくることを……返しにくることを。そろそろケジメをつける時じゃないですか?あなたは蓮さんじゃないでしょう?」

サキの言葉で蓮は途切れ途切れだったあの日の記憶を完全に取り戻した。



 

 ――20年前、2人の男児が夜蛇村から出ようとしていた。

久世 蒼と久世 蓮は、降りしきる雨の中、泥にまみれながら必死に山道を走っていた。

「逃げるんだ、蒼!」  蓮が叫んだ。

 彼らが逃げ出した理由は、ある夜、見てしまった禁忌の光景だった。  沈丁花の香りのする暗い部屋d、自分たちを愛してくれていたはずの母親が、鏡の前で皮膚を剥ぎ取り、新しい顔を丁寧に貼り付けていた。耳の後ろには、細い糸で縫い合わされた生々しい「継ぎ目」があった。

この村にいたら、僕たちもいつか「中身」を捨てられ、誰かのための「服」にされてしまう。  その恐怖だけが、幼い二人を突き動かしていた。

だが、運命の崖で足が止まった。  追っ手の松明の光が近づく中、二人は縺れ合うようにして崖の縁に追い詰められた。

「離さないで、蒼!」 「大丈夫、一緒に行こう……!」

手を繋ぎ、飛び降りようとしたその瞬間。蓮の足元の土が崩れた。  宙に浮いた蓮の手を、蒼が必死に掴む。しかし、幼い子供の力で二人の体重を支えることはできなかった。  蒼は悟った。このままでは二人とも落ちる。

「蒼、お前だけでも頑張って生きるんだぞ。」

蓮は微笑んだ。そして、自ら手を離した。  激しい雨の音の中、蓮の小さな体は闇の底へと吸い込まれていった。


 


 自分の存在と記憶が矛盾する。

サキは蓮の耳元で、甘く、冷たく囁いた。 「そうですよ。あの日、崖から落ちたのは『蓮』さん、貴方の方でした。そして生き残ったのは、弟を見捨てて一人で逃げ延びた『蒼』さん……貴方だ」

蓮――否、蒼の脳内に、封印されていた真実が蘇る。  崖から落ち、命を落としたのは本物の蓮だった。生き残った蒼は、あまりの罪悪感と恐怖から、自らの記憶を書き換えたのだ。自分を犠牲にした「兄」という美しい虚像を作り上げ、自分こそが被害者の「弟」であると思い込むことで、今日まで正気を保ってきた。

「貴方は二十年間、彼の名前を盗んで生きてきた。……でも、もういいのですよ。その罪悪感も、その体も、全てお返しする時が来たのです」

サキの手が、蒼の首筋にある鱗のような痣を愛おしげになぞり、そっと唇をあてる。

「僕は……僕のままで生きていいんですか、僕が蓮を背負って生きないといけない。蓮もそれを望んでるんです。」

当時も蒼よりも蓮の方が人懐っこく、村の人から可愛がられ必要とされていた。

「そんなわけないでしょう。彼は彼、あなたはあなたです。村の者も皆、あなたがあなたのままでいることを望んでいます。さぁ、彼に全てお返しするのです。“蒼さん”」

その言葉に彼は救われた。自分がもう蓮のことを背負わなくていいのだと思えた。

木の影からこちらを見る蓮の元へ歩こうとしたとき、空が轟き、大粒の雨が降り始めた。

その瞬間、蓮は煙のように消えてしまった。


「サキさん、一度帰りましょう。」

雨がひどくなり、2人は急いで社務所へもどった。

「蒼さん、お風呂場から布を持ってきていただけますか。山を降りるので疲れたので先に部屋におりますので」

彼女は昨日、大怪我をしたばかりということを忘れていた。

「もちろんです。部屋で休んでいてください。」

風呂場に行き、タオルで自分の体を拭く。帰ってくる途中にも雨はひどくなり思っていたよりも濡れてしまった。

新しいタオルをもち、彼女の部屋へ急ぐ。その途中、空が明るく光り、直後に大きな音が鳴った。

祭りの日だというのに、この天気は最悪だと考えた。

彼女の部屋を開けると、彼女は服を着替えている途中だった。

「っ、すみません。入ることを言うべきでしたね。」

彼女は恥ずかしそうに蒼の目を見ている。

「い……いえ、ちょうど体を拭こうとしたのでよかったです。ただ、しばらく向こうを向いていていただけますか。」

そう言って彼女はタオルを受け取った。

すぐに蒼は外に目をやった。

その時、ふと気づいた。

「凛が帰ってきていない。」

この大雨の中、まだ村の調査をしているとは考えられない。

雨が降り出してから長く経っている。山を降りてきた自分たちよりも遅く、ここに着くはずがない。

「やはり、あの人が動き出したのではないでしょうか。」

静かに後ろでサキがつぶやいた。

「あの人……辰造ですか。」

「ええ、彼は私のことを狙っています。祭りの日に神社の巫女が死ぬ。村人は蛇神様の祟りだと思うでしょう。その時に彼が私の代わりをすると言えば、祟りを恐れた村人から絶大な信頼を得られるでしょう。あの男からしたら絶好の機会です。そのためには蒼さんと御子柴さんが邪魔だった。」

彼女の顔が徐々に暗くなっていく。

「私は、やはり今日死んでしまうのでしょうか。せっかく……蒼さんと再会して再び愛し合うことができたのに。」

彼女は涙を流し、顔を伏せた。

「そんなことはさせない。そんなことをあいつがしようとしているなら僕は、あなたのために、サキさんのためにあいつを殺します。」



 蒼の体は勝手に動き始めた。

社務所の倉庫から斧を持ち出し、辰造の小屋へ向かった。

「あの人はおそらく小屋の地下にある洞窟にいるでしょう。」

サキの言葉を頼りに小屋に向かう。

小屋の鍵は開いていた。

 もしかすると凛もこの小屋に入っていたのかもしれない。その時にやつに見つかったのかもしれない。

小屋の中は薄暗かった。

作業台の上に置かれた蝋燭に火を灯す。

周りがぼんやりと照らされる。

小屋の中には人の皮のようなものがたくさん置いてあった。

吐き気を我慢しながら地下への入り口を探す。

 床を凝視していると、タンスの角を中心として床に弧を描いた傷を見つけた。

「これは、タンスを動かした跡か。」

 ここに地下への入り口があるのは明確だった。

タンスをずらすとカビの生えた扉が出てくる。

扉を開くと真っ暗な階段が現れた。

蒼は覚悟を決め、深呼吸をした後に斧を構え、地下室へ入っていった。

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