第49話 閑話 赤いローブのルナ?
【三人称】
ルツィナが帰ったのに気がついた三人は、お互いなぜここに他の二人がいるのか不思議に思った。
「私は孤児院の修復について、神父から事情を聞こうと思って来たのですよ」
「私は……ルツィナが今日も料理を作りに来るのか確認に来たのだが……。どうやらこれで終わりみたいだね」
ディアマントの寄付に対して、自分の欲望丸出しなギルド長。
「わたしゃ、依頼を受けてな。ほれ、お前の店で宝石を売った少女と取り引きをしてな」
「なんだと! どこにいる! 名前は!」
ギルド長が魔道具屋に詰め寄る。
「ん? うちの客に何か用かのぉ?」
魔道具屋は、ギルド長を覗き込むように牽制した。
「まあ、何を買ったかはそのうちわかることだから教えてもいいがね。孤児院への寄付として、魔道具のコンロとオーブン、それに向こう10年分の交換用魔石だね」
「「はあ?」」
宝石商が慌てたように魔道具屋に言った。
「いくらだ! 私が500万の寄付をしても、あの少女がその何倍もの価値の寄付をするとなれば……。何を考えているんだ? 何を私に求めているんだ?」
コンロだけでもかなりするということは知っている。ましてオーブンなど……。王都の貴族街の高級店でも、導入すれば噂になるというのに。
「ああ。寄付ではなく貸与だったねぇ。所有権はあくまでその少女にあるそうだ。転売や移動されないためにそうしたんだろう。まったく……かしこい少女だわぃ」
「孤児院に、何かつながりがあるのか?」
ギルド長は魔道具屋に尋ねた。
「知らん。事情まで聞く義理はないさね。まあ、名は刻印してほしいと言うから、聞いたが」
「教えてほしい。名は何と」
「うちの上客だ。そう簡単に教えられんね」
「悪い話じゃないんだ。感謝と報酬を贈りたい。それと、ギルドに現状報告をしてほしいんだ。こちらからも頼みたいこともある。とにかく、連絡をつけたいだけだ」
「ほう。こちらの情報が欲しいと。なら、そちらは何を寄こすんだい?」
「情報?」
「ああ。売り物には現金、トップクラスの情報には何が似合うと思っている?」
「……」
「そうだねぇ。大負けにしよう。さっきの少女の情報を教えな。どこかで見た気もするのだが。そういやルツィナって言ってたね。どこの子だい」
ギルド長は、思わず名前を口に出したことを後悔しながら、しかしルツィナと冒険者の少女の情報を秤にかけていた。
「ダンジョン近くの弁当屋だよ」
「おや、うちの客の娘か。引っ込み思案で中々顔を出さない。そうさね、そろそろ弁当屋のコンロは、魔石の効力が切れる頃だが。親父が来たら話を聞こうか」
ルツィナの父がいないことを言うべきか迷ったギルド長だったが、魔石が切れそうなことを伝えればいいだけと考えなおした。
「ルツィナは今、私たちと専属契約を結んでいる。菓子を作らせようとしても無駄だわ」
「おや、そうかい。冒険者ギルド専属か。うまいことやったね。まあ、うちは菓子屋じゃない。定期的に菓子を売ってもらえるように頼んでほしい。どうかね」
「……聞いておこう。それで、少女の名は? どこに住んでいる」
ルツィナが嫌といえば、菓子は渡すことができない。身元は答えたのだから教えろ、と詰め寄った。
「どこに住んでいるかはわからん。まあ、そこら辺の宿を転々としているのだろう。刻印にこう記すように言われている。『赤いローブのルナ』とね」
「赤いローブのルナ、か。やはりルナでよかったんだ」
「ギルド長、私にも菓子を卸してはくださらないだろうか! それも至急に。宝石を売った夫人に、孤児院への寄付を促すために。宝石をまだ持っている赤いローブのルナ様が高額な寄付をしたこと、それと
孤児院の関係者がこれほどの菓子を作ることができること。それがあれば、調理室を増築させることができる」
「「ほう。それになんの意味が?」」
二人は宝石商を睨みつけるように見ながら聞いた。
「オーブンをどこに置くつもりだ? 鍵がかかり、安全で使いやすい調理室があれば……あの少女、ルツィナの腕がどれほど奮われるか。私は見てみたい。そして味わってみたい。あの少女の本気の料理と言うものを」
熱く語る宝石商の言葉は、ギルド長と魔道具屋の胸に響いた。
そして、味わったことのない絶品料理を、なんとしても食べたいという思いがあふれた。
「ディアマント、そいつはやめとけ」
魔道具屋が言うと、宝石商はすぐに反応した。
「なぜだ!」
「貴族を巻き込んだら、なんだかんだで連れて行かれる。情報は秘匿するものだ。調理室ぐらい我々三人で作ることができるだろう。神父を巻き込んでわしらだけで楽しめるようにするのがいい。そうは思わんか?」
定期的に寄付を続け、情報を抑える。料理は、高額寄付者へのお礼。ルツィナには、何か別に恩恵を与えればいいだろう。現金でも立場の安定でも新しい調理器具を取り寄せても。
三人は、その方向で合意した。
そのことを現実にするため、神父の元に向かうのだった。




