第46話 フライパンを鍛えます
(で、どうするのよ? 夕方にはシルルさん来るんでしょ)
そうです。もうじきお昼です。
孤児院では、朝と夕方にしか食事が出ないと言っていますが、朝ご飯があれでは……。
夕ご飯のためにミルク味噌スープを作って帰ろうと思ったのに。
(ああ。野菜と肉を入れたら、ごちそうになるね)
でもダメです。与えるだけならよかったけど、教えるなら、ありふれたもので作らないと。
(そっか。ルツィナにしか手にはいらないもので覚えたら、再現できなくなるもんね)
それに、基本を飛ばすと上手くならないから。
(大変だね、教えるの)
本当に……。とりあえず、かぼちゃはたくさん収穫したから、孤児院にはかぼちゃをおすそ分けしておきましょう。
放っておいても問題ない丈夫な野菜だしね。
料理を覚えたいって言っても、覚えなきゃいけないことはたくさんある。包丁を始めとした道具の使い方。火の管理。食材の特徴。
あ〜! どうやって教えたらいいの〜!
(ルツィナはどうやって覚えたの?)
私? 私はお父さんから、少しずつ。
(じゃあ同じようにしてみたらいいんじゃない?)
お父さんと同じように? 私が?
えっと……どんな風に聞いたっけ?
◇
「じゃあ……今日から、しばらく……見学して、ください。勝手に作っては、いけません」
頑張って話さないと。
「はい! 天使様」
って、天使様やめてって言ったよね。
「次、天使様……って言ったら、破門します。師匠、と呼びな、さい」
(お〜! 師匠か。いいね!)
お、お父さんから習った時、そう言ってたから。
「お師匠様。……これでいいですか?」
「いい、です。では、始めます」
(お〜! 師匠っぽい)
私はお父さんから言われたことを口に出した。
「料理をしたいのなら、まずは感謝を示しなさい。『神に感謝を。食材に感謝を。道具に感謝を』 はい、繰り返して」
「神に感謝を。食材に感謝を。道具に感謝を。これでいいですか?」
お父さんを思い出したら、すらすら言えた。
「そうです。感謝の気持ちがあれば、全てを丁寧に扱えます。包丁も火も食材も、丁寧に扱わなければ、自分や他人の身を傷つける凶器に変わってしまいます」
そうだよね、お父さん。
「はいっ!」
うん。浮ついていた瞳が、真剣な目の色に変わったみたい。
これなら、ちゃんと教えても大丈夫、だよね。
私は、さっき買ってきた調理器具を次々に出した。
「これは、私から孤児院への寄付です。これらを使って料理をするのですが、私が許可したもの以外は、勝手に使わないように。雑に扱うのもダメです。いいですね」
「こんなにたくさん。はいっ! 分かりました。師匠」
うわ〜。キラキラした目で包丁を見ているよ。触らないでね!
「ルツィナ様、こんなに!」
神父様、いえ、あの……。
「私が! 使う、必要が、あるので……」
いいから、貰って!
「寄付、です」
「あっ、ありがとうございます。ルツィナ様」
あ〜! 涙目にならなくても!
え〜と……そうだっ。あれしなきゃ。
「カナさんっ! かまどに火を入れて」
いつも使っているから、できるよね。
「はいっ! すぐに火をつけます」
(何するの? 料理?)
ううん。フライパンを鍛えるの。新品だからね。
「新品の、フライパンは、使う前に、高熱で焼いて、油慣らしをします。フライパンだけです。鍋は同じことをしては、いけません。覚えておいて、ください」
新品のフライパンなんて、この先手にすることもないと思うけど。知識として覚えて。
(ああ。そういやあったね。テフロンばっかりでやったことないや)
テフロン? なんですか、ルリ?
(ははっ、知らなくても大丈夫。忘れて)
はあ。まあいいです。
薪代わりの小枝を追加し、火力を上げた。フライパンを火にかけ、真っ赤になるまで焼き続けた。
一度火から下ろし、鉄の色を戻す。
油を多めに入れ、また火にかける。
フライパンを傾け、縁に当たるように油を回す。
熱くなった油が陽光に照らされ、七色の光を反射している。
そこら辺に生えていた草を投入し、フライ返しで炒めた。
本当は野菜クズ使えばいいんだけど、ここらの雑草、ハーブが多いし、いいよね。
あっ、薬草や魔法草も入ってる。
「こうやって、焼いたあと、油を入れて回すと、鉄の表面に、油の膜が、でき、ます。錆を防ぎ、焦げ付きを防ぐために、必要な工程です」
いつの間にか、他の子どもたちも集まっています。
真似させないように、神父様にお願いしなくては。
フライパンは、一度冷ましましょう。
せっかく熾した火です。もったいないから、かぼちゃを煮ましょうか。
さあ、料理を始めますよ。




