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バケモノと博士

これは、かつての日常風景。


一面ガラス張りの部屋に枷を着けられたバケモノが座っている。退屈そうに欠伸をして、眠たげに目を細めた。


「これより、人間形態の魔法耐性実験を始める。抵抗は許可が出るまで禁ずる」


ガラス越しに白衣の男が告げる。答えを待たずに、手元の魔法具を起動した。


部屋の中に設置された砲が一斉にバケモノの方を向き、集中砲火する。紫電や蒼炎が舞う様子は幻想的であったが、それらは肉を抉り、骨を断つおぞましい魔法兵器である。バケモノから飛散する血によって白い実験部屋はたちまち赤く染め上げられ、肉の焦げる嫌な臭いが広がった。


「なるほど、素晴らしい威力だ。私の作品に傷を付けるとは、これの開発者には今一度礼を言わねばなるまい」


博士は満足そうに頷き、思い出したかのように告げる。


「あぁ、抵抗して構わない。許可する」


途端、バケモノに放たれ続けていた魔法が打ち消された。そして、枷の嵌まっていない足で全ての魔法兵器を蹴り壊した。


そのままガラスを突き破り、博士を罵倒する。


「お前マジこれクソ痛かったからな死ね──」


「──今日のおやつはフレンチトーストだ」


「わーい!!!!!」


機嫌が一瞬で直ったバケモノはボコボコと体を再生させた。そして、実験室を出て与えられている自室に飛び入り、席に座る。


机の上には、メープルシロップがキラキラと輝くフレンチトーストがあった。


フォークがキャラメリゼされた部分をザクリ、と穿つ。メープルシロップがたっぷりとかけられた部分を口に運ぶと、初めはパリパリと、後はとろりふわりとした食感だった。メープルシロップもトーストの甘みを綺麗に後押ししていて美味しい。


バケモノはココアを、博士はミルクティーを飲み、一息吐いた。


「なぁなぁ」


「どうした?」


「暇ー」


「…確かに、今日は実験も午前で終了。組織からの応援要請もなく、私も手持ち無沙汰だ。……ふむ、それでは『ニルと不思議な絵本』でも読むとしよう」


「お前それ好きだな。まぁ、俺も好きだけど…」


「あぁ、幼児向けと侮るなかれ。子供にも分かりやすくかつ大人でも楽しめるストーリーに暖かみのある絵柄、個性的なキャラクター、世界観の作り込み、どれを取っても素晴らしい」


「俺はやっぱ主人公のニルが好き」


「私はやはり悪魔のヴィンだ。ニルをあの手この手で陥れようとする様は、悪辣でいかにも悪魔らしい」


「あいつ、表現が柔らかいから騙されるけど結構クズだよな」


絵本の内容を語り合う。空いた時間は博士と遊ぶことが多かった。本を読んだり、音楽を聞いたり、ボードゲームやカードゲームをしたりして遊んだ。


実験して、お菓子を食べて、遊んで、実験して、お菓子を食べて、遊んで……


そんな日常が終わったのは、炎のように暑い日だった。

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