別れ
「すまない!ここはわたしに任せてもらえないだろうか!?」
現れたのは、大怪我をした衛兵だった。頭や手足など全身に包帯が巻かれている。しかし、血の付着は見られず、松葉杖をつきながらも歩けているため、この戦いで負傷した人間ではないのだろう。
「エリアさん!?どうして…!」
「起き上がれるようになったんですか!」
「良かった…!」
周りの反応から見るに、どうやら随分と慕われている人間のようだった。
エリアと呼ばれた衛兵が二人に近づき、小声で告げる。
「…今は、わたしに捕らえられてくれ。恩人に手荒な真似はしたくない」
「いや誰だよ、あんた」
「わたしは──リピアの父だ」
「!!!」
少年は驚いた後、暫しの間目を瞑り──周囲に攻撃を仕掛けようとしているバケモノに『聖水』を浴びせた。
「キ゜ュッッッ」
「…分かった。今はまだ大人しくしておくよ」
「……すまない、町に入ったら、縄もほどく」
密かに言葉を交わして、エリアは少年の両手を縛った。『聖水』に悶えるバケモノは簀巻きにして担いでいく。
エリアを英雄のように讃える周囲に胸糞悪いものを感じながら、二人は戦地を後にした。
町に着くと、約束通りエリアは二人を解放した。
「それで、何で僕たちを──いや、違うか。あんたはあの場にいた人間を助けた、そうだろ?」
「あぁ、君たちは強い。特に、角が生えている彼はね。だが、恩人を人殺しにしたくないという思いもあった」
「律儀だね」
「そうでもないさ。改めて…娘を助けてくれてありがとう。──君たちは邪悪な存在ではなさそうだ」
「こっちこそありがとう。逃亡幇助って規則違反だろ?バレるとマズイだろうし、僕たちが暴れて逃げたってことにして良いよ。僕たちのせいで職を失わせるのは、リピアやナリアさんに悪いし」
「…理不尽の中、人を気遣えるとは……。優しいな」
「いや?あんたのお人好しっぷりが、僕の兄に似てたんだよ。それで思い出しちゃった」
迫害されていながらも、神を信じ、優しさを説き続けた少年の兄。自分を殴り蹴り、殺しかけた村の人間さえ、川で溺れていればその身を投げうって助けるような天性の善人だった。
「僕は家族を愛していたからね。同じように、良き家族を見ると応援したくなるんだ」
「君は……かなり大人びているな」
「理不尽な目に遭い続けたからかな?現在進行形で」
「それは……すまない。町の住民たちの非礼を代わって詫びよう」
「いや、冗談だから。あんたも真面目だね」
真顔で笑えないことを言う少年は、どこかがイカれている。
そう直感したエリアは黙した。指摘するのは失礼だし、何よりそこまで踏み込めるほど彼らは親しくない。
踏み込めるのは、きっと。
「この抜け道を真っ直ぐ行くと、港町に辿り着く。……さようなら!いつか、また会おう!」
「さよなら!」
「じゃーねー!」
バケモノと少年の二人旅は、続く。
一章完結!
少年がエリアの申し出にちょっと迷ってたのは、嘘の可能性を考えてたから
ただ心を読めるバケモノが近くにいるエリアじゃなくて、囲んでる人間たちを殺そうとしてたので、少なくとも悪意はないと判断した




