バケモノは恐れられるからこそ化け物である
その光景は、ある意味壮観だった。そして、ある意味絶望だった。
大勢の化け物をそれ以上のバケモノが単騎で殺戮していく。
戦場は焦土と化し、肝脳は地に塗れた。
過ぎたる畏怖はただの恐怖だ。
バケモノは進んで人間を殺そうとしないが、それを知らぬ人間にとっては恐怖の象徴でしかない。
「死にたくない…死にたくないよぉ……!」
「逃げなきゃ、遠くに、」
「逃げられるわけないだろ!?あんな化け物から!」
「もう終わりだ…アハハハ」
超常の力を以て蹂躙する様を見てしまった人間は錯乱した。次は自分なのだと恐れ、逃げ惑い、逃走すらも諦めて狂ったように笑い出した。
「何か悲惨だね。皆、大丈夫だよ。アイツは別に人を襲うわけじゃ──」
──ところで、その恐怖の象徴を御する希望の象徴は人々からどう思われるのだろうか。
「どうして、エクソシスト様があの化け物と一緒に…?」
「エクソシスト様は悪魔を殺すんだろ?」
「なら、何で……」
「──あぁ、そうか……」
ふと、何かに気づいたような声がした。
「エクソシスト様は、悪魔使いだったんだ……!」
「嘘…」
「エクソシストで悪魔使いって、そんなことあるの…?」
「そうとしか考えられないだろ…!敬遠なエクソシスト様なら、あの悪魔を見逃すはずがない!!」
「神の裏切り者だわ!」
疑惑は広がり、無責任な声が口々に言う。二人に助けられた身で、二人を糾弾する。
「年端もいかない少年が、魔物たちを殺せるのはおかしいと思ったんだ!」「おぞましい化け物どもめ」「お前も悪魔の仲間なんだろ!?」「俺たちが町を守るんだ!」「この町から去れ!!」
「「「「「消えろ!!消えろ!!消えろ!!」」」」」
「……ハー、やっぱ人間のこういうとこってクソだね」
「お前も人間だろ」
「僕も悪魔らしいよ?あの人たちにとっては」
軽口を叩いてはいるが、少年の腸は煮えくり返っている。この相手を知ろうともせず、盲目に迫害する様は故郷の村にそっくりだった。
二人が人間たちに囲まれる。まるで逃げ場はないという風に。
「ああもう、こいつら全員死ねば良いのに……!!」
そうは言うものの、少年には人間を捩じ伏せる腕力もなければ、大人数を殲滅するような魔法も使えない。『聖水』は悪魔や悪魔に憑かれている人間にしか効かない。
悪魔憑きは大抵理性を失う。彼らには理性があった。つまり、これは純粋な人間の狂気だ。
(人間の方が悪魔よりよっぽど外道じゃないか)
少年はチラリとバケモノを見遣る。
バケモノは静かだった。それこそ、恐ろしいほどに。
何かが思い出せそうだった。だが、周りがうるさくて思考が纏まらない。
人間を態々生かす趣味のないバケモノは、この思い出せそうで思い出せないイライラを発散しようと──
──する前に、
「すまない!ここはわたしに任せてもらえないだろうか!?」
陰鬱な空気を晴らすような、快活な声が響いた。
少年は人命に価値を見出だしてない。何なら自分に害を成す人間は殺す、くらいには思ってる。技能的に殺せるかは別。ちなみに、少年は村にいた頃から護身用にナイフを持ってる。一人二人なら殺ってた
バケモノの方を見たのは(飴で釣ったらこいつら殺してくれないかな…)と思ったから。殺してくれると思うよ




