エクソシストと悪魔
「ギュアァアアア!!!」
「ひ、ヒィ!」
竜の尾を持つ悪魔が衛兵に襲いかかる。衛兵たちも戦闘訓練はしているが、普段知性のない化け物を相手取ることがないため、恐怖に支配されてしまっていた。
「あーもう!衛兵ども!下がってろ!」
「雑魚しかいないのね!使えない!!」
怯え、縮こまった衛兵たちを見て、男女がそう吐き捨てる。彼らは魔物退治の専門家。この町では『退治人』と呼ばれていた。
退治人は魔物の間引きが仕事である。魔物の大量発生を確認し、いち早く報告したのも退治人だった。
とはいえ、「魔物が町に来ないようにするのが退治人の仕事である」という認識の衛兵からの不満は尽きなかった。
「だ、大体!お前らが仕事してないから、魔物が氾濫してるんだろ!?」
「ハァ!?」
「オイ!お前、何言って…!」
「ラルも、今はあんな奴らに構ってる場合じゃないだろ」
見当違いな恨み言を吐く衛兵と、それに突っかかるラルという女。それぞれ隣にいた衛兵と相方の男が押し止めるも、広がった不和が元通りになることはない。
ギスギスとした空気感、どこからか増える魔物、減った人間、悪化していく戦況。
地獄のような雰囲気では、改善されるものもされない。チームワークはゴミ箱に投げられ、協力の二文字はどこへやら。
疲弊した体と脳みそはカバーの足りない味方への怒りに変換される。
要するに、負け戦の典型だった。
「ゴギュゥアア……!!」
「ふー、一匹、倒せた…。もう!後何匹倒せば…!」
「ラル!危ないっ!避けろ!!」
「──ぁ」
そして緊張が緩んだそのとき、魔物の攻撃がラルに届く。
──ゴシャッ。
横薙ぎに払った腕が、ラルの頭を潰して飛ばす。魔物の進攻で体は踏み潰され、雪崩に巻き込まれたかのように消えていく。
「あ、あ、」
「ひっ」
残ったのは相方が死に、戦意喪失をしてしまった男。そして、魔物慣れしていない衛兵。
明らかな絶望だった。
後は、魔物たちが人間どもを片付けるだけ。
そのはずだった。
──ドゴォオオオン!!
地響きのような音がして、土煙が舞う。
新手の魔物──かと思いきや、煙の中から少年の声がした。
「オイ、バカおまっ!運んでくれとは言ったけど、戦場のど真ん中に置いてけなんて言ってないよ!!」
「いっぱい悪魔殺したいんだろ?ならいーじゃん」
「……確かに、それもそうだね」
二人分の声が、呑気に戦場で掛け合いをする。
そんな愚かな人間を咎めるように魔物が少年を襲う。
「グルルルルァッッッ!!!」
「邪魔」
しかし、愚かなのは、知能が足らないのは、魔物の方だった。鋭い牙を誇る獣のような魔物は『聖水』を掛けられ、悶え苦しみ、死を待つのみとなってしまった。
「…これ、苦しむやつと一瞬で消えるやつ、何が違ぇの?」
「僕は戦場で講義をするつもりはないよ」
「も、もしかして、エクソシストの方ですか…!?」
「ん?あぁ、そうだけど」
ワァッと歓声が上がる。世間でのエクソシストの評価を知らない少年と世間を知らないバケモノはその盛り上がりを理解していなかったが、悪魔と戦う者にとって、エクソシストは希望の象徴だった。
『聖水』を用いる者、『聖剣』を振るう者、『聖句』を唱える者。差異はあれど、彼らは等しく悪魔祓いのエキスパート。
一家相伝の技らしく、彼らの存在が希少なのだ。
だからこそ、民はエクソシストに縋りつく。
「どうか、どうかあの魔物──悪魔を殺してください!」
「エクソシスト様!我らの町をお救いください!」
「……たまたま町を訪れた旅人頼りって、防衛としてどうなの?言っておくけど、エクソシストの仕事は各個撃破だよ。広範囲殲滅は──アイツの仕事さ」
眼前に広がる圧倒的物量。地方の町一つ簡単に飲み込めるであろう大群を前に、バケモノは堂々と立つ。
「俺、飴欲しいからさ!!死ね!!!!」
言葉だけ見れば幼児のようだ。
しかし、何者をも切り裂く爪は、全てを噛み砕く牙は、伸縮自在の尾は、一度振るえば一切を壊す腕は、燃やし尽くす溶岩の脚は、あらゆるモノを打ち伏せる魔法は、
そして、徐々に現れるその正体は──
「──ば、化け物……」
悪魔がニタリ、笑った。
人化、解いちゃったね
『聖水』をぶっかけられて消滅するのは下位の悪魔、苦しむのは上位の悪魔って感じ。曖昧なのは下位・上位がそもそも人間が勝手に決めた区分だから。弱いやつが下位、強いやつが上位ってざっくり決めてるだけ
『聖水』を耐えられるかどうかも強さの基準の一つ。「熱い」で済んでる上に再生もできるバケモノはかなりの強さ
『聖水』自体に悪魔を苦しめる効力はない。が、少年製の『聖水』は「悪魔死ね悪魔死ね殺す殺す殺す殺す」と呪詛ばりに殺意(と八つ当たり)を込めながら作られたので無駄に苦しむ。『聖水』は祈りの結晶だからね。仕方がないね




