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深夜馬車大国なの?やっべぇ国来ちまったなぁ、おい(中編)


痛いしねえ、ね、ね、寝れないんだよ。

馬車でもう寝れないんだよ僕達。もうダメなんだよ。


壇ノ浦リポートは神がかってた





そしてその時はやってきた。


夜7時。アリサカ邸前━━


「さぁここから深夜馬車乗り場まで行きますよ!」


「「「おー!」」」


「おー…」


ヨシムネは大きいリュックを背負いながら、気だるげに手を上げた。


「ヨシムネ様!楽しみですね!」


キャロラインが鼻息荒く顔を近づけてくる。


「ソ、ソウダネ~…」


アマネは白いスカートと青いブラウスを着て、帽子をくるくると回してはしゃいでいる。


アナトは魔導端末板で馬車の時刻表と周辺地図を見ながら、何やらか怪しい機械を弄っていた。


(ねぇ、これ実験だよね??あのサイコロに掛かれていたの実は研究テーマか何かじゃない?)


「さぁ、出発です!」


アナトがいきなり駆け出した。


「ちょっ」


「あははは!楽しいー!」


アマネは大きな荷物を背負いながらも、軽々と走ってついて行く。


「ヨシムネ様は私が背負います!!」


「わっ!」


キャロラインがヨシムネを荷物ごと抱え上げた。


10分後、深夜馬車乗り場まで着いたヨシムネ一行は馬車の到着を待った。


そして、アナトが息を荒げながら講義を始める。


「イェン王国は馬車大国なんですよ!!人口当たりの馬車数は世界トップクラスなんです!!」


「へー!!」


アマネは目をキラキラさせながら、アナトの話に聞き入る。


「そして、主要な街道の安全は王国の強力な軍事力によって保障されています!」


「だ・か・ら!!深夜馬車が発達したんです!!馬車から見る夜空は格別ですよ!!」


(確かにいろんな意味で格別だったなアレは…安いからって休日の夜に深夜からの出張を命じた、あの会社はやっぱり頭がおかしかった)


(でも…この世界では普通の移動手段なんだろうな。ただバスの揺れからどれだけアップグレードしているか…)


パカラパカラ…


(どんな馬なんだろうなぁ…)


だが、来たのはウマとラクダが合体したような珍妙な生き物だった。


(?????)


『ブヒヒィン…』


「アナト先生…この生き物は…」


「ウマダです!」


「えっ?」


「ウマダです!!」


「あっハイ」


「…それじゃよろしくウマダ」


ヨシムネはウマダの顔を触ろうとした。


「ストォ―ップ!!!!」


アナトがいきなり叫び出した。


「ウマダはとてもプライドが高く、賢い生き物です!!信頼関係が無ければ迂闊に触ってはいけません!!めっ!」


アナトは腕で×マークを作った。


「あの…先生、向こうでアマネが普通に触ってますけど…」


「なんとっ!?」


アナトの眼鏡がキラリと光る。


「ふむ…そういう事ですか…」


「もしかしてスキルが…」


「そうです…!恐らく彼女の《万人敵》は動物、それも人の生活圏いる動物に対する、ある種の支配力があるのかもしれません…」


「やっぱりその《スキル》スゴすぎないですか…?」


「ええ。…古代世界で脅威視されたのも頷けますね…」


だが、アナトの脳内では別の仮説が立てられていた。


(寧ろ《スキル》の影響であって欲しい…もし、彼女自身の才能であればそれは…)

(いえ、これは仮説の領域を出ません。止めておきましょう)


「さ、荷台に荷物を載せて乗り込みますよ!」

「御者さん大人2名子供2名でよろしくお願いします!!」


「あいよ!ハクタ行きで間違いないかい?」


「はい!」


「じゃあ5分後に出発するぜ!」


(ついに…来たか!)


(しかし…外をひたすら見ているか、寝てれば大丈夫…!)


「あ。馬車の中では講義しますから、ね♡」


アナトがハートマークを手で作った。


(なぜだ)

(どうしてだ)

(終わりだ)


そして、地獄の96時間が始まった。


馬車に揺られる講義をされる事、30分。


馬車の揺れはバスとは比較にならず、ヨシムネの吐き気は既に限界へ達しようとしていた。


限界が来そうになる度に後ろから外へ目を逸らそうとするが、その度にアナトに胸を押し付けられて戻される。


キャロラインは完全におねむ状態だ。アマネは相変わらず元気で、妙にテンションが高い。


「せ、せんせい…休憩はまだですか…?」


「ん~まだ休憩まで5時間もありますよ!あ!今度は車軸と車輪の力学的な関係について…」


(完全に馬車の旅をナメていた。舗装が乱れている場所を通過する度に揺れが…)

(あ、あと意外と密着度高いし…!アナト先生は寝かしてくれないし、やばい…!)


(車軸と車輪より僕の胃と揺れの関係性を考慮してください、先生…!)


(というよりこの人なんで平気なんだ…!?旅慣れてるってレベルじゃないぞ…!)


「先生~!」


アマネが手を上げる。


「?なんでしょう?アマネさん」


「あの赤く輝いている星はなんですか!?」


(ナイスだ!アマネ!)


「ああ…あの星はディアブロスと呼ばれています」

「かつて《魔王》が自分の身体の一部を主神に封印された時、出来た星だと伝説では伝えられています」


ヨシムネは満天の夜空に赤く輝く星を見つめる。


「あの星は常に東を指し示している事から、旅人や商人達が旅をする際の目印にもなっています」


「へぇ~…でも身体の一部が無くなってしまった、まおうって人はかわいそうね…」


アマネが寂しそうに呟いた。


「かわいそう…ですか、中々面白い視点ですね!」


ヨシムネは吐き気をこらえながら手を上げた。


「先生…《魔王》は何故身体の一部だけ(・・)を封印されたんですか…?」


アナトは珍しくシリアスな表情になり、ヨシムネの眼を見据える。


「…遥か昔の話です。魔王は美しい女神で、人々に愛され尊敬されていたと言われています」


(女神…美しい…うーん…)


ヨシムネはストレスで酒に溺れる女神エンドルの姿しかイメージ出来なかった。


「ですが、主神が定めた掟に背き、その宝石の様に綺麗な赤い目を星として封印されたと言い伝えられています」


「主神が定めた掟ってなんですか?先生?」


「下界の人間と男女の関係になってはいけない、という掟です」

「ですが、女神はその掟を破り、人間の男性と駆け落ちしてしまいました」


「ろまんちっくなハナシね…」


アマネが赤く輝く星に手を伸ばした。


「その事を(うた)った詩もあるぐらいです。今度石碑を見に行きましょうか」


アナトはヨシムネ達に向けて微笑んだ。


「はい…!先生!」

「それと1つお願いがあるのですが…」


「?なんでしょう?」


アナトは胸を揺らしながら首を傾げた。


「道ばたで吐いてもイイですか?もう限界です」


ヨシムネは真っ青な顔をしながら、声を絞り出した。




アナト先生の手綱を握るのが一番大変

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