半年後(前編)
元ブラックリーマンは家庭教師とメイドと一緒に街の外に出る──
ヨシムネはアナトから、半年間あらゆる基礎教養と知識が詰め込まれた。
時には城壁の外へ出て、川で生態調査をしたり山でキャンプをしたり…。
そして勉学の後はキャロラインから優しく格闘技や護身の訓練を受け、1日の終わりにはボロボロになるのが常であった。
だが、彼にとってはまるで苦では無かった。前世のブラック労働とは違い、自らの意思で選び取った道である。
後悔などあるハズも無く、寧ろあっという間に楽しく半年間が過ぎて行った。
エゼルカは腹を空かしたヨシムネとキャロラインの為、自ら腕を振るって料理をしたりケンゾウは彼等の為に様々な便宜を図ったりした。
ヨシムネの身体と精神は着実に成長していく。
いや、精神はブラックリーマン時代の蓄積疲労がリセットされているかのようではあったが。
そして、3週間の旅を目前にしたある日。
アリサカ邸を尋ねる一人の少女が居た。
門の外から魔導遠隔ベルを鳴らし、屋敷からメイドが出て来る。
「御用は何でしょうか?」
背の高いメイドが少女に優しく尋ねた。
「…いますか?」
「えっと…?」
「ヨシムネくんいますか!!!?」
「わぁ、元気ね」
「ヨシムネ様なら後1~2時間でお戻りになる予定です。それまで屋敷で待っていますか?」
「はい!ありがとうございます!」
「お名前は?」
「アマネ・ウィンターフィールドです!」
「アマネさんですね。ヨシムネ様から聞いております。どうぞお入り下さい」
メイドが門の鍵を開けると、アマネは恐る恐るアリサカ邸へと足を踏み入れた。
「わぁ…スゴい落ち着く屋敷…」
「さ、そこのソファーに座っていて下さい。今、魔導電光板を点けますからね」
「飲み物は何が良いですか?」
「えーっと…お姉さんのお好みでお願いします!」
アマネは一瞬迷ったが、メイドに判断を委ねた。
「では南洋諸島産のコーヒーをお持ちしますね」
メイドはコーヒーを作りに行った。
(南洋諸島っていまいちピンとこないなぁ…地理はニガテ…)
アマネは足をパタつかせながら、電光板のチャンネルを変える。
「ぼっこぼこパム太郎でも見てようかな…」
アマネは人形劇を見始めた。
『ぼくパム太郎!』
(いつ聴いてもヘンな名前だなぁ…)
「コーヒーをお持ちしました。砂糖はお好みでお入れ下さい」
「ありがとうございます」
メイドがコーヒーのカップを乗せた皿と、角砂糖の入ったポットをテーブルに置く。
「ではヨシムネ様のお帰りまでのんびりとお待ち下さいね」
その背の高いメイドは一礼すると奥の部屋に引っ込んで行った。
(やっぱり家に居るよりこっちの方がずっといい…)
アマネは砂糖をコーヒーに溶かしながら、物思いに耽った。
(お母さん…止めもしなかったな…)
そうこうして居ると、ヨシムネがアナトやキャロラインと一緒に外から帰ってきた。
「あー楽しかった!」
ヨシムネは汚れた靴を扉の横のカゴに放り込むと、背伸びした。
そして彼は来客に気付く。
「あ」
「あっ」
(どうしよう…自分から言い出せない)
「来てくれたんだね、アマネ」
「え、ええ…きっ…」
アマネは顔と耳を真っ赤にして口籠もる。
「?」
「来てやったわ!」
場が一気に固まった。
(来てやったってナ二!?何言ってんの私!?)
「ようこそウチへ」
ヨシムネは汗だくになったアマネの手を優しく握った。
キャロラインはポカンとし、アナトがクスクスと笑う。
「じゃあ少し風呂に入ってくるから、もうちょっと待っててくれるかな?」
ヨシムネはアマネにその場でもう少しだけ待ってくれるように頼むと、屋敷の奥へと消えて行った。
アナトとキャロラインはその後をさも当然といったように付いて行く。
(え?え!?どういう事!?ウソでしょ!?!)
(王国商人の嗜みなの!?)
アマネは更に顔が赤くなり汗だくになった。
次回風呂のシーンやります
ずっとやりたかった
前は2人だったけど今回は3人だ




