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第二十七話

 ネムはラルバ男爵の幼少期について話してくれた。



 ラルバ男爵はこの家で、シルビアと言う女性と共にひっそりと人里から隠れ住むように暮らしていた。

 シルビアと言う女性は若く美しい女性で、ラルバ男爵を大切に育てていた。

 


 しかし、ある時妙な事に気が付き、その事をラルバ男爵はシルビアに問いかける。

 その問いとは、作物を育て、狩りで肉を取り、料理もするけど、シルビアはいつも何も口にせず、ラルバ男爵だけが食事をとっているのはどうしてか? っと言う問だった。

 その時はそう言うものなんだとはぐらかされたみたいだけど、青年となったラルバ男爵に突然シルビアは全てを告げた。



 自分は人間ではなく、人の生き血を吸う化物なんだと。

 そして、人間の赤ん坊だったラルバ男爵を拾い、今まで育ててきた事を。

 そして彼女は謝った。



 母乳もでないし、当時はこの辺りに家畜もいなかった。

 だから、赤ん坊の時に自分の血を分け与えて育てた事を。

 そして、そのせいでラルバ男爵は純粋な人間では無くなってしまった事を。



 彼女の様子は深く悲しんでいたそうだけど、ラルバ男爵は自分を育ててくれたシルビアを心の底から愛していた。

 ネム曰く、その愛は崇拝にも近しい感情であり、ラルバ男爵がその事をシルビアに告げた時、更に嘆き悲しんだと言う……



 それから数日後、彼女は扉の奥へと引き(こも)り、姿を現さなくなってしまった。

 


 それ以来ずっとラルバ男爵はこの扉を開く事の出来る人物を探し続けている。

 ネムがラルバ男爵と出会ったのが五年程前らしいけど、その時ですでに百年間は探し続けていると言う話しをしたみたい。



 もし、この扉を私が開く事が出来ると知られてしまったら、ネムでもラルバ男爵がどんな態度に出るか分からないみたい。

 


 事情はだいたいわかったわね。

 補足を加えると、シルビアはヴァンパイアでその血で育てられたラルバ男爵は眷属に近しい存在となったわけね。

 そして、そのシルビアは元は私と同じ世界にいた人間で、ヴァンパイアと言う種族には抵抗があったのかもしれないわね。



 それで、こんな辺境の地でひっそりと少しでも人間らしく暮らしていたのかもしれない。

 ラルバ男爵を育てたのは人間らしく生きる為だったのかも……



 関わらないって手もあるけど、同郷の人間がすぐ目の前にいるのなら……

 会うべきだと思うわ!

 それに、子供達が失踪しているのは……彼女が原因なのかもしれない。



 きっとネムもそう思ってあの時、事情を話さなかったんだと思う。

 どちらにしても、会って話せばわかる事だわ。



 「ネム、扉を開こうと思うわ!

  私にも彼女と会う理由があるから」

 「そうですか……分かりました。

  ですが気を付けて下さい。

  シルビア様は現在の旦那様ですら勝ち筋が全く見当たらないと言う程の強さを持っていた方らしいので、戦闘になりそうならすぐにお逃げ下さい」



 「この町、強い人ばかりね!

  用心しておくわ。

  それじゃ、開くわね。

  オープンセサミ! 開けゴマ!」



 私が呪文を唱えると、扉の封印が解かれ、ズリズリと岩を引きずるような音をたてながらゆっくりと開いて行く。



 扉が開ききり、中へ入ると、部屋の中央に棺桶があり、シルビアが愛用してと思われる私物や装備品が転がっている。

 シルビアは棺の中ね。



 って! ちょっと待って!

 私が棺に棺に触れると、勝手に棺が……!

 心の準備もまだ出来ていないのに!

 まあいいわ!

 出たとこ勝負よ!

 


 棺の蓋が完全に開きくと、中には美しい女性の姿が。

 この人がシルビアね。

 思っていたよりも凄く幼い感じね。

 見た目的には女子高生くらいかしら?



 っと言うか、私と違って凄く日本人の顔ね。

 髪も真っ黒でショートヘアだし、スタイルもスレンダーな感じ。

 棺は開いたけど目覚めないわね……顔を叩いたら起きてくれるかしら?



 棺の中へ手をいれてシルビアの頬を叩くと、ゆっくりと瞼が持ち上がっていく。

 ネムもダリアも警戒して武器を構えたわね。

 敵対するつもりは無いし、二人に「武器を下ろして」と声を掛ける。



 二人は武器を収めたけど、警戒は解く気はないようね。

 そんなやり取りをしている間に、真っ赤な瞳の少女が棺から体を起こしてこちらを見つめていた。

 敵意は無いみたいだけど、じっと私の瞳の奥を見つめている。



 「かっわいい! お姫様みたい! ねえ、ギュってしてもいい?」

 


 あら?

 なんだかとってもフランクな感じね。

 でも、この愛嬌のある眼差しと幼げな表情だから意外でもないわ。

 ちょっと気を張っていたから意表は突かれたけど、なんだかほっとしたわ。



 「別にいいけど、あなたはシルビアさん?」

 「うん! そうだよ! キャー! すっごい綺麗でスベスベ! 頭なでても怒らないかな?」



 女性でしかもヴァンパイアまで魅了しちゃう私の魅力が恐ろしいわ。

 冗談はさておき、色々と聞きたい事があるし、どうしようかしら?



 「怒らないわ。

  とりあえず、あなたとの再会をずっと待ち望んでいるラルバ男爵に会って貰えないかしら?」

 「再会? ラルバ男爵ってだれかな?」



 「ここであなたと一緒に暮らしていた少年だと思うんだけど……」

 「ああ、彼の事か。

  合わせる顔がない……なんて言える立場でも無いか……

  わかった。

  けどその前に、ここの扉を開いたのはだれ?」



 「私よ。 名前はアイラ・バーンアストライド。

  アイラって呼んで貰って結構よ!」

 「アイラちゃんね!

  私の事もシルビアって呼んで貰って構わないよ!

  っと言う事はつまり……ロアナと同じ日本人?」



 「ええ、その通り。

  あなたは違うのかしら?」

 「一応それっぽいものではあるけど、あたしは日本人とは言えないかな?

  事情はまた後で話すとして、とりあえず彼に会いに行こうか」



 シルビアは部屋の中に転がっていた物を棺の中へ入れて、その棺を服の中へとしまいこんだ。

 魔法かしら?

 便利そうだし、どんな魔法なのか聞いてみたいわ。



 ん?

 ふと、部屋の隅に目をやると、同じ形の片手剣が二本……

 何かしら?

 とってもいい感じの剣に見える。



 「アイラちゃん? それが欲しいの?」

 「あら? バレちゃった? 刀身が赤いし綺麗な剣ね」



 「誉めてくれてありがと!

  欲しいなら持って行っていいよ。

  でも、刃がかけたりしても放って置いたら勝手に直るから鍛冶屋には持って行っちゃ駄目だよ?

  あたしの血で作った武器だからね」

 「凄いわね流石はヴァンパイアと言った所かしら?」



 「うん……あたしが怖くないの?」

 「ええ、怖くないわ。

  だって、人の血を吸わないからこの辺境の地で暮らしていたんでしょ?」



 「そこまで理解してくれているんだ。

  ありがたい。

  それじゃあ、行こうか」



 外に出てみればもう夕暮れね。

 そう言えばヴァンパイアは日光が弱点だったりするけど、大丈夫なのかしら?

 何のためらいも無く外へ出て来たと言う事は、大丈夫みたいね。

 そう言えば眷属となったラルバ男爵も太陽が苦手って雰囲気じゃなかったし、この世界のヴァンパイアは日光が弱点には成り得ないのかもしれないわね。



 馬車にのって屋敷へと戻る頃には日が沈み、辺りは暗くなっていた。

 ぞろぞろと屋敷の中へと上がり込み、ラルバ男爵の私室ドアをネムが開いた。

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