第二十六話
ネムは急ぐ様子も無くどちらかと言えばゆっくりと、私の歩幅に合わせてダリアを迎えに屋敷の外にある門へと向かう。
「そう言えば、頼んでおいたジャービス第二王子への手紙、お返事はまだかしら?」
「ここから城までは遠いですからね。
それに、使いの者は場内へは通して貰えないでしょうし、返事を頂けるのはもう少し時間がかかるかと」
「そうなのね。
お父様がなんとか出来なかった時の為の保険のつもりでジャービス第二王子に助力を頼んだんだけど、うまくいかないわね」
「何か打つ手があると言うのならやっておいた方がいいでしょう。
まあ、ここにいる限りはアイラ様をヴァルボアに引き渡す様な事はしないので、ご安心下さい」
「ええ、信じてるわ!
それにしても、ラルバ男爵はヴァルボアの幹部なのよね?
どうして私の側につくのかしら?」
「旦那様はヴァルボアに何の関心も御座いません。
そもそも旦那様は、ヴァルボアからの抹殺対象でしたからね」
「そうなの?
じゃあなんでヴァルボアの幹部なんてやってるのよ?」
「ヴァルボアは何度も暗殺者を旦那様に向けて送ったのですが、旦那様が全て返り討ちにしてしまったので、ヴァルボアは旦那様を好待遇で幹部の座を用意して迎え入れたのです」
「へえー、断ろうとは思わなかったのかしら?」
「…………。」
「あら? 都合の悪い事を聞いちゃったかしら?」
「都合が悪いと言う訳では御座いませんが……
旦那様が幹部になってからしばらくして数人、行方が分からなくなった者が出ました。
それが全て、旦那様に暗殺者を差し向けた幹部の配下の者達で、その幹部だった人物もしばらくしてヴァルボアから姿を消しました」
「仕返しをしてやったわけね。
それを実行したのはネムなのかしら?」
「いえ、旦那様一人で全て片付けました。
爵位を貰う以前の旦那様は、凄腕のバウンティハンターだったので、その程度の相手でしたら私の手を借りずとも簡単にやってのけます」
「バウンティハンター?
賞金首を捕まえたりするのかしら?」
「ええ、懸賞金が掛かっている犯罪者を……捕まえるお仕事ですね」
たまに言い淀むわね。
どうしてかなんとなく想像出来なくは無いけど気を遣ってくれてるんだし、気にしないでおきましょう。
そして、どうやらダリアが来たようね。
こっちへ向かって馬車が遠くからやってくるのが見える。
ある程度の距離まで来ると、ネムが門を開き馬車を招き入れる。
「アイラ様!」
「ダリア! 久しぶりね!
いつも一緒だったから随分と会ってなかった様に感じるわ!」
「遅くなってしまい、申し訳ありません。
バーンアストライド閣下はヴァルボアに対して、アイラ様がアモンドの手によって攫われた事の責任を尋問されていて、色々と遅くなってしまいました」
「予定通りではあるわね!
それで、私が異端審問されるのは回避出来そうなのかしら?」
「まだその事には触れられていないですね。
信頼の出来る人物から陛下や貴族達に根回しをしたりしているので、しばらくすればヴァルボアが手出しできない状況を作る事が出来ると思いますのでご安心下さい」
「あらそうなの?
ジャービス第二王子への手紙は無駄になっちゃうわね」
「ジャービス第二王子をお頼りに?」
「そうよ、ジャービス第二王子は勇者ロアナの残した遺物なんかを研究の為に所持しているから、それの解読や力を引き出す事をすれば、私を魔女だなんて言えなくなるでしょ?」
「ええ……その通りですが、どうやってそれを証明するんですか?
確か勇者ロアナの残したとされる特殊な文字は何百年も解読の糸口すらつかめていないわけですし、無謀な策に思えるのですが……」
「この前お城へお邪魔した時に解読しちゃったわよ」
何かしら?
ダリアが黙って驚いているって言うより、一周回って心配している様な表情でこっちを見つめているわね……
私が疲れて真面な思考で話せていないとでも思ってるのかしら?
「本当の事よ?
どうしてそれが出来るのかはジャービス第二王子から禁止されているから言えないけど」
「冗談で言っているわけでは無いのですね。
それでは、今後ジャービス第二王子以外に、その事をお話するのはお止め下さい。
いいですね?」
「大袈裟じゃない?
今の所文字を読めるだけだし、たまたまそれが出来たってだけよ?
でも、まあ、ダリアがそう言うなら誰にも言わないわ」
「大袈裟ではありません。
世界を滅亡させる程の魔王を倒した勇者の残した遺物ですよ?
その遺物を隠し持つ者もいるんですから。
悪人にその事が知れ渡ったらアイラ様を攫おうとする輩が群がってきてしまいます」
ダリアの言う事は最もだわ。
勇者ロアナを信仰する人も沢山いるだろうし、私の考えが甘かったわね。
自分の事だから危機感とか薄れてしまっていたわ。
前世の父親がその魔王だったなんて言ったらとんでも無い事になりそう。
まあ、その話は確定って訳でも無いし、誰にも告げずに墓場まで持っていくつもりだけど……
「アイラ様……」
「ネム? まさか、私の事を奪おうってつもり?」
「いえ、その話が本当だと言うのなら、見て頂きたいものがあるのですが……」
「危険な物でなければ構わないわよ。
ダリアもいいでしょ?」
「ええ、アイラ様に危険が及ばないのであればですが……」
「危険ではないはずですが、万が一の為に万全の状態でアイラ様をお守りします。
他言もしないので、ご安心を」
ダリアは不服そうだけど、ネムが強硬手段に出た場合の方がリスクが高いからそれを警戒しているのね。
まあ、断ってもネムはそんな事はしないと思うけど、これって私の願望よね?
私が口を滑らしたのが悪いわけだし、これ以上ダリアを心配させられないわ。
ネムは私達を連れてラルバ男爵の元へ行き、少し出掛けて来る事を告げた。
そしてまた屋敷の外へと連れ出される。
外で待たせなかったのは、私の護衛って理由もあるけど、ラルバ男爵にも私の秘密は隠してくれるって意思表示強いかしら?
屋敷の外へ出てからネムは「少し遠いので」と言って私達を馬車に乗せ、馬を走らせる。
聖人アラジャの祠とは逆の方向。
小一時間程馬を走らせ、目的の場所へと辿り着いたみたい。
ネムに手を引いて貰い、馬車から降りると、小さな家が一つだけポツンとあるだけ。
近くには何も無く、少し先に森が見えるくらいね。
「ここに私に見て欲しいものがあるのかしら?」
「ええ、この家の地下にあるので、ご案内致します」
ネムは仮面を外し、小さな家の中へと私達を招き入れる。
埃の匂いもするし、人が生活している様には見えないけど、家の中は綺麗ね。
ネムだと思うけど、誰かがここにきて掃除をしているんだわ。
ネムは迷う事も無く奥へと進み、地下へ続く階段へと案内する。
木製の家だけど、地下は石作りで、階段を下りるとひんやりとした空気に包まれる。
地下の部屋へ入るとカビの匂いがする。
湿気が多いのね、壁の隅には少しだけ苔も生えている。
魔法陣の描かれた扉以外には、特に何もない部屋ね。
「アイラ様にはこの扉の封印が解けるのかを試して頂きたいのです。
扉に文字が刻まれているでしょう。
読む事が出来ますか?」
扉をよく見ると……うん、日本語で文字が刻まれているわね。
なになに……『シンドバッドの冒険で扉を開く呪文を唱えよ』って書いてあるわね……
ん-……たぶんあれだと思うんだけど、あれってシンドバッドだったかしら?
アリババ……まあ、開けばなんでもいいわ。
「読めたわよ。
扉を開く事が出来ると思うんだけど、やっちゃっていいのかしら?」
「まさか本当にこの扉を開く事が出るんですか?
となると……どういたしましょうか。
この扉の先に危険が待ち受けている可能性は御座います。
そして、旦那様がその事を知ればアイラ様のお命も危ない……」
「ああ、ラルバ男爵の言っていた彼女がらみなのね。
ん-……ちなみにもしラルバ男爵が私を殺そうとしたらネムは私を守ってくれるのかしら?」
「守ろうとはしますが不可能ですね。
一対一で戦えば私が勝ちますが、旦那様がその気になればアイラ様をお守りする事は出来ません」
「血を操る魔法で殺されるって訳ね。
もう少し事情を話して貰えるかしら?
差支えの無い範囲でいいわ」
「わかりました。
それでは、少し長くなりますがお話致しましょう」
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