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第二十五話

 仮面を被り、アモンドと共に応接室のドアをノックして中へと入った。

 テーブルを挟んで、ラルバ男爵と、客人が座っている。

 

 ラルバ男爵の隣にはネムが直立不動の姿勢で立っていて、アモンドがスッとそのネムの隣へと移動したので私もそれについていく。



 「使者殿。

  つい最近、私の元へとやってきて召使いとなった二人だ。

  どうだろうか?」

 「ど……どうだろうと聞かれましても……

  その……先程こちらで探している……と言っていた二人、なのでは?」



 「バーンアストライド公爵御令嬢のアイラ様と、そのアイラ様に魔法を教えているアモンドだと言いたいのかな?」

 「ええ、違うのですか?」



 「ハッハッハ、私が仮面を被せる意味を知っているのだろう?

  バーンアストライド公爵御令嬢相手に、もしも私がそんな事をしたら、どうなるのだろうな?」

 「確かにそうでしょうが……我々が捜索している二人では無いと言い張るおつもり……ですね?」



 「断言しよう。

  この二人は決して使者殿のお探しになっている二人では無い」

 「そ……そうですか。

  ですが、もしもその二人がこちらの探し人で会った場合は……

  あなた様の立場が危ぶまれる事となりますよ?」



 「面白い事を言う。

  私がいつ立場などと言う下らない物を気にした?」



 ラルバ男爵がスッと席を立ち上がり私の横に立ち、肩に手を掛けたと思った瞬間、地面へと寝転がされていた!

 ドンッと言う音がなったから地面へ叩きつけられた……みたいな感じね。

 全然痛くないし、ドンッて音はラルバ男爵が自分で床を踏みつけた音。



 アモンドがすごく慌てているけど、ネムがアモンドの背に軽く腕を当てて制止している。

 


 「さて、使者殿の推察通り、この少女がアイラ様であったと仮定しよう。

  フハハ、仮面を剥ぎ取り、どの様な姿をしているのか見せてやる。

  アイラ様で無かった場合には、この少女の代わりに、君に私の仮面を被って貰う事にしよう」

 「待って下さい!

  今すぐここから出て行きます!

  本部の方へは何の足取りも掴めなかったとお伝え致します!

  どうか、お怒りをお鎮め下さい!」



 「私にこの(たぎ)った血を沈めろと?

  立場……そう、立場をわきまえた方がいいのではないか?

  使者殿、私は今、血を欲している。

  構わないじゃないか、私の仮面を被り、苦痛も、重苦(じゅうく)も、苦悩(くのう)も、何もかも喜びに変えてやる。

  だからこの少女をこれから甚振(いたぶ)るのをそこへ座って黙ってみていろ」

 


 ヴァルボアの使者は恐怖からか、席を立ち上がり、部屋から逃げ出そうとしているけど、ドアが閉まっていて出られない。

 


 何よこの茶番。

 普通に部屋でアモンドと待機していれば、何事も無かったんじゃないのかしら?

 ネムが倒れている私の前でラルバ男爵に向かって膝をつき「旦那様、この者はまだ年端もいかない少女。 ご容赦を……」と言って深く頭を下げる。



 なるほど、ネムもこの茶番に付き合うつもりね。

 それなら私も協力しようかしら?

 何を言って良いのか分からないし、とりあえず「この仮面を剥ぎ取るのだけはご容赦下さい」と、消え入りそうな声を押し出すようにだけ呟いておいた。



 嘲笑(せせらわら)うラルバ男爵はネムの頭に足を乗せ「いつから人の言葉を話せるようになった? 家畜らしい振る舞いをしろと命じてあったはずだが、貴様は何をしている?」

 ネムが「申し訳御座いません」と口に出そうとした瞬間にラルバ男爵によって側頭部を蹴られ、ネムは床へ倒れ込んでしまった。



 「家畜がしゃべるな」



 あら、この二人ってそう言う関係?

 SMってあんまり興味がなかったけど、ふーん……そうなのね。



 ラルバ男爵は「興が削がれた」と呟き、応接室のドアを蹴ってこじ開けた。



 「使者殿、この扉は建付けが悪くてね。

  お帰りになられるのなら、どうぞこちらから」



 その言葉を聞いて、ヴァルボアの使者は逃げ出すようにその場から立ち去って行った。

 ネムが立ち上がり、私に手を差し伸べて来たので、その手をとって私も立ち上がる。

 


 「こういうのが好きなんだったら最初から説明して欲しかったわ。

  それにしても、体術が得意なのね。

  体が横になった事さえ気が付かなかったわ」

 「別にこういった演出が好きというわけでは無いのですが……

  あれを体術だと思ったのですか?」



 「あら? それじゃあなんでこんな茶番をしたのよ?

  それに、引っかかる所ってそこなの?」

 「まあ、私は血を操る特殊な魔法を使うのでね。

  そのせいでとても恐ろしい人物だと組織の人間には思われている。

  ネムが普段から仮面を着けているせいで、妙な噂まで出回っているそうだ。

  ああいった演出をすれば、余程の人物でなければ今後ここを訪れないでしょう。

  体術に関しては、あの様に床に転ばせれば普通は魔法を使ったのだと思われるので」



 「確かに全然痛みも無いし魔法みたいだったわ。

  でも、似た様な事が出来る人を私は知っているから体術だと思っただけよ」

 「成程。

  その人物に関心があります。

  機会があればお会いさせて頂けますか?」



 「たぶん無理ね。

  もう二度と会えないと思うから」

 「それは失礼。

  先程の言葉はどうかお忘れください」



 「大丈夫よ。

  まあ、もし出会えたらラルバ男爵の事を紹介するわね」

 「はい、心待ちにしておきます」



 「血を操る魔法なんてのもあるのね。

  ヴァンパイアみたい。

  血を吸いたいとかって思わな……いわよね?

  どうしたのかしら?」

 「血を……吸う?

  なぜ、そう思った……?」



 あら、余計な事言っちゃったみたいね。

 ずっと余裕のある態度だったラルバ男爵が少し動揺しているわ。

 でも、この世界に吸血鬼伝説なんてあるのか分からないし、なんて答えようかしら?

 うーんっと考えている内にラルバ男爵が私の両肩を掴み、じっと私の瞳を見つめる。

 やだ、急に迫られると緊張しちゃうじゃない!

 とか考えている余裕は無さそうね。

 ネムが仮面を外している……危険な状態かもしれない。



 「アイラ様、お答えください!

  彼女と面識があるのか?」

 「彼女?

  何を言っているのかわからない。

  一旦落ち着きましょう」



 私がそう言った瞬間肩を握っていたラルバ男爵の指がギュッと食い込み、痛みが走った。

 でも、その直後にネムがラルバ男爵を私から引きはがし「旦那様、アイラ様は何も知らない」と言ってラルバ男爵を椅子へと座らせる。



 ふう、危険は去ったって事でいいのかしら?

 ラルバ男爵は血を操る魔法を使い、吸血する女性の事を知りたがっているんだと思うけど、そんな女性は知らないし、厄介事に首を突っ込むのも良く無いわね。

 


 「ごめんなさい。

  私ったら何か、惑わせるような事を言ったみたいね。

  吸血するって言ったのは、単純にそういう物語を昔聞いた事があるからってだけよ。

  そう言った人との面識なんてないわ」

 「私の方こそすまない。

  いや、申し訳御座いませんでした。

  危うく、取り返しのつかない事を……」



 「そこまであなたを衝動的に駆り立てる事情があるのよね?

  それなら仕方がないわ。

  協力出来る事があれば言って頂戴。

  言いたくなければそれでもいいわ」

 「わかりました。

  アイラ様がヴァルボアとの関係を改善出来れば、その時にでもご相談するかもしれません」



 「いいわよ!

  是非私を頼って!」

 「アイラ様、以前こちらへと来られた時に共に居たダリア殿が近づいている様です。

  私がお迎えに上がりますね」



 思ったより随分遅い到着ね。

 ダリアの事だからここへ来た次の日には来てくれるのかと思ってたけど、厄介な事でも起こっていたのかしら?

 

 

 でも、久しぶりにダリアに会えるのは喜ばしい事だわ。

 私もダリアのお迎えをする為にネムの後について行った。

お願い。


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