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第二十一話

 「どうぞ」とドアの向こうにいる人物へと声を掛けると、中に入って来たのはやっぱりネムだった。



 「アイラ様は主の大切なお客様ですので、手伝って頂くような事は何も御座いません。

  ですが……お暇だと言う事であれば頼みたい事が一つだけあるのですが」

 「ええ、とっても暇よ!

  遠慮なく言って頂戴!」



 「ここから真っ直ぐ北へ向かった先に高度な魔法による結界の張られた(ほこら)が御座います。

  そこには聖人アラジャと言う人物がいるのですが、魔力不足に陥っているので、結界の維持が難しい状況で御座います。

  そこで、その場凌ぎでも良いので、アモンド殿の魔力を分け与えて頂けるとこちらとしては非常に助かるのです」

 「あら? 私にじゃなくてアモンドに頼みたいのね」



 「ええ、引き受けて頂けますか?」

 「いいわよ。

  それじゃあ、早速アモンドを連れて行ってくるわね!

  そう言えばこの辺りには狼が出るんだったかしら?

  剣を一本頂けるかしら?

  レイピアでもなんでもいいんだけど」



 「すぐ御用意いたします」



 ネムと一緒に部屋を出て、アモンドを部屋から連れ出して屋敷の門へ行くと、ネムがレイピアを一本持ってきてくれた。

 私がそれを腰に携えると、ネムは「アイラ様が剣を握るのですか?」と少し驚いた様に尋ねてきたから、「剣術は少しだけ得意なのよ」と言って、屋敷の門を潜った。



 門を出てからアモンドに事情を話し、二人で歩いて北にあると言う祠を目指す。



 「聖人アラジャと言う偉人の話しは聞いた事は無いですね。

  何に対して結界を張っているのかは聞いていないのですよね?」

 「ええ、さっき話した通りの事以外には何も聞いていないわ。

  ネムからそう言う事を言わなかったって事は、私達がそれを知る事は重要ではないんだと思うし、気にする必要はないと思うわ」



 「そうですか……

  ところで、アイラ様は何故ラルバ男爵の事をあの様に信用なさるんでしょうか?」

 「単純な事よ。

  彼が協力してくれると言ったのだから、そうしないわけが無い。

  何故か分かる?」



 「アイラ様に何かあればバーンアストライド公爵が黙ってないと言う事でしょうか?」

 「ん-どうかしら?

  たぶん、ラルバ男爵が私達を裏切るつもりならお父様なんて関係なく事に及ぶわ。

  一度ネムには殺されかけているしね」



 「あの男に!?

  何があったんですか?」

 「()()然然(しかじか)よ」



 アモンドに以前ここへ来た時に何があったのかを一通り説明する。

 


 「そういう事ですか。

  あのネムと言う男の力は絶対的で、優れた感覚器官により逃れる事も不可能と……

  どうする事も出来ないのだから信用する道以外なかったというわけですね」

 「少し違うけど、そんな感じね。

  ラルバ男爵から協力してくれるって言ったんだから、そうしない理由がないってだけよ」



 「成程、分かりました。

  自分は、アイラ様を信用します!」

 「それでいいわ!

  ところで、北へ真っ直ぐ歩いた所に祠があるって言ってたけど、草原が広がるばかりで何も見えないわね」



 「前方に小さく見えるあれではじゃないでしょうか?」

 「ん-……本当ね!

  何かあるわ!

  きっとあれがネムの言っていた祠に違いないわ!」



 歩いてそこまで行くと、目の前に小さな祠がある。

 でも、聖人アラジャと言う人物の姿は何処にも見えない。

 


 「誰もいないわね」

 「ええ、待っていろと言う事でしょうか?」



 「呼んだら出てきてくれるかしら?」

 「この小さな祠からですか?

  人の入れる大きさではないですね」



 ものは試しと、「ラルバ男爵の遣いよ、聖人アラジャさん出てきてくれるかしら?」と大きな声をあげてみると……

 周囲が少し霧がかりひんやりとした空気に包み込まれる。



 「彼の遣いか、どの様な要件か」



 声の方へ振り返ると、ローブを着た骸骨が立っている。

 背中からアルファベットのUの形をした骨の翼の様なのを背負っている? 妙な見た目の骸骨だけど……

 この骸骨が聖人アラジャって事よね?



 アモンドは少し驚いている様ね。



 「結界を維持する為の魔力不足だって聞いて来たのよ」

 「ほう、魔力を供給しに来てくれたのだな。

  それは助かる。

  この球に手を(かざ)せば魔力の供給が出来る。

  やってみてくれ」



 アモンドに目で合図を送ると、聖人アラジャが持っている球へと魔力の供給を始める。

 球が光り出し、アモンドが(かざ)した手を引くと光は収まった。

 


 「うむ、これだけあれば一週間はやりくり出来る。

  疲れてはおらんか?」

 「少し疲れましたが、大丈夫です」

 「その球はまだまだ魔力を溜めれるのかしら?

  私も魔力を供給するわ」



 「お嬢ちゃんも魔法が使えるのか。

  それじゃ頼むとしよう」



 聖人アラジャの持つ球に、アモンドがやった様に手を(かざ)す。

 あら? 私が手を引いていないのに、聖人アラジャ球を引っ込めちゃった。



 「お嬢ちゃんは凄い魔力量を持っておるな。

  お陰で当分の間は結界の維持が楽になったよ」

 「力になれて光栄よ。

  失礼かもしれないんだけど、聞いていいかしら?」



 「ああ、ええよ。

  なんでも聞いてくれ」

 「あなたって、人間なの?」



 「ああ、聞いておらんかったか。

  儂は結界を維持する為にここにいるアンデットじゃよ。

  生前の記憶なんて殆ど残っておらんから経緯は話せんが、悪い奴では無かったと思う」

 「そうなのね。

  それじゃあ、この祠は何を守っているのかしら?」



 「鬼を封じておる。

  決して目覚めさせてはならん鬼じゃよ。

  記憶は失ったが、その事だけは色濃く覚えておる。

  それ以外の事は失ってしまったから、答えられんがのう」

 「恐ろしい話し……なのかしら?

  この辺りで子供達あ失踪するのもその鬼のせいなのかしら?」



 「子供達が?

  そりゃ大変じゃな。

  じゃが、ここの鬼とは無関係だと思う。

  ここでは数百年何も変わった事は起きていないからのう」

 「そう、ありがとう。

  それじゃあ、私達は戻るわね」



 「ああ、魔力を消費しているんじゃし、気を付けてな」



 聖人アラジャに見送られ、アモンドと一緒に来た道を引き返した。

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