第十六話
開眼式はおそらく勇者が始めた事なんでしょうけど、なんだか色々とごっちゃになってるわね。
とりあえずお焼香を済ませてみたけど……開眼したとか新しい力に目覚めた感じはない。
「カイン、この後は何をするのかしら?」
「他の子達が終わった後、皆でお祈りをして、獅子の人形に頭を噛んで貰うんだ。
資質があるならその時に開眼されるよ」
今度は獅子舞?
日本人である勇者がこの国にもたらした文化なんだとは思うけど……
少し、痛々しいと思ってしまう。
彼女は故郷に戻りたかったのかもしれない。
それとも、この世界に同じ文化のようなものを育みたかったのかしら?
「カイン、勇者の事についてお話して貰えるかしら?」
「いいよ。 獅子の人形が登場して来たし、それが終わったらね」
「ええ、楽しみにしているわ」
あれが獅子の人形……?
獅子舞っぽくもないし、ライオンっぽくもない。
爬虫類っぽいのよね。
派手な色のエリマキトカゲって表現がしっくりくる。
獅子舞と同じようにエリマキトカゲの被り物を二人で被り、踊りながらこっちへ近づいてくる。
そして私の目の前まで来た獅子?は、パコパコパコ!っと歯で音を鳴らした後、私の頭を噛んだ。
そしてエリマキトカゲは次の子の方へ踊りながら向かっていく……
あら、小さな子は怖くて泣いている子もいるわね。
私も小さい頃は獅子舞が怖くて泣いちゃった記憶がある。
一度しか見た事が無いし、あまり記憶にも残ってないから懐かしさを感じる事もないけど、勇者はこれを見てどんな風に思ってたのかしらね?
それにしても、なんだかおでこが熱いわ。
「アイラ様、どうかな?
目覚めていれば額のあたりに熱を感じるらしいんだけど」
「そう言う事ね。
風邪でも移されたのかと思ったけど、そう言う事なら目覚めているみたいだわ。
でも、どんな能力なのか全然わからない」
「能力に関しては熱が冷めるとなんとなく理解出来るらしいよ」
「本当? どんな能力が芽生えたのか楽しみね!
それじゃあ、勇者の話し聞かせて貰えるかしら?」
私がそう言うとカインは簡潔にだけど、勇者の物語を教えてくれた。
勇者ロアナ。
世界に魔王が現れ、滅亡の危機から救った大英雄。
彼女は生まれながらにして全てを持っていた。
誰もが一目見て彼女が偉大なる人物なのだと悟り、皆が彼女の声に従った。
ロアナは魔王を討ち滅ぼすべく旅を続け、犠牲を出しながらもついには魔王を討った。
そして、彼女は平和な世界でその生涯を家族と共に過ごした。
ううーん……簡潔に聞いただけだと良く分からないわね。
でも、生まれながらに全てを持っていたってのが本当なら私は勇者じゃないわね。
まあ、物語なんて脚色されてるものだし、完全にそうだとも言い切れない所ではあるけど。
「勇者ロアナは、幸せだったのかしら?」
「ん-……物語だととても幸せだったみたいだけど、僕じゃ分からないかな?
ガラティア辺境伯に聞くと僕よりは詳しく教えてくれるかもしれないよ」
「そうなの?
シャルールは何か勇者との繋がりがあったりするのかしら?」
「ガラティア家は、勇者ロアナの血が流れているとされているから何か知っていると思うよ。
教えてくれるかは分からないけどね」
「あら、勇者の家系なのね。
でも、ちょっと歯切れが悪い感じがあるのは何故なのかしら?」
「勇者ロアナの物語は数千年前の話しだからね。
ちゃんとした年代も解っていないくらい古い物語なんだ」
「証明が出来ないって訳ね」
それに、数千年前の物語……か。
それなら現在に残っている話を聞いてもあまり当てにはならなさそうね。
ちょっと気になっただけだし、それならそれで構わないわ。
おでこの熱も冷めて来たみたい。
そろそろどんな能力かわかるかしら?
おでこの熱いと感じた部分に意識を集中してみると、頭の中で何かが開かれた。
これが開眼……なんだか良く分からないけどフワッと来たわ!
痛くはないけど、かき氷食べた時みたい!
新たに目覚めた私の能力……意識を異空間に転送する事が出来るみたい?
なんなのかしら?
試すには落ち着いた環境じゃないと危ないかもしれないわね。
「カイン、私ね――」
「ストップ」
あら? どうしたのかしら?
慌ててカインが私の言葉を遮り、唇に指を当てる。
そして徐に私の方へ顔を近づけて……あら?
キスされるのかと思ったら耳打ちね。
「能力の事は人前で言わない方がいい。
馬車の中で……いや、僕にも言わない方がいいかもしれない」
「ふーん。 成程ね。
でも、カインに聞かれても問題無いとおもうわ!」
「そう、でも、それを初めに聞くべき人はアイラ様の事を一番強く思っているバーンアストライド公爵だよ。
話すかどうかはその後、決めればいい」
「んもう! 心配症ね。
でも、私の能力しだいでカインは悪い子になっちゃうのかしら?」
「僕は子供じゃない。
それに、良い人でも……ない」
「いいえ、断言できるわ!
カインは良い人よ」
「ありがとう。
でも、いつか……」
「来ないわ。
そのいつかはこない。
だって、私はあなたの事を赦すと思うから。
胸を張って生きなさい!
強くなったと思ったら私になんでも打ち明けなさい!」
カインには何か裏の顔があるのだと思ってはいたけど、罪の意識に苛まれているようね。
そう思う時点で彼は人の痛みの分かる人間。
いつだって良い人になれるのよ。
だから、強くなりなさいと背中を叩いた。
心なしか、カインの目が涙ぐんだように見えた。
カインはその後、何も語らずに私を連れて寺院の入り口へ向かった。
「アイラ様!」
「リリティア!」
寺院の入り口から出ると、突然名前を呼ばれたので振り返ると彼女が居た。
さっきはすぐに儀式が始まっちゃったから、気に留めなかったけど、この子凄い美人ね。
手足も細くて長いし、健康的な肌。
ライトグリーンの瞳に、プラチナブロンドのポニーテール。
少し大人っぽい感じの美少女。
まさに英国美少女って感じの外見!
あら? なんかモジモジしているわね。
声をかけたのはいいけど、どう話を切り出していいのか分からない感じ?
嬉しそうな声のトーンだったし、もしかしたらリリティアは能力に目覚めて、開眼していないかもしれない私に気を使っているって所かしら?
「私は無事、開眼に成功したけど、リリティアはどうだったかしら?」
「おめでとうございます!
私も開眼致しましたわ!」
「おめでとう。
私はどう扱うのかよく分からない能力だったけど、リリティアはどうだったのかしら?」
「きっとアイラ様の能力は素晴らしい能力に違い無いですわ!
私の能力はとても利便性は良さそうです。
それ故にあまり当てになる能力とも言えないと言った感じですわね」
「利便性が良いと言う事が分かっているならいくらでも使いどころはあるし、きっと思い描いている以上の使い道なんて沢山出来ると思うわ!」
「ええ! きっとその通りですわ!
近いうちに必ずお屋敷へお伺いします。
その時は椅子に座ってゆっくりとお話しましょう」
せっかちというわけでは無さそうだし、本当に忙しそうね。
私に礼をした後、急いで馬車の方へ向かって行ったわ。
私もカインと共に馬車へと乗り込む。
カインに、少し集中するからと言って体を預けて意識を額へ向ける……
ストンと体が何処かへと落ちていくみたい……
いつの間にか閉じていた目を開くと、知らないお店の前へと着ていた。
見た感じは小さな小屋だけど、ちゃんと看板が立っていて、何かのお店で間違いないはず。
看板には『マテリアルショップ ロキシーロキシー』って書いてあるわね。
原料や素材を売ってるのかしら?
周りにはこのお店以外何も無いみたいだし、とりあえず入ってみましょう。
ドアを開けるとカウンターがあり、そこに立っているのは……ハジビロコウね。
首から下は人間だけど……ダンディーな声で「いらっしゃい」と言ってお辞儀をしてくれたので私も釣られてお辞儀をして「どうも」と返すと、ハシビロコウの人はカタカタと嘴を鳴らし始めた。
「ここはマテリアルショップロキシーロキシー。
店主のロキシーロキシーです、どうぞ御贔屓に。
今日はどの様な商品をお求めで?」
「私はアイラ。
生憎だけど、ここで使える通貨を持ち合わせてはいないわね」
「通貨ならお持ちですよ。
ここでは、魂とその思い出が通貨になります。
この様に」
そう言ってロキシーは私の胸の中から光り輝く丸い何かをスッと取り出した。
「それは何? 私から何を奪ったの?」
「先程言った通り、魂とその思い出。
あなたを思い死んでいった者の魂の記憶の一つです」
「返して頂戴!
どんな思い出でも私にとってはそのどれもが大切な宝物なの!
誰かに譲るなんて絶対に出来ないわ!」
「勘違いしないで頂きたい。
ここでは大切なものを奪ったりは致しません。
これはあくまであなたを思って死んでいった者の浮かべた記憶。
それが通貨となった姿に過ぎません。
本当に大切なものはあなたの中でずっと残ってますよ」
「どういう事?
実質私は何も失わずに買い物が出来るって事かしら?」
「ある意味ではそうかもしれませんね。
ただ、お手持ちに限りがある事をお忘れなく」
私を思って死んでいった人達の魂の記憶が通貨と言うのなら、限りがあるってのはそう言う事なのね。
商品がなんなのか分からないけど……あんまりいい気はしない。
だってこれってまるで……
カインから聞いた勇者ロアナの話しが私の頭の中にふと過った。
『ロアナは魔王を討ち滅ぼすべく旅を続け、犠牲を出しながらもついには魔王を討った』
まさか……ね……
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