第十三話
屋敷の外はひんやりしていて、とても静か。
月明りだけでもそれなりに当たりの様子を目で確かめる事が出来る。
執事の人がランプに明かりを灯すと、私に向かって質問を投げかけてくる。
「散歩という事ですが、私がこの辺りをご案内致しましょうか? それとも、何処か行きたい場所などあればそちらへご案内致しますが?」
「そうねぇ……」
後ろから着いてこられるより、先導してもらった方が逸れやすいわね。
「それじゃあ、少し離れた場所まで案内して貰えるかしら?」と言って、執事の人を先に行かせた。
「執事さん? 今更だけどあなたの名前は何て言うのかしら?」
「私に名前などございません。 旦那様にはネムと呼ばれております」
「どうしてネムなのかしら?」
「名無しと言う意味があるそうですよ」
ネムと会話しながら様子を窺ってるけど、私が足を止めれば必ずネムも足を止める。
振り向く事も無くそうしているのだからやっぱり視覚以外の感覚で周りを見ているのね。
ダリアの方へ目配せをしてみたけど、ダリアも打開策はないみたい。
それなら本人に直接聞いた方が早いわね。
「ネムの仮面は前が見えないみたいだけど、どうやって周りを見通しているのかしら?」
「音、匂い、体で感じる空気の流れ、あらゆる感覚で感じ取る事が出来ます。 特に常人であれば無音だと感じる中でも、私は常に僅かな音の跳ね返りを感じ取る事が出来ますので、仮面を被った状態でも常人よりも視界は広いと言えるでしょう」
「そう……それじゃあ、ネムに気付かれない様にこっそりといなくなるなんて事は出来ないって事かしら?」
「出来ませんね。 時折静かに立ち止まっているのはそういう事でしたか?」
「そうよ。 この町では突然子供達が失踪していると聞いているわ。 それも一人の時に。 だから私が囮になって助けて上げたいって思ったの。 それだけ優れた感知能力があれば心強いわ! 協力して貰えないかしら?」
「残念ですが、屋敷に戻りましょう」
「どうして? 子供達の失踪を食い止めたくないの?」
「私が仮面を着けている理由ですが、それはあまりにもよく見えてしまうから視界を閉ざし、聞き取れる音や匂いにも制限を掛けているのです」
「つまり……ネムには子供達が失踪する原因が分かっているのね?」
「ええ、故に屋敷に戻る、と伝えました」
思っていたよりも厄介そうね。
ラルバ男爵の話しではネムは兵士達が束になっても敵わない程強いみたいだし、そのネムが分かっていて放って置くって事は、ネムが太刀打ち出来ない相手なのか、それともすでに解決に向かっていると言う事かしら?
ネム……もしかしたらラルバ男爵が黒幕なんて事もあるのかもしれない?
「良い方向に進んでいると言う事では無いのかしら? ダリアは強いわよ?」
「はい、関われば死にます」
「もしかして、あなたはそれに対抗する為にラルバ男爵の元へ?」
「いえ、何故その様に思われたのですか?」
「ここへ来る前、ダリアから子供達が失踪している事件があると聞いていたわ。 バイシタル王国では民が犠牲になっていると言うのなら少なくとも兵を送ったりなんかしていると思うのよ。 でも、ここにはそれらしき人物は見当たらない。 それってラルバ男爵から救援はいらないのだと伝えているのだと思うのよ。 違うかしら?」
「…………。 屋敷へ戻って頂けますか?」
「嫌よ! 王国貴族として私はこの問題を解決するつもりよ! これ以上未来ある子供達を犠牲にするなんて見過ごせ……な、何!?」
ゆっくりとネムは鉄の仮面を外した……
白銀の瞳、そして銀色に光る髪。
一瞬で空気が凍り付いた様な殺気に包まれて動けない!?
剣聖シャルールでさえこの怪物を目の前にすれば霞んで見えるのだろうと直感的に感じてしまった。
ダリアは呼吸を荒くして、ガタガタと震えながらも剣を握る。
でもそれだけしか出来ない。
今のネムを目の前にすれば何をしても無駄な事を悟っているんだわ。
例えるなら、迫りくるマグマに向かって剣を構えているみたいな……そんな絶望的な状況。
「王国の滅亡と、二人の命。 天秤にかけるまでも無い。 ですが、ここでは何も無かった事にしていただけませんか?」
「わかったわ。 ダリア、屋敷に戻りましょう」
私もダリアも口を開かず、ただ屋敷へと来た道を辿る。
屋敷へ向かう途中でネムが「いずれ道は切り開かれるのだと私は信じております」とだけ話しかけてくれた。
その言葉には色々な意味が含められているのだと思う。
悔しいわね。
でも、ただ尻尾を巻いて逃げるだけだなんて性に合わないわ!
今の私じゃ力不足だけど、いずれ力を付けて関わってやろうと思う!
屋敷の部屋へ戻って来た私達は崩れ落ちる様にベッドの上へと横たわる。
「ネムはダリアが男性だって知っていて女性二人じゃ危ないって言ってたのよね? 優しい人だと思うわ」
「戻って来て第一声がそれですか? まあ、悪人では無いのだと思いますよ」
「命拾いしちゃったのかしら? もし私達がネムを欺ける程の強さだったら……」
「やめて下さい! それに、恐らく彼にはまる聞こえですよ。 もう関わらないでおきましょう」
「そうね。 “今は”関わらない事にするわ!」
恐ろしい目にあったけど、凄く良い刺激になったわね。
ベッドの上で大きな欠伸をした後、気持ちの良い眠気に誘われて、私は目を閉じた。
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