二人で撮った旗
「最初はランドとレン。武器を取って」
俺は木剣を、レンは棒を手にした。
旗の前にはルシオン。その少し手前に、エレナさんが立つ。
「どちらかが旗を抜けば勝ち。魔法が身体に直撃したら、その人だけ出発地点へ戻ること。戻ったら、また参加していいわ」
「エレナさんの剣に当たったら?」
「その場で構え直し。私を無視して走り抜けるのはなしよ。剣を相手にしながら、魔法にも対処してもらうからね」
レンへ顔を寄せる。
「左右から行こう。片方を止めてる間に、もう片方が抜ける」
「分かった」
「始め!」
俺は右、レンは左へ走った。
ルシオンの杖が俺へ向く。
水をかわして前へ出ると、足元の土が盛り上がった。
「っと!」
跨いだ先へ、次の水。
横へ避けたところに、エレナさんがいた。
木剣を合わせる。
軽く流され、肩を叩かれた。
「構え直して!」
慌てて剣を戻す。
エレナさんはもう、レンへ向かっていた。
追いかけようとした瞬間、水が胸で弾ける。
「ランド、戻って!」
剣を戻すことに気を取られ、杖を見ていなかった。
出発地点へ戻りながら、レンを見る。
エレナさんの剣を棒で外し、上から落ちる水を避ける。
だが、着地を剣で狙われた。
構え直したところへ、次の水が来る。
レンも戻ってきた。
「……剣の後に来るな」
「うん。止まるところ、狙ってる」
旗の前では、エレナさんとルシオンが短く言葉を交わしていた。
俺たちは左右へ分かれただけだ。
向こうは、一人が足を止め、もう一人が狙っていた。
「二人で攻めてるのに、一人ずつ来てるわよ」
エレナさんに言われ、俺はレンを見る。
「次は俺がエレナさんを引きつける。その間に行けるか?」
「どのくらい?」
「少し」
「じゃあ、その少しで行く」
俺は木剣を握り直した。
◇
今度は二人で右へ向かった。
水を避け、途中で分かれる。
エレナさんがレンの前へ出ようとしたところへ、俺は打ち込んだ。
乾いた音。
受けられても押し合わず、小さく戻す。
もう一撃。
エレナさんが下がる。
旗の前へ戻らせないよう、俺も足を運んだ。
剣を弾かれる。
それでも構え直す。
横を、レンが抜けた。
ルシオンの杖がそちらへ向く。
地面がぬかるみに変わり、レンが乾いた場所へ踏み替えた。
水をかわす。
旗まで、あと少し。
思わず目で追った。
肩に、こつんと衝撃が来る。
「よそ見」
「っ……!」
構え直す間に、エレナさんが俺の横を抜けた。
「レン、そっち!」
レンが振り返り、棒で木剣を受ける。
足が止まった。
そこへ飛んだ水が、脇腹に当たる。
俺も追いつこうとしたが、ルシオンはすぐに杖をこちらへ向けた。
水を避けた先で、土がせり上がる。
足を止めたところへ、次の一発。
結局、二人とも出発地点へ戻った。
◇
「悪い。途中で見ちまった」
「もう少しだったね」
「ああ。次は、ちゃんと任せる」
旗へ行くのはレンだ。
俺までそちらを見る必要はなかった。
「抜ける時は言ってくれ」
「分かった」
息を整え、向こうを見る。
エレナさんの剣だけに集中すれば、魔法が来る。
ルシオンばかり見れば、エレナさんに止められる。
全部を自分一人で見ようとしても、間に合わない。
◇
俺が前、レンが少し後ろ。
今度は離れすぎずに進んだ。
水をかわすと、エレナさんが踏み込んでくる。
木剣を合わせ、横へ外す。
下がりすぎない。
肩へ打ち返すと、エレナさんが受けた。
「右、行く」
レンの声。
エレナさんがそちらへ向きを変えようとする。
俺は横へ足を運び、もう一度打ち込んだ。
弾かれる。
手が痺れた。
だが、剣は下ろさない。
エレナさんが俺を狙えば、受ける。
レンへ戻ろうとすれば、打つ。
どれも簡単に外されるが、そのたびに一度は俺へ対応してくれる。
「ランド、水!」
レンの声に、身体をずらした。
肩の脇を水が抜ける。
エレナさんが、その動きに合わせて剣を出してきた。
何とか受け、足を踏ん張る。
今のは、一人では間に合わなかった。
その向こうで、土がせり上がった。
旗へ向かっていたレンが、壁の端へ回る。
水が飛ぶ。
かわした先へ、さらに水。
レンが一歩引いた。
「右、塞がれた」
短い声がした。
俺は剣を戻しながら、旗までの道を確かめる。
ルシオンの杖は右を向いている。
エレナさんも、そちらへ戻ろうとしていた。
左側が空いていた。
俺はエレナさんへ打ち込み、受けられた剣を引く。
「レン、代われ!」
レンがすぐに踏み込んだ。
棒が俺の横から伸び、エレナさんの木剣を受ける。
俺は左へ走った。
背後で、木と木が鳴る。
振り返らない。
ルシオンが杖を向け直す前に、障害物の陰へ入った。
そのまま端へ抜ける。
旗が見えた。
あと数歩。
脚が重くなる。
「っ……!」
歩幅を縮める。
ルシオンの杖先に、水が集まった。
旗へ向かう勢いを緩め、放たれる瞬間に横へ踏み出す。
水が肩の脇を抜けた。
次を撃たれる前に、旗の棒を掴む。
引き抜いた。
「取った!」
「そこまで!」
俺は旗を持ったまま振り返った。
レンはエレナさんの前で棒を構えていた。
エレナさんが剣を下ろすと、ようやくこちらを見る。
「取れた?」
「ああ!」
旗を上げてみせた。
◇
「途中で役を替えたのはよかったわね」
エレナさんが近づいてきた。
「レンが取るって決めたままだったら、右側で止められていたでしょう」
「はい」
「ルシオンは、レンを止める方へ気を取られすぎた。ランドがどこにいるかも見ておくこと」
「はい。杖を向け直すのが遅れました」
ルシオンが左側の道を見る。
俺もそこを振り返った。
一人で走っていた時には、あいつの杖はずっと俺を追ってきた。
今度は、レンが引きつけてくれた。
「止めてくれて助かった」
俺が言うと、レンは棒を肩へ担いだ。
「ランドも止めてくれたから」
「最後、そっちを見る余裕なかった」
「旗、取ってたんでしょ。それでいいよ」
「ああ」
俺は笑って、旗をエレナさんへ返した。
今度は二人で取った。
その分だけ、さっきより嬉しかった。
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