↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
60/63

敵に回すと面倒な奴

休憩を終えて訓練場へ戻ると、ルシオンはもう杖を持って待っていた。


「じゃあ、使える魔法を見せて」


 エレナさんが木人を指さす。


 水の塊が胴へ当たり、弾けた。


 風が白い布をめくり、小さな火球が足元へ落ちる。続いて土がせり上がり、低い壁ができた。


 地面をぬかるみに変える魔法もあった。


「相手の動きを鈍らせることもできます」


「それは私にかけて」


 ルシオンが杖を向ける。


 エレナさんは軽く脚を動かし、頷いた。


「走っている途中だと、歩幅が狂いそうね。どのくらい続くの?」


「今の強さなら、数呼吸ほどです」


 俺も受けてみた。


 膝を上げると、少し引っかかるような重さがある。動けなくなるほどではないが、走っている最中なら厄介そうだった。


 ひと通り確かめたエレナさんが、訓練場の奥へ旗を立てる。


「攻める方は、この旗を抜いたら勝ち。ルシオンは魔法で守って。今見せたものは、組み合わせてもいいわ」


 俺は旗までの道を見た。


 左右には壁や丸太がある。正面から行くだけでなく、回り込むこともできそうだ。


「攻撃が身体に直撃したら、出発地点からやり直し。水しぶきくらいなら続けていいけど、わざと受けて突っ切るのはなしよ」


「分かりました」


 武器を置き、出発地点へ立った。


     ◇


「始め!」


 地面を蹴る。


 ルシオンの杖がこちらを向いた。


 水を斜め前へ避け、そのまま踏み込む。


 足が沈んだ。


「うおっ!?」


 乾いていた地面が、ぬかるみに変わっている。


 靴を引き抜き、顔を上げたところへ水が来た。


 ばしゃっ。


「冷てえ!」


「戻って!」


 俺は顔を拭い、出発地点へ戻った。


 まだ半分も進んでいない。


 次は、ぬかるみを避けて右へ走る。


 水をかわして距離を詰めると、目の前で土がせり上がった。


 胸くらいの高さだ。


 手をかけて越えようとした瞬間、壁の向こうから水の塊が浮かび上がった。


 頭上へ落ちてくる。


「っ!」


 横へ跳ぶ。


 着地したところへ、次の水が飛んできた。


 胸に当たる。


「またかよ……!」


 壁で止め、上から追い立てて、避けた先を狙う。


 俺が身体を起こす間に、ルシオンはもう杖を構え直していた。


     ◇


 攻め直すたびに、通りにくい場所が増えていった。


 正面にはぬかるみ。


 右には土の壁。


 俺は壁へ向かい、ルシオンが杖を上げたところで左へ切り返した。


 水が背後へ落ちる。


 今だ。


 踏み込もうとした脚が、重くなった。


「……っ!」


 さっき試した魔法だ。


 思ったほど足が前へ出ない。


 歩幅を縮めたところへ火球が来た。横へ逃げると、靴がぬかるみの縁へかかる。


 滑った。


 踏ん張った時には、もう水が迫っていた。


「はい、やり直し!」


 俺は濡れた顔を拭った。


 一発で倒されるような威力はない。


 だが、走れば足元が変わり、止まれば狙われる。壁を越えようとすれば上から来て、抜けられそうになると脚が重くなる。


「……お前、敵に回すと、こんなに面倒くさいんだな」


 ルシオンが少しだけ口元を緩めた。


 俺は旗へ目を戻す。


 魔法を避けるだけでは、あいつの用意した場所へ追い込まれる。


「ランド、いったん休憩。ルシオンも」


 エレナさんの声に、二人とも構えを解いた。


     ◇


 休憩を挟み、もう一度始めた。


 今度は左へ走る。


 水を避け、障害物の壁へ身を隠した。


 止まらずに反対側へ抜け、その先の丸太へ向かう。


 ルシオンが杖を向け直す。


 撃たれる前に姿勢を低くし、丸太の陰へ入った。


 頭上を水が越えていく。


 落ちる場所を見ながら進むと、前方で土が動いた。


 道を塞ぐつもりだ。


 俺は壁がせり上がりきる前に、その端へ走った。


 横を抜ける。


 ルシオンと目が合った。


 旗は、あいつの右後ろ。


 俺は左へ踏み込み、杖をそちらへ向けさせた。


 脚に重さがかかる。


 今度は歩幅を狭めた。


 無理に加速せず、ルシオンを見る。


 杖の先に水が集まった。


 放たれる瞬間、右へ切り返す。


 肩の脇を水が抜けた。


 ルシオンが振り返る。


 次を撃たれる前に、旗の棒を掴んだ。


「取った!」


「そこまで!」


 地面から引き抜き、大きく息を吐く。


 今度は、当たっていない。


 ルシオンが杖を下ろした。


「……最後、動きを鈍らせたんですが」


「分かってれば、何とか動ける。最初と同じように走ってたら転んでたけどな」


 脚の重さが抜けていく。


 俺は旗をエレナさんへ渡した。


「隠れた後も動き続けたのはよかったわ。ルシオンは、相手を追って旗の前を空けたわね」


「はい」


 ルシオンが自分の立っていた場所を振り返る。


 俺もそこを見た。


 次は、簡単には空けてくれないだろう。


     ◇


 ルシオンを休ませている間に、レンが出発地点へ向かった。


 俺は腰掛けに座り、濡れた袖を絞る。


 力も速さもあるあいつなら、どこを通るのか。


 旗までの道へ目を向け、始まるのを待った。

ここまで読んでくださった皆様、ぜひブックマーク・評価をお願いします!

一つでも増えると作者がめちゃくちゃ喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。