↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/63

午後は魔法が相手

 俺たちが水を飲んでいる間に、アリアとルシオンも最後の打ち込みをしていた。


 ルシオンの木剣を、アリアが横へ外す。


「そこで押さない。戻して、もう一度」


「はい……!」


 次は剣が絡まず、二人とも構えへ戻った。


「そう。それを忘れないこと」


 エレナさんが頷く。


 アリアは木剣を下ろし、長く息を吐いた。


「……もう、腕が上がらないわ」


「僕も、握っているだけで……」


「よし、午前はここまで。武器を戻したら昼食よ」


「飯!」


 レンが顔を上げた。


「お前、その返事だけ速いな」


「ランドも食べるでしょ?」


「食うけど」


 答えたところで、腹が鳴った。


 レンが俺を見る。


「二回返事した」


「腹の分まで数えるな」


     ◇


 食堂には、温かいスープとパン、肉と野菜の煮込みが並んでいた。


 椅子へ腰を下ろすと、アリアが背もたれへ身体を預ける。


「……しばらく、ここから動きたくないわ」


「僕もです」


 ルシオンも隣で頷いた。


 俺は匙を取り、肉を口へ運ぶ。


 柔らかい。噛むと汁が染み出した。


 朝も十分食べたはずなのに、いくらでも入りそうだった。


 しばらく夢中で食べていると、レンが空の皿を差し出した。


「おかわり」


「もう食ったのか?」


「ランドも、もうなくなるよ」


 自分の皿を見る。


 確かに、あと少しだった。


「……俺もおかわり!」


「はいはい。よく噛んで食べなさいよ」


 エレナさんが料理をよそってくれた。


 アリアは俺たちの皿を見てから、自分の皿へ目を落とす。


「あんたたち、あんなきつい訓練の後で、よくそんなに食べられるわね」


「あんなきつい訓練の後だから、腹が減ってるんだろ」


「私は食べるより、寝たいわ……」


 アリアが小さく欠伸をした。


 俺は皿を受け取り、エレナさんへ尋ねる。


「午後も、あの丸で練習するんですか?」


「午後は、魔法への対処よ」


 ルシオンの匙が止まった。


「魔法ですか?」


「ええ。離れたところから撃たれたら、どうするか。隙を見て近づくのか、物陰へ隠れるのか。剣を構えて待っているだけじゃ、いい的になるわよ」


 俺は頷いた。


 午前中は、互いの武器が届く距離で戦っていた。


 今度は、そこへ近づくところから始まる。


「ヴィクトリーノ流兵法では、いろいろな状況を想定して訓練するの。相手の武器も人数も、戦う場所も、こっちの都合では選べないからね」


「魔法を使う相手も、その一つってことですか」


「そう。初めて見る攻撃に驚いて、足を止めないようにね」


 エレナさんがルシオンへ顔を向けた。


「まずは、使える魔法を見せて。その中から、今日の練習に使うものを決めるわ」


「僕が撃つんですか?」


「ええ。三人には、一人ずつあなたのところへ近づいてもらうから」


 ルシオンが俺たちを見回した。


「でも、僕の魔法は、あまり威力が……」


「なら、使い方を考える。足を止める、進む方向を変えさせる。倒せなくても、邪魔はできるでしょ?」


 ルシオンは少し考え、匙を置いた。


「……魔法を組み合わせてもいいんですか?」


「もちろん。何か思いついた?」


「はい。試してみたいことがあります」


「じゃあ、後で見せてもらうわ」


 さっきまで背中を丸めていたルシオンが、少し身を乗り出している。


 レンがそれを見た。


「ルシオン、魔法のことになると元気になるね」


「まあ、一応得意分野なので」


「剣の方も、最後はちゃんと戻せてたわよ。押し合いにならなかったし」


 アリアがパンをちぎりながら言った。


「ありがとうございます。でも、構えるだけで、あんなに考えることがあるとは思いませんでした」


「慣れるまでは、毎回確かめなさい。そのうち、考えなくてもできるようになるわ」


 エレナさんの言葉に、ルシオンが頷いた。


 俺もスープを飲み、ひと息つく。


「午後は、俺たちが追い払われる側か」


「はい。……追い払う?」


「風で、しっしって」


 レンが片手を振った。


「虫じゃねえんだぞ」


 ルシオンが口元を押さえた。


「すみません。少し想像してしまって……」


「想像するなよ!」


「でも、ランドは簡単には止まってくれなさそうですね」


「そりゃ、簡単に追い払われるつもりはないからな」


「レンも速いですし、アリアは横へ抜けるのが上手いので……」


 ルシオンは三人の顔を順に見た。


 午前の動きを、よく見ていたらしい。


「同じ撃ち方では、すぐに避けられそうです」


「なら、相手を見て変えてみなさい。三人とも、動き方が違うんだから」


 エレナさんが言った。


「俺からでもいいですよ」


 隣でレンも顔を上げる。


「僕も」


「順番は後。食べ終わったら、まず休憩よ」


 エレナさんが俺たちを見る。


「二人とも、先に始めないこと」


「分かってます」


「分かった」


 アリアが小さく息を吐いた。


「少し横になれるのは助かるわ……」


「しっかり休んでおきなさい。午後も動いてもらうからね」


「はいわかりました」


「呼んだら出てきてよ。寝直さないように」


 最後の一言は、レンへ向けられていた。


 レンはパンを飲み込んでから頷く。


 ルシオンもまた匙を取ったが、時々、何かを考えるように手を止めていた。


 俺たちをどう近づかせないか、考えているのかもしれない。


 俺も皿へ目を戻す。


 仲間として何度も見てきた魔法でも、自分へ向かってくるとなれば話は違う。


 真っすぐ走れば狙いやすいだろう。横へ避けた先に、別の魔法が来るかもしれない。


 俺は肉をひと口食べながら、訓練場のどこに身を隠せそうな場所があったか、思い返した。


ここまで読んでくださった皆様、ぜひブックマーク・評価をお願いします!

一つでも増えると作者がめちゃくちゃ喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。