午後は魔法が相手
俺たちが水を飲んでいる間に、アリアとルシオンも最後の打ち込みをしていた。
ルシオンの木剣を、アリアが横へ外す。
「そこで押さない。戻して、もう一度」
「はい……!」
次は剣が絡まず、二人とも構えへ戻った。
「そう。それを忘れないこと」
エレナさんが頷く。
アリアは木剣を下ろし、長く息を吐いた。
「……もう、腕が上がらないわ」
「僕も、握っているだけで……」
「よし、午前はここまで。武器を戻したら昼食よ」
「飯!」
レンが顔を上げた。
「お前、その返事だけ速いな」
「ランドも食べるでしょ?」
「食うけど」
答えたところで、腹が鳴った。
レンが俺を見る。
「二回返事した」
「腹の分まで数えるな」
◇
食堂には、温かいスープとパン、肉と野菜の煮込みが並んでいた。
椅子へ腰を下ろすと、アリアが背もたれへ身体を預ける。
「……しばらく、ここから動きたくないわ」
「僕もです」
ルシオンも隣で頷いた。
俺は匙を取り、肉を口へ運ぶ。
柔らかい。噛むと汁が染み出した。
朝も十分食べたはずなのに、いくらでも入りそうだった。
しばらく夢中で食べていると、レンが空の皿を差し出した。
「おかわり」
「もう食ったのか?」
「ランドも、もうなくなるよ」
自分の皿を見る。
確かに、あと少しだった。
「……俺もおかわり!」
「はいはい。よく噛んで食べなさいよ」
エレナさんが料理をよそってくれた。
アリアは俺たちの皿を見てから、自分の皿へ目を落とす。
「あんたたち、あんなきつい訓練の後で、よくそんなに食べられるわね」
「あんなきつい訓練の後だから、腹が減ってるんだろ」
「私は食べるより、寝たいわ……」
アリアが小さく欠伸をした。
俺は皿を受け取り、エレナさんへ尋ねる。
「午後も、あの丸で練習するんですか?」
「午後は、魔法への対処よ」
ルシオンの匙が止まった。
「魔法ですか?」
「ええ。離れたところから撃たれたら、どうするか。隙を見て近づくのか、物陰へ隠れるのか。剣を構えて待っているだけじゃ、いい的になるわよ」
俺は頷いた。
午前中は、互いの武器が届く距離で戦っていた。
今度は、そこへ近づくところから始まる。
「ヴィクトリーノ流兵法では、いろいろな状況を想定して訓練するの。相手の武器も人数も、戦う場所も、こっちの都合では選べないからね」
「魔法を使う相手も、その一つってことですか」
「そう。初めて見る攻撃に驚いて、足を止めないようにね」
エレナさんがルシオンへ顔を向けた。
「まずは、使える魔法を見せて。その中から、今日の練習に使うものを決めるわ」
「僕が撃つんですか?」
「ええ。三人には、一人ずつあなたのところへ近づいてもらうから」
ルシオンが俺たちを見回した。
「でも、僕の魔法は、あまり威力が……」
「なら、使い方を考える。足を止める、進む方向を変えさせる。倒せなくても、邪魔はできるでしょ?」
ルシオンは少し考え、匙を置いた。
「……魔法を組み合わせてもいいんですか?」
「もちろん。何か思いついた?」
「はい。試してみたいことがあります」
「じゃあ、後で見せてもらうわ」
さっきまで背中を丸めていたルシオンが、少し身を乗り出している。
レンがそれを見た。
「ルシオン、魔法のことになると元気になるね」
「まあ、一応得意分野なので」
「剣の方も、最後はちゃんと戻せてたわよ。押し合いにならなかったし」
アリアがパンをちぎりながら言った。
「ありがとうございます。でも、構えるだけで、あんなに考えることがあるとは思いませんでした」
「慣れるまでは、毎回確かめなさい。そのうち、考えなくてもできるようになるわ」
エレナさんの言葉に、ルシオンが頷いた。
俺もスープを飲み、ひと息つく。
「午後は、俺たちが追い払われる側か」
「はい。……追い払う?」
「風で、しっしって」
レンが片手を振った。
「虫じゃねえんだぞ」
ルシオンが口元を押さえた。
「すみません。少し想像してしまって……」
「想像するなよ!」
「でも、ランドは簡単には止まってくれなさそうですね」
「そりゃ、簡単に追い払われるつもりはないからな」
「レンも速いですし、アリアは横へ抜けるのが上手いので……」
ルシオンは三人の顔を順に見た。
午前の動きを、よく見ていたらしい。
「同じ撃ち方では、すぐに避けられそうです」
「なら、相手を見て変えてみなさい。三人とも、動き方が違うんだから」
エレナさんが言った。
「俺からでもいいですよ」
隣でレンも顔を上げる。
「僕も」
「順番は後。食べ終わったら、まず休憩よ」
エレナさんが俺たちを見る。
「二人とも、先に始めないこと」
「分かってます」
「分かった」
アリアが小さく息を吐いた。
「少し横になれるのは助かるわ……」
「しっかり休んでおきなさい。午後も動いてもらうからね」
「はいわかりました」
「呼んだら出てきてよ。寝直さないように」
最後の一言は、レンへ向けられていた。
レンはパンを飲み込んでから頷く。
ルシオンもまた匙を取ったが、時々、何かを考えるように手を止めていた。
俺たちをどう近づかせないか、考えているのかもしれない。
俺も皿へ目を戻す。
仲間として何度も見てきた魔法でも、自分へ向かってくるとなれば話は違う。
真っすぐ走れば狙いやすいだろう。横へ避けた先に、別の魔法が来るかもしれない。
俺は肉をひと口食べながら、訓練場のどこに身を隠せそうな場所があったか、思い返した。
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