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たった一歩で大騒ぎ

 休憩を終え、レンが丸の中へ入った。


 俺は木剣を構える。


「さっきはよくもやってくれたな」


「練習だよ」


「分かってる」


「ランド、当てる時は加減してね」


 エレナさんが言った。


「分かってます!」


 まずは肩。


 踏み込んで振ると、レンが身体を傾けた。


 空振り。


 返す剣で胴を狙う。


 レンが半歩引いた。


 また空振り。


「……おい」


「何?」


「さっきから避けてばっかりじゃねえか!」


「当たると痛いから」


「俺は痛かったんだよ!」


「うん」


「うんじゃねえ!」


 アリアが吹き出した。


「避けちゃ駄目とは言われてないものね」


「そうだけど!」


 今度はレンの動く先へ打ち込む。


「じゃあ、受ける」


 棒が動き、木剣を横へ流した。


 レンの足は、まだ丸の中だ。


「そう簡単に受けるな!」


「どうしてほしいの?」


「一回くらい困れよ!」


 言ってから、自分でも無茶な注文だと思った。


     ◇


 息を整え、もう一度攻める。


 肩、胴、反対の肩。


 レンは棒の両端を使い、次々に外していった。


 だが、避ける場所は限られている。


 横へ回り込みながら打つと、レンの足が線へ近づいた。


 あと少し。


 一度下がって構え直す。


 その間に、真ん中へ戻られた。


「……くそ。今、出そうだったのに」


「ランドが下がるからじゃない?」


 アリアが言った。


「せっかく端まで追い詰めたのに、そこで離れるんだもの」


 レンを見る。


 棒を構えたまま、頷いた。


「助かる」


「助けてねえよ!」


 エレナさんが笑う。


「構え直すたびに、遠くまで下がる必要はないわよ。次に打てる位置へ戻してみて」


 俺は足元を確かめた。


 木人の時と同じように、打った後で下がっていた。


 これじゃ、追い詰めても振り出しだ。


「……もう一回」


「うん」


     ◇


 右肩へ打ち込む。


 棒に流された剣を、小さく戻した。


 離れず、胴へ続ける。


 レンが半歩ずれた。


 中央へ戻る方へ先に回り込み、もう一撃。


 棒に受けられたが、レンの踵は線のすぐ手前だった。


 ここで戻らせるか。


 肩を狙って剣を上げる。


 レンの棒が動いた。


 俺は振り下ろすのを一瞬遅らせ、斜めへ踏み込んだ。


 空いた側の胴へ。


 乾いた音が響く。


 また受けられた。


 だが、受けるために引いたレンの足が、線を越えた。


「出た!」


 思わず叫んだ。


「出た出た! 今、出たぞ!」


 木剣を下ろし、足元を指さす。


「エレナさん! 出ましたよね!?」


「ええ。出たわね」


「よっしゃ! やっと出た!」


 レンは自分の足を見下ろしていた。


「……ちょっとだけ」


「ちょっとでも外だろ! ほら、ここ!」


「見えてる」


 胸が弾む。


 当ててはいない。たった一歩、動かしただけだ。


 それでも、あれだけ避けられた後だ。嬉しくないわけがなかった。


「どうだ! 出たらやり直しだからな!」


 レンが顔を上げた。


「ランド、うざい」


 アリアが吹き出した。


「一回出ただけで、そんなに言う?」


「嬉しいんだから、いいだろ!」


「僕が叩いた時は怒ったのに」


「それは痛かったからだよ!」


「僕はランドがうるさいから怒ってる」


 ルシオンまで口元を押さえていた。


 俺は咳払いをして、木剣を持ち直す。


「……まあ、いい勝負だったな」


「急に偉そう」


「どう喜べばいいんだよ!」


「静かに」


 エレナさんが笑いながら、俺の肩を叩いた。


「はいはい。今の攻め方はよかったわ。受けられた後も、相手を見て次につなげられたわね」


「はい!」


 まだ顔が緩む。


 レンが足を丸の中へ戻した。


「もう一回」


「悔しいのか?」


「うん。もう言わせない」


 今度は、棒を構えるのが早かった。


     ◇


 出なかった。


 同じように追えば、線へ寄る前に横へかわされる。


 振る間を変えても、今度は棒がついてきた。


 何度攻めても、足は丸の内側に収まっている。


「……さっきは出ただろ!」


「だから、もう出ないようにしてる」


 もう覚えたらしい。


 俺は汗を拭い、木剣を握り直した。


「もう一本」


「うん」


「はい、そこまで。二人とも休憩!」


 エレナさんの声に、俺たちは武器を下ろした。


 レンも息を吐き、額の汗を袖で拭う。


「一回だけだったね」


「次は二回出す」


「出ないよ」


「出すんだよ!」


 アリアが呆れたように笑った。


「その元気、少し分けてほしいわ……」


 俺は水を取りに向かいながら、もう一度あの丸を見た。


 一度はできた。


 次は、別の攻め方も試してみよう。


 そう考えながらも、口元が勝手に緩む。


「まだ笑ってる」


「見てねえで水飲めよ!」

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