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豪快なお手本

「そろそろ始めましょうか」


 エレナさんの声に、俺は立ち上がった。


 腕はまだだるい。だが、呼吸は落ち着いている。


 俺とルシオンは木剣を、アリアは短い木剣を取った。レンは棒を肩に担ぐ。


「まずは木人への打ち込み。白い印を狙って、打ったら構え直して下がる。そこまでで一回よ」


 俺は木人の前に立ち、踏み込んだ。


 木剣が胴を打つ。手に返った衝撃を受け止め、剣を戻して一歩下がった。


「昨日より、身体が前に残らなくなったわね」


 昨夜の練習が役に立ったらしい。


 もう一度打ち込むと、エレナさんが首を傾げた。


「でも、遠慮してる?」


「してませんよ」


「もっと腰を入れて! あんた、金玉ついてるんでしょ!」


「ついてますけど、今それ関係あります!?」


 アリアが吹き出した。


 ルシオンは黙って木剣へ目を落とす。


「返事だけは元気ね。もう一本!」


「はい!」


 柄を握り直し、踏み込む。


 さっきより大きな音が響いた。


「肩に力を入れすぎ。戻るのも遅い!」


「強く打てって言ったじゃないですか!」


「強く打って、すぐ戻るのよ」


「注文が多いですよ!」


「狙いも外さないでね」


「増えた!」


 エレナさんは笑いながら木剣を取り、隣の木人へ向かった。


「見てて」


 軽く構える。


 踏み込んだ瞬間、凄まじい音が響いた。


 木人が台座ごと浮いた。


 そのまま向こうへ吹っ飛び、地面を転がる。


 俺たちは、土埃の向こうを黙って見つめた。


 エレナさんだけが、きれいに構え直していた。


「こういうこと」


「どういうことですか!」


「打った後も、すぐ次に動けるでしょ?」


「打つ相手がいなくなってますけど!」


 エレナさんが木人へ目を向ける。


「……ちょっと強かったわね」


「ちょっと?」


 アリアが聞き返した。


 レンは転がった木人を見つめている。


「僕も飛ばしていい?」


「駄目よ。戻すのが大変だから」


「そこなんだ……」


 エレナさんは木剣を置き、自分で木人を戻しに向かった。


 俺は手元の木剣を見る。


 同じものを使っているはずなのに、まるで音が違った。


「……戻したら、もう一回教えてください」


「ええ。今度はゆっくり見せるわ」


     ◇


 足と腰の動きを見せてもらい、打ち込みを再開した。


 強く打てば戻りが遅れ、戻す方を気にすれば踏み込みが浅くなる。


 両方できたと思った時には、印から外れていた。


「ランド、狙い!」


「分かってます!」


「分かってるなら、当てる!」


 簡単に言ってくれる。


 隣では、レンの棒が同じ場所を打っていた。左右を替えても動きが乱れない。


「お前、よく外さないな」


「木人、動かないから」


「……そりゃそうだけど」


 俺も打ち込む。


 少し下へ当たった。


 レンが俺の木人を見る。


「そっちは動くの?」


「動かねえよ!」


「ランド、喋ってると狙いがずれるわよ」


「こいつが話しかけるんです!」


「最初はランドだった」


 そうだった。


 俺は口を閉じ、木剣を構え直した。


 アリアは踏み込む距離を直してもらい、ルシオンは小さく打って構えへ戻す練習をしている。


 二人が休んでいる間も、俺とレンの打ち込みは続いた。


 踏み込む。打つ。戻す。


 腕は重くなってきたが、ようやく印の中央を続けて打てた。


「そう。その動きを覚えておいてね」


 エレナさんが頷いた。


「一度休憩。次は相手がいるところでやってみましょう」


     ◇


「ランドとレン、アリアとルシオンで組んで」


 休憩の後、レンが俺の前に立った。


「どっちが攻める?」


「最初はレン。ランドは受けてみて」


 エレナさんが答える。


「肩を狙って一度ずつ、ゆっくりね。受ける方は武器で横へ外して、構え直すこと」


 レンが棒を上げた。


 振り下ろされる先へ、木剣を合わせる。


 重い。


 思わず押し返しかけた。


「力比べにしない。横へ外して」


 木剣の角度を変えると、棒が脇へ滑った。


「もう少し弱くする?」


「いや、これでいい」


 剣を戻し、次を待つ。


 まともに受ければ、その分だけ腕が疲れる。何度か繰り返すうちに、少ない動きで外せるようになってきた。


「今の、よかったよ」


「もう一本」


 隣では、ルシオンの木剣をアリアが受けていた。


「押さないで。打ったら戻す」


「は、はい」


 ルシオンが慌てて剣を引く。


 エレナさんは二人の動きを確かめてから、俺たちへ戻ってきた。


「じゃあ、こちらは少し難しくしましょうか」


 木剣の先で、地面に丸を描く。


「ランドはこの中。足が外へ出たらやり直しね」


 俺は足元を見た。


 二、三歩は動けるが、大きく下がる余裕はない。


「レンは肩と胴へ続けて打っていいわ。ただし、当てる時は軽く。ランドは反撃なしよ」


「分かった」


 レンが棒を構える。


「いくよ」


「来い」


 肩へ来た棒を弾く。


 反対側の端が、脇腹へ回ってきた。


「いたっ!」


「えい」


「いてえ!」


「やあ」


「いってえな! お前!」


 俺が怒鳴ると、レンは棒を止めた。


「防いで」


「防ごうとしてるだろ!」


「口は動いてるよ」


「剣も動かしてるわ!」


 ちょうど休憩に入ったアリアが、腹を抱えて笑った。


「ちょっと、笑わせないで。お腹まで痛いんだから……!」


「こっちは叩かれて痛いんだよ!」


「ランド、よそ見」


「え?」


 こつん。


「だから、いてえって!」


「今のはランドが悪い」


「分かってるよ!」


 俺は木剣を戻した。


 肩へ来た棒を弾く。


 今度は追いかけず、すぐに剣を引いた。


 続く脇腹への一撃も止める。


「……よし!」


「じゃあ、こっち」


「待て待て待て!」


「ランド、外」


 エレナさんが足元を指した。


 両足とも、丸から出ていた。


     ◇


「……もう一回」


 俺は脇腹をさすり、真ん中へ戻った。


「棒を追いかけすぎよ。外したら、自分の身体を守れる位置へ戻して」


「はい」


 レンが棒を上げる。


「今度は喋らない?」


「お前も『えい』とか言うなよ」


「分かった」


 棒が動いた。


 肩への一撃を外し、剣を戻す。


 脇腹へ来た端も、今度は間に合った。


 次は反対側。


 足を小さく動かし、身体ごと向きを変える。


 木と木が続けて鳴った。


 まだ丸の中だ。


「そう、そのくらい小さく!」


 エレナさんの声が飛ぶ。


 腕はだるい。だが、さっきのように大きく振り回すより楽だった。


 もう一撃を防いだところで、エレナさんが手を上げる。


「そこまで。一度休んで、次は交代ね」


 俺は木剣を下ろし、レンを見た。


「今度は俺が攻めるからな」


「うん」


「覚えてろよ」


 レンは嬉しそうに棒を持ち替えた。


「楽しみ」


 こいつには、脅しにもならなかった。

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