王都アルヴェインへの帰還
馬車はベルナードの門を抜け、王都へ続く街道を進んでいった。
◇
帰り道は、驚くほど何も起きなかった。
昨日のこともあって、最初は全員かなり警戒していた。
森へ入れば周囲の音に耳を澄ませ、道端に不自然な足跡や折れた枝がないか確認する。
けれど、白狼旅団が現れることもなければ、魔物に襲われることもない。
時々、他の商隊や旅人とすれ違うくらいだった。
「平和だな」
馬車に揺られながら呟く。
「いいことじゃない」
アリアが答えた。
「護衛なんだから、何も起きないのが一番よ」
「まあ、それはそうなんだけど」
「ランド、ちょっと退屈そう」
レンが言う。
「してねぇよ」
「してる」
「昨日あんな目に遭ったばっかりだぞ。俺だって戦いたくねぇよ」
「本当?」
「何で疑うんだよ」
ルシオンが小さく笑う。
「何事もないなら、それに越したことはありませんよ」
「ああ」
今回はそれでいい。
俺たちは休憩を挟みながら街道を進み、その日は途中の宿場で一泊した。
そして翌日も、何事もなく馬車は進んだ。
◇
「見えてきましたよ」
御者の声に、俺は前を見る。
遠くに大きな城壁が見えた。
「王都だ」
「やっと帰ってきた!」
アリアが大きく伸びをする。
「ベルナードも面白かった」
レンが言う。
「また行きたいですね」
ルシオンも頷いた。
「今度は盗賊に襲われない時にな」
「それがいい」
全員一致だった。
やがて馬車が王都の門をくぐる。
見慣れた街並みが広がった。
ベルナードへ向けて出発してから数日しか経っていないはずなのに、妙に久しぶりな気がする。
指定された場所まで荷馬車を送り届ける。
「皆さん、ありがとうございました。おかげで無事に王都まで戻れました」
商人が頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうございました」
帰りの護衛もこれで終わりだ。
商人から完了証明を受け取る。
これで手元には二つ。
ロイドさんの商隊を王都からベルナードまで護衛した分。
そして、今回のベルナードから王都までの護衛分だ。
「じゃあギルド行くか」
「賛成」
俺たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
◇
ギルドの扉を開ける。
中はいつも通り、冒険者たちで賑わっていた。
受付を見る。
「あ」
ちょうどアイリスがこちらに気づいた。
「皆さん、お帰りなさい!」
「ただいま戻りました」
「無事でよかったです。ベルナードまでの護衛はどうでした?」
「それなんですけど……」
俺たちは顔を見合わせる。
何から話せばいいんだ?
「とりあえず、依頼の報告からでいいですか?」
「もちろんです」
俺は二枚の完了証明を取り出した。
「まず、王都からベルナードまでの護衛依頼です。荷物は問題なく届けました」
「確認しますね」
アイリスが証明書を受け取り、内容を確認する。
「……はい。ベルナード側の受領確認もありますね。問題ありません」
続いて、もう一枚を渡す。
「それと、ベルナードで王都行きの護衛依頼を受けました。こっちも無事に終わってます」
「帰りも護衛依頼を?」
「ちょうど王都へ向かう商隊があったので」
「なるほど。移動しながら依頼までこなしてきたんですね」
アイリスが二枚目も確認する。
「こちらも問題ありません。二件とも達成です」
「よし」
これで行きと帰り、両方の護衛依頼が終わった。
「では、報酬を用意しますね」
アイリスが手続きを始める。
その間に、アリアが小さく息を吐いた。
「やっと全部終わったわね」
「帰ってくるまでが護衛依頼ってことだな」
「帰りは別の依頼ですけどね」
ルシオンに冷静に突っ込まれた。
「分かってるよ」
「でも二回分」
レンが言う。
「そうね。二回分の報酬よ」
アリアが少し嬉しそうになる。
「そこは反応するんだな」
「働いた分の報酬を喜んで何が悪いのよ」
「悪いとは言ってねぇよ」
むしろアリアらしい。
やがてアイリスが戻ってくる。
「お待たせしました。こちらが二件分の報酬です」
報酬を受け取る。
これで終わり――。
「……と言いたいところなんですが」
アイリスが俺たちを見る。
「ベルナードまでの道中について、何か報告することはありませんか?」
「あります」
即答した。
「ですよね」
アイリスの表情が仕事のものに変わる。
「では、詳しく聞かせてください」
俺は一度息を吐いた。
「まず、初日に盗賊に襲われました」
「初日に?」
「はい。獣人が多い集団でした。その時は追い返せたんですけど、翌日――」
イザークの顔が頭に浮かぶ。
「《白狼旅団》に襲われました」
アイリスの表情が険しくなった。
「……白狼旅団?」
「首領もいました。自分でイザークと名乗ってます」
「《白狼》イザーク本人が?」
「はい」
周囲で戦っていた獣人たち。
イザークとの一騎打ち。
そして、間一髪で駆けつけたレティシアたち。
「俺たちだけじゃ危なかったです。王国騎士団が来てくれて、白狼旅団は撤退しました」
アイリスは黙って話を聞いている。
「王国騎士団というと?」
「レティシア・グレイヴ騎士団長と、ディーノ・ジルド副官たちです」
「騎士団長まで……」
さすがにアイリスも驚いたらしい。
俺たちは初日の待ち伏せから、翌日の白狼旅団との戦いまで、必要なことを順番に説明していった。
そして最後まで聞き終えると、アイリスが小さく息を吐いた。
「分かりました。こちらでも情報を整理して、騎士団や関係するギルドと共有します」
「お願いします」
「それにしても……」
アイリスが俺たち四人を見る。
「初めてのブロンズ依頼で、ずいぶん大変なことになりましたね」
「俺も普通の護衛だと思ってたんですけどね」
「私もよ」
「僕もです」
「僕も」
アイリスが苦笑する。
「でも、依頼人と荷物を守り、全員無事に帰還した。それはきちんと評価されるべきことです」
「ありがとうございます」
ブロンズになって最初の護衛依頼。
予想していたものとは、だいぶ違った。
それでも依頼は達成した。
四人とも無事に王都へ戻ってきた。
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