強者たち
速い。
「っ!」
剣が右から迫る。
受ける。
ガキィンッ!
「ぐっ!」
腕が痺れた。
二撃目。
今度は身体を引いてかわす。
剣先が胸元を掠めた。
「まだだ!」
踏み込む。
脇腹を狙って振る。
「甘ぇ!」
弾かれた。
「――っ!」
右腕が跳ね上がる。
まずい。
腹へ蹴り。
「ぐっ!」
後ろへよろめいた。
そこへイザークが詰める。
上。
横。
下。
剣が止まらない。
「くっ……!」
受ける。
かわす。
また受ける。
防ぐだけで精一杯だ。
「どうした!」
イザークが叫ぶ。
「守るんじゃなかったのか!」
「守るさ!」
剣を振り返す。
「だから――」
イザークがかわす。
「ここでお前を止める!」
「言うじゃねぇか!」
剣がぶつかる。
次の瞬間。
ガンッ!
「っ!?」
俺の剣が大きく弾かれた。
空いたところへ拳。
「ぐっ!」
頬に衝撃。
視界が揺れる。
さらに蹴り。
「がっ!」
地面へ倒れた。
「ランド!」
アリアの声。
立たないと。
「くそ……」
手をつき、無理やり身体を起こす。
イザークは追ってこなかった。
剣を肩へ担ぎ、笑っている。
「しぶてぇな」
「……狩人はな」
息を整える。
「獲物より先にへばってたら、狩りにならねぇんだよ」
「なるほど」
イザークが笑った。
「嫌いじゃねぇぜ、そういうの」
俺は剣を構え直す。
周囲では、まだ戦いが続いていた。
レンは何人もの獣人に囲まれている。
それでも動きはほとんど落ちていない。
……あいつ、まだ余力ありそうだな。
ルシオンはクレイゴーレムを盾にしながら魔法を撃ち続けている。
さすがに息は荒い。
アリアは馬車の近くで、抜けてきた敵を牽制しながら負傷した御者を治していた。
みんな、それぞれ持ち場を守っている。
その時。
「余所見してる場合か?」
「――!」
振り向いた時には遅かった。
ガキィンッ!
「ぐっ!」
剣を受ける。
重い。
「動きが鈍くなってんぞ!」
「うるせぇ!」
振り返す。
かわされた。
「そこだ!」
イザークの剣が跳ね上がる。
俺の剣が手から飛んだ。
「しまっ――!」
ドンッ!
「がっ!」
蹴りを食らい、地面を転がる。
剣は少し離れた場所。
手を伸ばす。
だが。
その前に影が落ちた。
「……よくやったよ」
顔を上げる。
イザークが立っている。
「正直、ここまでやるとは思わなかった」
「まだ……終わってねぇ」
「そういうところは気に入った」
イザークが剣を持ち上げる。
「だが――ここまでだ」
「ランド!」
アリアの声。
動け。
立て。
避けろ。
剣が振り下ろされる。
その瞬間。
――ガキィィンッ!!
「なっ!?」
俺の目の前で、イザークの剣が止まった。
一本の剣に受け止められている。
「……何だ?」
俺とイザークの間に、一人の女が立っていた。
「まったく」
聞き覚えのある声。
「朝に言ったばかりだろう」
「……レティシアさん?」
「無理に戦うな、と」
「すみません……」
「説教は後だ」
レティシアさんが前を向く。
「今は下がっていろ」
その向こうから馬蹄の音が響いた。
「騎士団だ!」
「王国騎士団だ!」
白狼旅団がざわめく。
「団長!」
ディーノの声。
「こちらは我々が!」
「任せる!」
騎士たちが商隊を囲む。
「負傷者を内側へ! 冒険者の皆さんは馬車の防衛を!」
ディーノの指示が飛ぶ。
流れが一気に変わった。
「ランド」
「はい」
「君は下がれ」
「……分かりました」
悔しい。
けど、今の俺じゃ邪魔になる。
剣を拾い、後ろへ下がった。
イザークがレティシアさんを見る。
「王国騎士団か」
「ああ」
レティシアさんが剣を構える。
「王国騎士団長、レティシア・グレイヴだ」
「……騎士団長直々かよ」
「名は?」
「《白狼》イザーク。白狼旅団の頭だ」
「そうか」
レティシアさんの目が鋭くなる。
「ならば捕縛する」
「いきなりそれかよ」
「盗賊を捕らえるのに、他に何が必要だ?」
「分かりやすい女だな」
「よく言われる」
次の瞬間。
レティシアさんが踏み込んだ。
ガキィィィンッ!!
「ぐっ!?」
剣がぶつかった瞬間。
イザークの身体が大きく後ろへ弾かれた。
「……嘘だろ」
俺が何度打ち合っても押し返せなかった相手が。
たった一撃で。
「何だ、その力……」
「この程度で驚くのか?」
レティシアさんがもう一度踏み込む。
イザークは受けない。
横へ飛んだ。
ズガァンッ!!
レティシアさんの剣が地面を叩き割る。
「……何だよ、それ」
まともに受けたら、剣ごと潰される。
イザークも分かったらしい。
「まともに打ち合う相手じゃねぇな」
「ならば武器を捨てろ」
「それは嫌だね」
イザークが斬りかかる。
途中で軌道を変えた。
俺が見切れなかった一撃。
だが。
キィンッ!
レティシアさんは簡単に弾いた。
「遅い」
一閃。
「っ!」
イザークが飛び退く。
胸元の服が裂け、血が滲んだ。
数合。
それだけで分かった。
勝負になってない。
イザークは強い。
今の俺じゃ勝てない。
そのイザークが、まともに剣を合わせようとしない。
レティシアさんは、それ以上だ。
「……騎士団長ってのは化け物かよ」
「何か言ったか?」
「褒めたんだよ」
「そうか」
「怒らねぇのかよ……」
イザークが周囲を見る。
騎士団が白狼旅団を押している。
「白狼旅団!」
声を張り上げた。
「撤退だ!」
「逃がすか!」
レティシアさんが追う。
「弓兵!」
矢が一斉に飛んできた。
「団長!」
レティシアさんが剣で矢を叩き落とす。
その隙に白狼旅団が森へ退いていく。
「追うぞ!」
「団長!」
ディーノが止めた。
「深追いは危険です! 負傷者と商隊の安全確認を!」
「今なら追いつける!」
「森では向こうに地の利があります!」
「……」
レティシアさんが森を見る。
そして、剣を下ろした。
「……分かった。追跡は中止する」
悔しそうだ。
でも、ちゃんと止まった。
やっぱりディーノが副官なのには理由があるらしい。
「ランド!」
アリアが駆け寄ってきた。
「座って!」
「いや、俺は――」
「いいから!」
「……はい」
大人しく座る。
アリアがすぐに傷を確認した。
「頬も、肩も、脇腹も……」
「これくらい――」
「これくらいじゃないわよ」
声が少し震えていた。
「本当に……危なかったんだから」
「……悪かった」
「謝ってほしいんじゃないの」
アリアが手をかざす。
「《治癒》」
淡い光が傷を包む。
「戦う必要があったのは分かってる。でも、もう少し自分のことも守って」
「……努力する」
「絶対よ」
「ああ」
「ランド」
レンもやってくる。
「大丈夫?」
「ああ」
俺の顔をじっと見る。
「よかった」
短い一言。
でも、レンなりにかなり心配してたらしい。
「助けに行こうと思ったんだけど、邪魔された」
「いいんだよ。お前は馬車を守ってただろ」
「でも死にそうだった」
「……まあな」
「次は気をつけて見る」
「頼む」
「うん」
「ランド!」
今度はルシオン。
杖を支えにしている。
「傷は大丈夫ですか?」
「アリアが治してくれてる」
「そうですか……よかった」
ルシオンが大きく息を吐く。
「すみません。援護できませんでした」
「謝るなよ」
「ですが――」
「お前も馬車を守ってただろ」
俺は三人を見る。
「みんな自分の役目をやってた。それでいい」
ルシオンは少し黙り、頷いた。
「……そうですね」
それから真面目な顔になる。
「でも、ランドももう少し自分を大事にしてください」
「お前までかよ」
「当然です」
「私も言ったわよ」
「僕も」
「三対一ですね」
「何の多数決だよ」
アリアが小さく笑った。
レンもいつもの顔に戻っている。
ルシオンも少しだけ表情を緩めた。
四人とも無事だ。
それだけで十分だった。
俺は森を見る。
もうイザークたちの姿はない。
剣を握る右手には、まだあいつの一撃の感触が残っている。
強かった。
今の俺じゃ勝てなかった。
それは認めるしかない。
でも。
次に戦う時まで、同じままでいるつもりはない。
俺は剣の柄を握り直した。
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