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商隊と白狼

ギルドを出て、指定された場所へ向かう。


「ねえ」


 歩きながら、アリアが聞いてくる。


「護衛の依頼って初めて?」


「依頼として受けるのは初めてだな」


「依頼として?」


「ああ。王都に来る時も、商人の馬車の護衛を手伝ったんだ」


「へぇ。じゃあ経験あるんだ」


「経験って言っても、正式な冒険者になる前だけどな」


 あの時は、王都へ向かう馬車に同行した。


 ガレスとブルーノもいて、ブラッドベアに襲われた時には俺も二人と一緒に戦った。


「じゃあ、頼りにしてるわよ。先輩」


「お前と冒険者になったの、そんなに変わらねぇだろ」


「私より先なら先輩でしょ?」


「都合のいい時だけ先輩扱いすんな」


「いいじゃない」


 アリアが楽しそうに笑う。


「ランド」


「ん?」


 レンが前を指差した。


「あれじゃない?」


 見る。


 三台の馬車が店の前に並んでいた。


 従業員らしい男たちが、次々と荷物を積み込んでいる。


「ここみたいですね」


 ルシオンが紙を確認する。


 俺は店の看板を見上げた。


「……やっぱり」


「何が?」


 アリアが俺を見る。


「知ってる店だ」


「え?」


 その時だった。


「おや?」


 聞き覚えのある声がした。


 店から一人の男が出てくる。


 俺を見るなり、目を丸くした。


「ランド君ではありませんか!」


「ロイドさん」


「やはりランド君でしたか!」


 ロイドさんが嬉しそうに近づいてくる。


「どうしてこちらに?」


「依頼を受けたんです」


「依頼?」


 俺が依頼書を見せる。


 ロイドさんはそれを確認して――。


「これは驚きました」


 嬉しそうに笑った。


「今回、私どもの商隊を護衛してくださるのはランド君たちだったんですね」


「俺も依頼を受けるまで知りませんでした」


「それは心強い」


 ロイドさんが俺の肩を軽く叩く。


「以前は王都までの道を一緒に来ましたが、今度は正式な冒険者として護衛を引き受けてくださるとは」


「まあ、まだブロンズですけど」


「ランクだけが全てではありませんよ」


 ロイドさんが笑う。


「ランド君が戦えることは、私もよく知っていますから」


 ブラッドベアのことを思い出す。


 あの時は、俺自身にも何が起きたのか分からなかった。


 それでも――。


 あの時は守られる側に近かった俺が、今度は正式な護衛としてここに立っている。


 そう考えると、少しだけ不思議な気分だった。


「ルシオン君も一緒でしたか」


「はい。またお世話になります」


「こちらこそ。先日は店にも来ていただき、ありがとうございました」


 それから、ロイドさんはレンを見る。


「レン君もよろしくお願いします」


「よろしく」


 そして最後に――。


 アリア。


「それで、こちらのお嬢さんは?」


「アリアよ」


 アリアが一歩前へ出る。


「今日、冒険者になったの」


「今日?」


 ロイドさんが目を丸くする。


「はい」


「本当に今日です」


 俺が付け加える。


「なるほど……」


 一瞬驚いたものの、ロイドさんはすぐにいつもの笑顔へ戻った。


「私はロイドと申します。この店を営んでおります」


「店主さん?」


「ええ」


 アリアが店を見る。


 次に馬車を見る。


 さらに、積み込まれている木箱を見る。


「……これ全部、ロイドさんの商品?」


「ええ。今回、別の街へ運ぶ商品です」


「へぇ……」


 アリアが木箱をじっと眺める。


「ちなみに――」


「値段は教えませんよ」


「まだ何も言ってない!」


「顔に書いてありました」


「そんなに!?」


 ロイドさんが楽しそうに笑う。


「商売に興味がおありで?」


「商売というか、お金に興味があるの」


「なるほど」


 ロイドさんが少しだけ笑みを深くする。


「正直でよろしい」


「でしょ?」


「ロイドさん、こいつを調子に乗らせないでください」


「何よ!」


 そのやり取りを見て、ロイドさんがまた笑った。


「面白いお仲間が増えましたね」


「まだ仲間じゃないです」


「今日だけ一緒に依頼を受けてるの」


 俺とアリアの声が重なる。


「……」


 顔を見合わせる。


「真似すんなよ」


「そっちでしょ!」


「ははは」


 ロイドさんが声を上げて笑った。


     ◇


「ところで」


 俺は周囲を見る。


「ガレスとブルーノはいないんですか?」


「ええ。二人には別の仕事をお願いしています」


「じゃあ今回は?」


「皆さんにお任せします」


 ロイドさんが三台の馬車を見る。


「私は王都に残らなければなりませんので、同行するのは御者と店の者だけです」


「分かりました」


 前にロイドさんの馬車を護衛した時は、ガレスとブルーノがいた。


 二人とも護衛には慣れていた。


 その二人がいない。


 今回は、俺たちがこの三台を守る。


 そう思うと、さっきまでより少しだけ責任が重く感じた。


「ロイドさん」


「はい?」


「白狼旅団の話、知ってますか?」


 ロイドさんの表情がわずかに変わった。


「……ギルドから聞きましたか」


「はい」


「商人の間でも噂にはなっています」


「やっぱり危ないんですか?」


 アリアが聞く。


「商人にとっては、できれば関わりたくない相手ですね」


 ロイドさんは少しだけ声を落とした。


「荷を奪われるだけならまだしも、護衛や御者が傷つけられたという話もあります」


「……」


 さっきまで騒がしかったアリアも黙る。


「もっとも、今回の街道で白狼旅団の活動が確認されたわけではありません」


「ギルドでもそう言ってました」


「ええ。ですから、予定通り出発します」


 ロイドさんが三台の馬車を見る。


「ですが、万が一ということがあります。そのために今回はギルドへ護衛をお願いしました」


「分かりました」


「ランド君」


「はい?」


「商品も大切ですが、危険になった場合は従業員と皆さんの命を優先してください」


「商品はいいんですか?」


「商品は失っても、また仕入れればいい」


 ロイドさんは穏やかに笑う。


「ですが、人の命は買い戻せませんから」


「……分かりました」


 俺は頷く。


「必ず無事に送り届けます」


「よろしくお願いします」

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