新人冒険者アリア
そして翌朝。
俺たちが冒険者ギルドへ入ると――。
「ランド!」
いきなり名前を呼ばれた。
「ん?」
声のした方を見る。
受付の前に、見覚えのある少女が立っていた。
「アリア?」
「おはよう!」
昨日あれだけの目に遭ったとは思えないくらい元気だ。
「お前、朝から何してんだ?」
「何って、決まってるでしょ」
アリアがにっと笑う。
「見て!」
何かを俺の顔の前へ突き出してきた。
「うおっ」
顔を引いて、それを見る。
冒険者証だ。
名前は――アリア。
そしてランクの欄には、ウッドと刻まれている。
「……本当になったのか」
「言ったでしょ? 冒険者になるって」
アリアが得意げに胸を張る。
「昨日の今日だぞ」
「思い立ったらすぐ行動よ」
「昨日それで死にかけただろ」
「……それは本当に反省してるわよ」
アリアが少しだけ目を逸らす。
「だから今回はちゃんと手順を踏んだの」
「当たり前だ」
「登録料だってちゃんと払ったし」
「そこ強調するところか?」
「お金が減ったんだから重要でしょ」
「やっぱりそこかよ」
後ろからルシオンが冒険者証を覗き込む。
「ちゃんとウッドですね」
「そうなのよ……」
アリアが不満そうに自分の冒険者証を見る。
それから、俺たち三人を見た。
「ランドたちはブロンズなのよね?」
「ああ」
「……」
俺たちを見る。
また自分の冒険者証を見る。
「……なんか悔しい」
「なんでだよ」
「だって私だけウッドじゃない!」
「昨日まで冒険者ですらなかっただろ」
「それはそうだけど!」
アリアは冒険者証を握り締める。
「すぐ追いつくから!」
「頑張れよ」
「精進したまえ。高みで待ってるぞ」
レンが腕を組み、偉そうに言い放つ。
「お前も冒険者になって日が浅いだろ」
「しかも、まだブロンズですからね」
「気持ちはもう上にいるから」
「気持ちだけかよ」
「何よ、その余裕!」
「いや、俺は別に競ってねぇし」
「私は競ってるの!」
「勝手に競うなよ」
朝から元気な奴だ。
けど――。
俺はアリアが持っている冒険者証を見る。
昨日、冒険者になるとは言っていた。
でも、本当に翌朝には登録しているとは思わなかった。
「なあ、アリア」
「何?」
「昨日からちょっと気になってたんだけど」
「何が?」
「お前、そんなに金が欲しいのか?」
「欲しいわよ」
即答だった。
「だって冒険者って稼げるんでしょ?」
アリアが指を一本立てる。
「依頼を達成すれば報酬が貰える」
二本目。
「倒した魔物の素材も売れる」
三本目。
「ブロンズになればダンジョンにも正式に入れる」
そして四本目――を立てようとして、止まる。
「……とにかく、稼ぐ方法がいっぱいあるじゃない」
「四つ目なかったのかよ」
「細かい!」
アリアが手を下ろす。
「それに私、《治癒》も使えるし。昨日戦ってみて分かったけど、魔物ともそれなりに戦える」
「まあ、それはな」
「だったら冒険者にならない方がもったいないでしょ?」
「もったいないって……」
「使えるものを使わないのは損よ」
やっぱりアリアらしい考え方だ。
ただ、一つ気になった。
「でも、なんでそんなに金が欲しいんだ?」
「……」
アリアが黙った。
「ん?」
さっきまでなら、すぐに何か返してきたはずなのに。
アリアは少しだけ視線を逸らす。
「……別にいいでしょ」
「いや、別にいいけど」
「お金なんて、あって困るものじゃないんだから」
そう言って笑う。
いつもの明るい笑顔。
けれど――。
ほんの少しだけ、無理に笑ったように見えた。
「それより!」
アリアがぱんっと手を叩く。
「今日は何か依頼受けるの?」
「ああ。そのつもりだけど」
「じゃあ私も行く」
「……は?」
「私も一緒に依頼受ける」
「いきなりかよ」
「だって私、今日登録したばっかりなのよ?」
アリアが冒険者証を見せる。
「依頼の選び方も分からないし、冒険者として何をすればいいのかも分からない」
「それは受付で聞けよ」
「それも聞くわよ。でも、実際にやるなら経験者と一緒の方がいいでしょ?」
「経験者って言っても、俺たちも冒険者になってそんなに経ってないぞ」
「私よりは先輩じゃない」
「まあ……そうだけど」
「それに――」
アリアが俺たち三人を見る。
「昨日一緒に戦ったから、あなたたちが信用できるのは分かってるし」
それを言われると、断る理由もない。
「ルシオン、レン。どうする?」
「僕は構いませんよ」
ルシオンが答える。
「アリアさんの《治癒》には昨日助けられましたし、戦い方もある程度分かっています」
「僕もいいよ」
レンもあっさり頷く。
「二対一ね」
「俺も別に反対してねぇよ」
「じゃあ決まり!」
アリアが笑う。
「今日は四人ね」
「今日だけな」
「分かってるわよ」
アリアもそこはあっさりしていた。
別に、仲間になったわけじゃない。
今日は一緒に依頼を受ける。
今のところは、それだけだ。
「それじゃあ、何にする?」
アリアが依頼板へ向かう。
「おい、勝手に決めるなよ」
「分かってるって」
「あと、お前はウッドなんだからな。受けられる依頼にしろよ」
「分かってるわよ!」
「本当か?」
「信用ないわね!」
「昨日の今日だからな」
「うっ……」
アリアが言葉に詰まった。
「反論できないなら大人しくしとけ」
「もう!」
俺たちもその後を追った。
その途中。
俺は、さっきのアリアの顔を思い出していた。
『お金なんて、あって困るものじゃないんだから』
それ自体は間違っていない。
けど――。
あいつが、どうしてあそこまで金にこだわるのか。
結局、その理由は聞けなかった。
まあ、まだ会って二日目だ。
無理に聞き出すようなことでもない。
いつか話したくなったら、その時に聞けばいい。
今はまだ――。
それでいいだろう。
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