特例昇格、そしてダンジョンへ
翌朝。
目が覚めて、身体を起こそうとした瞬間。
「いってぇ……」
全身が軋んだ。
腕も肩も背中も重い。
昨日はなんともなかった場所まで痛む。
グレイウルフの群れと戦った後に、キラーマンティスだ。
考えてみれば、身体が平気な方がおかしい。
どうするかと思って二人を見ると、ルシオンも似たような状態だった。
「僕も今日は休みます。昨日はかなり魔力を使いましたから」
「やっぱ疲れてるか」
「ええ。魔力そのものが戻っても、身体の疲れまで完全になくなるわけではありませんから」
「なるほどな」
そしてレンは――。
「……身体がなんか重い。動きたくない」
「お前もか」
「うん」
毛布にくるまったまま、起きようともしない。
「なら今日は大人しく休もうぜ」
「それに賛成」
「そうですね。身体を休めるのも必要です」
「あっ、でもご飯は食べるからね」
「それは食うのかよ」
「お腹は痛くないから」
「元気じゃねぇか」
結局、その日は依頼を受けなかった。
飯を食って。
装備を手入れして。
身体が少し楽になってから、三人で王都をぶらついた。
王都へ来てから、こうして何もせず過ごすのは初めてだった。
たまには、こういう日も悪くない。
◇
そして翌朝。
身体の痛みも、だいぶ引いていた。
宿で簡単な朝飯を済ませ、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けると、朝から相変わらずの賑わいだ。
依頼板の前には冒険者が集まり、受付にもすでに列ができている。
「まずは昇格の結果だな」
「ええ。そろそろ出ていると思います」
ルシオンと話しながら受付を見る。
ちょうどアイリスさんのところが空いた。
「行くか」
「はい」
三人で受付へ向かう。
すると、俺たちに気付いたアイリスさんが表情を明るくした。
「あっ、ランドさんたち。ちょうどよかったです!」
「おはようございます」
「おはようございます」
アイリスさんは俺たち三人を見回した。
「先日お話しした特例昇格の審査ですが、結果が出ましたよ」
「本当ですか?」
「はい。少々お待ちください」
アイリスさんが受付の奥へ引っ込み、三枚の冒険者証を持って戻ってくる。
「ランドさん、ルシオンさん、レンさん」
そして、嬉しそうに笑った。
「おめでとうございます。三名とも、ブロンズへの昇格が認められました」
「……マジで!?」
思わず声が大きくなる。
「はい。マジです」
「やった!」
差し出された冒険者証をすぐに受け取る。
ランド・ヴィクトリーノ。
名前は変わらない。
だけど、その下に刻まれているランクは――。
ウッドではない。
ブロンズ。
「本当に上がってる……!」
分かっていた。
審査に通る可能性があることも聞いていた。
それでも、実際に自分の冒険者証を見ると実感が湧いてくる。
冒険者になって、初めての昇格。
しかも、アイアンを飛ばしてブロンズだ。
「ふふっ。嬉しそうですね」
「そりゃ嬉しいですよ!」
ルシオンも自分の冒険者証を確認している。
普段あまり表情を変えないこいつも、少しだけ口元が緩んでいた。
レンは冒険者証を表にしたり裏にしたりしながら眺めている。
「それにしても、本当にすごいですよ」
アイリスさんが言う。
「皆さん、冒険者になってまだそれほど経っていませんよね?」
「そうですね」
「普通なら、こんな短期間でブロンズへ上がることはまずありません」
それから、アイリスさんが俺を見る。
「ランドさんも、よく頑張りましたね」
「……」
真正面からそう言われると、なんだか落ち着かない。
「いや……」
俺は冒険者証を握り直した。
「俺一人の力じゃ、ここまで来られませんでした」
「ランドさん?」
「ルシオンやレンがいたからです」
二人へ目を向ける。
「仲間の力があったから、ここまで来られたんだと思います」
……決まった。
我ながら、ちょっと格好いいことを言った気がする。
「素敵ですね」
アイリスさんが微笑む。
「仲間を大切にしてるんですね」
「いや、まあ……当然のことを言っただけですよ」
できるだけ自然に答える。
「ランド」
「なんだ?」
レンが俺を見ていた。
「今、格好つけたでしょ」
「つけてねぇよ!」
「言ったあと、ちょっと満足そうな顔してた」
「してねぇ!」
「してましたね」
ルシオンまで頷いた。
「お前まで!?」
「言っていること自体は立派でしたよ」
「だろ!?」
「ただ、『今のは決まった』と思っていた顔でした」
「なんで分かるんだよ!」
アイリスさんが口元を押さえて笑う。
「ふふっ。本当に仲がいいんですね」
「どこを見たらそうなるんですか!」
「こういうところじゃない?」
「お前が言うな!」
ったく。
せっかく綺麗に決まったと思ったのに。
「それで」
俺は誤魔化すように冒険者証をしまう。
「ブロンズになると、何が変わるんですか?」
「まず、受けられる依頼の幅が広がります」
アイリスさんが説明する。
「ウッドでは受けられなかった、より危険度の高い依頼も受注できるようになります。それから――」
一枚の紙を取り出した。
「王都近郊にあるダンジョンへの探索が許可されます」
「ダンジョン?」
聞いたことはある。
だが、実際に入ったことはない。
「はい。基本的に、ブロンズ以上の冒険者に探索が許可されています」
「魔物がいるところですよね?」
「それだけではありません」
すぐにルシオンが反応した。
「内部には魔石や鉱石、希少な薬草なども存在します。さらにダンジョンごとに内部構造や生態系が異なり、その成り立ちについては諸説あって――」
「ちょっと待て」
「何です?」
「説明長くなるやつだろ」
「まだ入り口ですが」
「やっぱりかよ」
アイリスさんがくすっと笑う。
「詳しい説明は、初めて探索する際にも受けられます」
「なら助かります」
「ただし、皆さんが探索できるのは現時点では低階層までです」
「ブロンズだからですか?」
「はい。深い階層ほど危険な魔物が出現しますから」
「なるほど……」
ダンジョン。
森や草原とは違う場所で魔物と戦う。
魔物だけじゃなく、珍しい素材もある。
そう聞くと、自然と興味が湧いてくる。
「行ってみるか?」
俺は二人を見る。
「僕は賛成です」
ルシオンはすぐに答えた。
「ダンジョンでしか手に入らない素材もあります。一度探索しておく価値はあるでしょう」
「僕も行きたい」
レンも頷く。
「決まりだな」
「ただし」
アイリスさんが口を挟んだ。
「今日すぐに向かうのはおすすめしません」
「なんでです?」
「通常の依頼とは、必要な準備が少し違います」
アイリスさんが指を折る。
「灯り。予備の食料と水。縄。採取用の道具。それから、できれば予備の回復薬も用意してください」
「結構いるんだな」
「準備不足が命取りになることもありますから」
なるほど。
俺は腰の革袋へ触れる。
金ならある。
この前の報酬が、一人金貨十枚。
「なら今日は準備するか」
「そうですね」
ルシオンも頷く。
「必要な物を揃えて、明日の朝から探索するのがいいでしょう」
「となると、道具を買わねぇとな……」
どこかいい店は――。
「あ」
一人の顔が浮かんだ。
「ロイドさんの店なら、そういう道具も売ってるんじゃねぇか?」
「そういえば、この前寄らせていただきましたね」
「ああ。ロイドさんなら扱ってそうだろ」
「では、行ってみましょう」
「決まりだな」
ここまで読んでくださった皆様、ぜひブックマーク・評価をお願いします!
一つでも増えると作者がめちゃくちゃ喜びます。




