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キラーマンティス

速い。


 右の鎌が振り上げられる。


「くっ!」


 俺は剣を上げた。


 ――ギィィンッ!!


「ぐっ……!」


 腕に強烈な衝撃が走る。


 重い!


 まともに受け止めきれず、二歩、三歩と後ろへ押された。


「ランド!」


 バルトの治療をしていたルシオンの声が飛んでくる。


「大丈夫だ!」


 剣を握り直す。


 そこで、ふと刃が目に入った。


「……あ?」


 傷一つない。


 あれだけの鎌をまともに受けたのに、刃こぼれすらしていなかった。


 村にいた頃は深く考えたこともなかった。


 母さんが残した剣だから使っていただけだ。


 けど――。


「こいつ……そんなに頑丈だったのか」


 考えている暇はない。


 キラーマンティスのもう片方の鎌が動いた。


「ランド! もう一つ来る!」


「っ!」


 右の鎌を引いた直後、左の鎌が横薙ぎに迫る。


 今度は受けない。


 後ろへ跳ぶ。


 ――ヒュンッ!


 鎌が腹の前を通り過ぎ、そのまま後ろの木へ食い込んだ。


 ――ズバッ!


 俺の腕より太い幹に、深い切れ目が入る。


「……剣が平気でも、俺の腕がもたねぇな」


 さっき受けた右腕がまだ痺れている。


 何度もまともに受けるのは無理だ。


「だから逃げろって言ったんだ!」


 ダリオが叫ぶ。


「今さら遅ぇよ!」


 キラーマンティスが再び右の鎌を振るう。


「っ!」


 俺は左へかわした。


 だが――。


「あ?」


 左の鎌。


 俺が逃げた先へ、すでに回り込んでいる。


「――っ!」


 咄嗟に身体を沈めた。


 頭上を鎌が通り過ぎる。


 風圧で髪が揺れた。


「危なっ……!」


 すぐに距離を取る。


 キラーマンティスは追ってこない。


 二本の鎌を広げ、こちらを見ている。


「こいつ……」


 今ので分かった。


 ただ鎌を振り回してるんじゃねぇ。


 一つ目を避けたところへ、もう一つを合わせてくる。


「逃げる方向を狙ってやがる」


「そうみたいだね」


 レンが俺の横へ出る。


「面倒だな」


「うん。でも分かった」


「何が?」


「二本同時には振ってない」


「あ?」


 レンの視線が二本の鎌を追う。


「片方を振って、逃げたところにもう片方を出してる」


 俺もキラーマンティスを見る。


 右。


 左。


 二本の鎌を連続させて、逃げ道を潰してくる。


「だったら――」


 最初の鎌を振った直後。


 そこに隙がある。


「ダリオ!」


「なんだ!」


「お前、こいつとどれくらい戦ってた!」


「長くはねぇ! バルトがやられてから、ずっと時間を稼いでただけだ!」


「何か癖は!」


「分かってたらとっくに倒してる!」


「そりゃそうか!」


「お前ら余裕あんのか!?」


「ねぇよ!」


 キラーマンティスが再び身体を沈める。


 俺は剣を握り直した。


 右腕はまだ少し痺れている。


 グレイウルフとの戦いで身体も疲れてる。


 ルシオンはバルトの治療中。


 ダリオだって消耗してる。


 条件は最悪。


 だけど――。


「やるしかねぇな」


 レンが構える。


 ダリオも剣を上げた。


 キラーマンティスが二本の鎌を広げる。


 グレイウルフを倒して、今日はもう終わったと思ってた。


 あとは王都へ帰って飯を食うだけだった。


 どうやら――。


「簡単には帰してくれねぇらしいな」


 キラーマンティスが地面を蹴った。


「来るぞ!」


 真っ直ぐ――じゃない。


 途中で身体の向きを変えた。


「レン!」


「僕だね」


 キラーマンティスがレンへ迫る。


 二本の鎌が開く。


 右。


 先に動いた。


「レン、右だ!」


「うん」


 巨大な鎌が振り下ろされる。


 だが、レンはまだ動かない。


「おい!」


 鎌が頭へ届く寸前――レンの身体が沈んだ。


 半歩、横へ。


 ――ズガッ!


 鎌が地面へ突き刺さる。


 レンはその横を抜け、一気に懐へ潜り込んだ。


 速ぇ。


 俺との手合わせでも分かってた。


 こいつはただ力が強いんじゃない。


 相手の動きを見て、最小限の動きで懐へ入る。


 身体の使い方が、俺とはまるで違う。


「ふっ!」


 ――ドッ!


 拳が腹へ突き刺さった。


 キラーマンティスの巨体がわずかに揺れる。


 だが――。


「硬い」


「レン!」


 左の鎌が迫る。


 レンは地面を蹴った。


 鎌の軌道から身体を外し、そのまま後方へ転がる。


 ――ヒュンッ!


 さっきまでレンがいた場所を鎌が通り過ぎた。


 レンはすぐに立ち上がる。


「……効いてねぇのか?」


「少しは。でも、外側はかなり硬い」


「だったら殴る場所を変えるしかねぇな」


 その時。


「ランド!」


 後ろからルシオンの声が飛んできた。


「バルトさんの止血は終わりました!」


「動けるか!?」


「歩く程度なら! 走るのは無理です!」


「十分だ!」


 ニーナがバルトの肩を担ぐ。


「ダリオ!」


「なんだ!」


「バルトは私が連れていく!」


「頼む!」


「でも、あんたたちは――」


「こっちは大丈夫だ! 早く行け!」


 ニーナは一瞬迷ったが、頷いた。


「……絶対戻ってきなさいよ!」


「当たり前だ!」


 二人が離れていく。


 入れ替わるようにルシオンが俺たちのところへ戻ってきた。


 杖を構える。


「ルシオン! あいつ、何か分かるか?」


「見てみます!」


 ルシオンの瞳に淡い光が宿った。


 あの眼だ。


 視線がキラーマンティスの全身をなぞっていく。


「……全身に魔力が巡っています。特に鎌と胸、それから背中が強い」


「だから硬ぇのか」


「ですが、関節部分は流れが弱いです!」


「関節?」


「外殻の繋ぎ目です! 脚の付け根、身体の節、それと――」


 杖の先が二本の鎌へ向く。


「鎌の根元!」


 見る。


 二本の巨大な鎌。


 確かに胴体と繋がっている部分だけ、硬そうな外殻が途切れている。


「そこなら通るか?」


「断言はできません! でも、外殻を正面から狙うよりは!」


「十分だ!」


 俺はレンを見る。


「聞こえたな?」


「うん」


「あの鎌、一本潰すぞ」


「分かった」


 キラーマンティスが動いた。


 今度の標的は――俺。


「来る!」


 右の鎌が振り下ろされる。


 受けない。


 左へかわす。


 直後、もう片方の鎌が俺の逃げた先へ回り込んでくる。


 分かってる。


「二発目!」


 身体を沈める。


 ――ヒュンッ!


 頭上を鎌が通過した。


 そのまま懐へ踏み込む。


「おらぁっ!」


 剣を振る。


 ――ギィンッ!


「ちっ!」


 やっぱり硬ぇ。


 浅い傷しか入らない。


 キラーマンティスが鎌を引き戻す。


「ランド、離れて!」


「っ!」


 レンの声に反応し、後ろへ跳ぶ。


 目の前を鎌が通り過ぎた。


「このままじゃ埒が明かねぇな」


 硬い。


 速い。


 おまけに二本の鎌で互いの隙を埋めてやがる。


 なら――。


「一本潰すぞ」


 ダリオが俺を見る。


「簡単に言うな」


「簡単じゃねぇから四人でやるんだよ」


「……はっ。違いねぇ」


 俺は剣を見る。


 あれだけ硬い外殻を斬ったのに、刃には傷一つついていない。


 剣はもつ。


 問題は俺の腕だ。


「ルシオン!」


「はい!」


「この剣、もっと斬れるようにできねぇか?」


「できます。ただ、外殻を真っ二つにできるほどではありませんよ」


「関節なら?」


「それなら可能性はあります」


「十分だ!」


 ルシオンが俺の剣へ杖を向ける。


「剣を前へ!」


 言われた通り、刀身を突き出す。


「《炎纏》!」


 ――ボッ!


「うおっ!?」


 刀身が一瞬にして炎に包まれた。


「大丈夫です。ランドには熱くありません!」


「……びっくりしただけだ」


「炎と魔力で刃を補助しています。さっきよりは通りやすくなるはずです!」


「なら十分だ!」


 母さんが残した剣。


 その刀身を赤い炎が覆っている。


「長くは持ちません!」


「速攻で決める!」


「来るぞ!」


 ダリオが叫ぶ。


 キラーマンティスが突っ込んでくる。


「レン!」


「うん」


「俺とダリオで鎌を引きつける! ルシオンは援護!」


「分かりました!」


 俺とダリオが左右へ分かれる。


 キラーマンティスの頭が動く。


 俺。


 ダリオ。


 ――俺だ。


 右の鎌が持ち上がる。


「来い!」


 真正面から走る。


「おい、ランド!」


 ダリオが叫ぶ。


 まだだ。


 もう少し。


 距離が一気に縮まる。


 鎌が振り下ろされる。


 ギリギリまで引きつけ――。


「今だ!」


 横へ飛ぶ。


 ――ズガァン!


 巨大な鎌が地面へ突き刺さった。


「レン!」


 呼んだ時には――。


「もういるよ」


 レンは懐にいた。


「いつの間に!?」


 ダリオが目を見開く。


 レンが地面を蹴る。


 狙いは右鎌の根元。


「ふっ!」


 ――ゴッ!


 拳が関節へ突き刺さった。


 キラーマンティスの身体が大きく揺れる。


 だが、折れない。


 左の鎌が動く。


「レン!」


 レンはすぐに飛び退いた。


 ――ヒュンッ!


 鎌が目の前を薙ぎ払う。


「一発入れたら離れろ! 欲張んな!」


「分かった」


 右鎌の付け根。


 わずかだが、ひびが入っている。


「効いてる!」


「なら、もう一度です!」


 ルシオンが杖を振った。


「《氷結》!」


 冷気が地面を走る。


 キラーマンティスが踏み込もうとした場所が凍りついた。


 ――ズルッ!


 巨体が傾く。


「今だ!」


 俺とレンが同時に飛び込む。


「俺が先に斬る! 続け!」


「うん!」


 炎を纏った剣を振り上げる。


 狙うのは、ひびの入った右鎌の根元。


「おらぁっ!」


 ――ザシュッ!


 入った。


 炎を纏った刃が関節へ食い込む。


「ぐっ……!」


 硬い。


 けど、通る。


「レン!」


「任せて」


 剣を引く。


 同時にレンと入れ替わる。


 レンが腰を落とした。


「ふっ!」


 ――ゴギィッ!


 俺が斬り込んだ場所へ拳が突き刺さる。


 嫌な音が響いた。


 巨大な右鎌が力を失い、ぶらりと垂れ下がる。


「よし!」


「一本潰した!」


 ダリオが叫ぶ。


 キラーマンティスが大きく後退する。


 初めてだ。


 こいつが自分から俺たちとの距離を取った。


 俺は炎を纏った剣を構え直す。


 横にはレン。


 後ろにはルシオン。


 反対側にはダリオ。


 まだ終わってない。


 左の鎌が残ってる。


 外殻だって健在だ。


 けど――。


 最初とは違う。


 倒し方が見えてきた。


「次は左?」


 レンが聞く。


「いや。同じ手はもう通じねぇ」


 右鎌を潰されたんだ。


 次に左を狙えば、向こうだって警戒する。


「レン。次は脚だ」


「脚?」


「ああ。鎌は一本潰した。今度は動きを止める」


 レンが脚へ視線を落とす。


「関節だね」


「できるか?」


「やってみる」


「よし」


 俺はダリオを見る。


「俺たちで残った鎌を引きつける」


「また危ない役か」


「バルトの借り、返すんだろ?」


 ダリオが一瞬黙る。


 それから剣を握り直した。


「……当たり前だ」


「ルシオン」


「状況を見て援護します。《炎纏》もまだ少し持ちます」


「頼む」


 キラーマンティスが残った左鎌を持ち上げる。


 複眼が俺たちを見ている。


 怒ってるのか。


 怯えてるのか。


 虫の顔なんて分からねぇ。


 でも、一つだけ分かる。


 さっきまでとは違う。


 俺たちを警戒してる。


 俺も疲れてる。


 ルシオンだって魔法を何度も使ってる。


 ダリオは俺たちが来る前から戦っていた。


 それでも――。


 戦える。


 レンが隙を作る。


 ルシオンが弱点を見つける。


 ダリオが鎌を引きつける。


 俺が斬る。


 誰か一人じゃない。


 全員で、こいつを倒す。


「行くぞ。こいつ、倒せるぞ」


「うん」


 レンが拳を構える。


「やりましょう」


 ルシオンが杖を上げる。


 ダリオも残った左鎌へ剣先を向けた。


「今度はこっちの番だ」


 キラーマンティスが鎌を振り上げる。


 俺とダリオが同時に地面を蹴った。


 残った左鎌が動く。


「来るぞ!」


 横薙ぎ。


 俺は身体を沈める。


 ――ヒュンッ!


 頭上を鎌が通り過ぎる。


「ダリオ!」


「おう!」


 反対側からダリオが踏み込んだ。


「こっちだ!」


 剣を振る。


 ――ギィンッ!


 硬い外殻に弾かれる。


 だが、それでいい。


 キラーマンティスの頭がダリオへ向いた。


「レン!」


「うん」


 もう動いている。


 キラーマンティスの背後へ回り込み、低く身体を沈める。


 狙うのは後脚。


 外殻と外殻の継ぎ目。


「ふっ!」


 ――ゴッ!


 拳が関節へ突き刺さった。


「ギィッ!」


 巨体が揺れる。


 レンは欲張らず、すぐに離れた。


 キラーマンティスが振り返ろうとする。


「させるか!」


 俺が前へ出る。


 炎を纏った剣を振る。


 残った左鎌がそれを受けた。


 ――ギィンッ!


「ぐっ!」


 腕に衝撃が走る。


 重い。


 けど――。


「今だ、レン!」


「分かってる」


 背後。


 レンがもう一度後脚へ入る。


 同じ関節。


 今度は拳じゃない。


 軸足を踏み込み、腰を回す。


 その踵が関節を打ち抜いた。


 ――ゴキッ!


「ギィィィィッ!」


 後脚が崩れる。


 キラーマンティスの巨体が大きく傾いた。


「効いた!」


 だが、倒れない。


 残った脚で無理やり身体を支えている。


「もう一本」


「待て」


 俺はレンを止めた。


「必要ねぇ」


 右鎌は潰れている。


 後脚も一本使えない。


 さっきまでとは明らかに動きが鈍い。


「仕留めるぞ」


 キラーマンティスが残った左鎌を振り上げる。


 まだ危険だ。


 けど――。


 もう、どう戦えばいいかは分かってる。


「ダリオ!」


「おう!」


「残った鎌を頼む!」


「簡単に言いやがる!」


「できるだろ!」


「やってやるよ!」


 ダリオが走る。


「こっちだ、化け物!」


 キラーマンティスの頭が動く。


 左鎌がダリオへ振り下ろされる。


 ――ギィンッ!


「ぐっ……!」


 ダリオが剣で受けた。


 身体ごと押される。


「重っ……!」


「ルシオン!」


「分かってます!」


 杖が地面へ向く。


「《氷結》!」


 ――パキパキッ!


 キラーマンティスの足元が凍りつく。


 踏ん張ろうとした脚が滑った。


「ギッ!?」


 さらに、潰された後脚が体重を支えきれない。


 巨体が前へ傾く。


 ――ズンッ!


 三角形の頭が一気に低くなった。


「ランド!」


「ああ!」


 見えてる。


 首。


 頭と胴体を繋ぐ外殻の継ぎ目。


 さっきルシオンが言っていた、魔力の流れが弱い場所。


 俺は地面を蹴った。


 キラーマンティスが身体を起こそうとする。


 だが、潰れた後脚がついてこない。


 左鎌だけが持ち上がる。


「させるか!」


 ダリオが再び飛び込んだ。


 ――ギィンッ!


「ぐっ!」


 鎌を剣で受け止める。


「ランド! 早くしろ!」


「おう!」


 走る。


 レンの横を抜ける。


「ランド」


「あ?」


「外さないでね」


「誰に言ってんだ!」


 炎を纏った剣を両手で握る。


 母さんの剣。


 あれだけキラーマンティスの鎌とぶつかっても、刃こぼれ一つしていない。


 なら――。


 俺がやることは一つだ。


「おおおおおっ!」


 踏み込む。


 腰を回す。


 狙うのは首の継ぎ目。


 全身の力を剣へ乗せる。


 ――ザシュッ!


「ギィィィィッ!」


 刃が食い込む。


 深い。


 けど――。


「くそっ!」


 止まった。


 あと少し。


 キラーマンティスが暴れる。


「ランド!」


 ダリオが弾き飛ばされた。


 残った鎌が持ち上がる。


 まずい。


 この距離じゃ避けられない。


 剣を抜けば間に合うかもしれない。


 でも――。


 抜いたら、また仕切り直しだ。


「だったら――!」


 柄を握る。


 逃げない。


 このまま押し切る。


 鎌が振り下ろされる。


 その瞬間。


「させない」


 レンだった。


 俺の横を抜ける。


 狙ったのは首じゃない。


 残った左鎌の根元。


 腰を落とす。


 拳を引く。


「ふっ!」


 ――ゴキンッ!


 拳が関節へ突き刺さった。


 左鎌が大きく逸れる。


 ――ズガンッ!


 俺のすぐ横。


 地面へ鎌が叩きつけられた。


「ランド!」


「おう!」


 これで邪魔するものはない。


 俺は歯を食いしばった。


 両足で地面を踏む。


 腰を回す。


 腕だけじゃない。


 身体全部で――。


「おらあああああっ!」


 剣を押し切った。


 ――ザンッ!


 刃が振り抜ける。


 三角形の頭が宙を舞った。


 地面へ落ちる。


 ――ゴトッ。


 一瞬遅れて。


 首を失った巨体が傾いた。


 ――ズズンッ!


 地面が揺れた。


「……」


 誰も動かなかった。


 俺も剣を構えたまま、倒れたキラーマンティスを見ていた。


 動かない。


 本当に――終わった。


「……倒した?」


 レンが言う。


「……たぶんな」


「たぶんってなんですか」


 後ろからルシオンの声。


「首がなくて動いたら、僕はもう知りませんよ」


「それもそうだな」


 力が抜けた。


「はぁぁぁ……」


 その場に座り込みそうになる。


 右腕が痛い。


 身体も重い。


 グレイウルフと戦った後に、これはさすがにきつい。


 剣を見る。


 刀身を包んでいた炎が、ゆっくりと消えていく。


 そして――。


「……やっぱり」


 刃を見る。


 あれだけ硬い鎌とぶつかって。


 外殻を斬って。


 最後にはキラーマンティスの首まで落とした。


 それなのに。


 刃こぼれ一つしていない。


 昔は何とも思わなかった。


 母さんが使っていたから。


 母さんが残してくれたから。


 それだけで使っていた剣。


 でも――。


「これ、本当に普通の剣なのか?」

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