拳法使いの少年
翌朝。
窓から差し込む朝日に目を覚ます。
大きく伸びをすると、ルシオンもゆっくりと起き上がった。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
二人で身支度を整え、一階で朝食を済ませる。
焼きたてのパンにスープ。
質素だが十分な朝飯だった。
宿を出ると、王都はすでに活気に包まれている。
露店の商人たちが店を開き始め、職人たちは忙しそうに仕事場へ向かっていた。
「今日も賑やかですね」
「ああ」
「まずは回復薬だったな」
「はい」
「一本持っているだけでも安心です」
俺は街道で助けた商人の顔を思い出す。
「確か、この辺だったはずだ」
ルシオンが俺を見る。
「場所は覚えていますか?」
「ああ」
「たぶん大丈夫だ」
「たぶんなんですね……」
「大丈夫だって」
二人で商店街へ向かう。
通りには武器屋や防具屋、雑貨屋が並び、店主たちが朝から客を呼び込んでいた。
「朝からすごい人ですね」
「昨日より多い気がするな」
少し歩くと、一軒の店が目に入った。
木製の看板には、
『ロイド商会』
と書かれている。
「あった」
「ここだ」
ルシオンが看板を見上げる。
「立派なお店ですね」
「ああ」
「入るぞ」
扉へ手を掛ける。
カラン、と鈴の音が店内へ響いた。
「いらっしゃいま――」
カウンターにいた少女が顔を上げる。
「あっ!」
「ランドさん!」
サラだった。
「よう」
「久しぶり」
「本当に来てくれたんですね!」
サラは嬉しそうに店の奥へ振り返る。
「お父さーん! ランドさんが来ました!」
「おや?」
店の奥からロイドが姿を現した。
俺を見ると、穏やかに微笑む。
「ランド君」
「本当に来てくださったんですね」
「ああ。回復薬を買いに来た」
「それはありがとうございます」
ロイドは嬉しそうに頷く。
「ぜひ寄ってくださいとは言いましたが、本当に来ていただけて嬉しいです」
「約束したしな。それに回復薬も欲しかった」
「お役に立てるなら何よりです」
ロイドはルシオンへ視線を向ける。
「こちらのお方は?」
「ああ」
「パーティーを組んだルシオンだ」
ルシオンが軽く頭を下げる。
「初めまして。ルシオンです」
ロイドも丁寧に一礼する。
「初めまして。ロイドと申します」
サラもぺこりと頭を下げた。
「サラです! よろしくお願いします」
挨拶を終えると、ロイドが俺を見る。
「それでは、回復薬ですね」
「ああ」
「昨日、初めて討伐依頼へ行ってな。持っておいた方がいいと思った」
ロイドは満足そうに頷いた。
「その判断は正しいですよ。回復薬は冒険者の命綱です。新人のうちから持ち歩く癖をつけておくと安心です」
そう言って棚から赤い小瓶を二本取り出す。
「こちらが初級ポーションです」
続いて、青い小瓶を一つ並べた。
「そしてこちらが解毒薬になります」
ルシオンが瓶を手に取り、光へかざす。
「保存状態もいいですね」
「しっかり管理されているのが分かります」
ロイドは微笑む。
「ありがとうございます。うちの自慢の商品ですから」
その横でサラがくすっと笑った。
「お父さん、また自慢してる」
「商人ですから」
ロイドも苦笑する。
「良い商品は、ちゃんとおすすめしませんと」
「自信があるなら安心だ」
俺は頷いた。
「じゃあ、ポーション二本と解毒薬一本頼む」
「かしこまりました」
ロイドは丁寧に商品を袋へ入れる。
「こちらになります。使う機会がないのが一番ですが、もしもの時は迷わず使ってください」
「ああ」
俺は袋を受け取り、大事に腰へしまった。
これで、昨日より少しは安心して依頼に出られる。
ロイド商店を出た俺たちは、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
その時だった。
ギルドへ入ると、朝だというのに酒場兼食堂には何人もの冒険者が集まっていた。
その時だった。
「……ごめんなさい」
静かな声が聞こえた。
見ると、一人の少年が店員へ頭を下げている。
年は十三歳くらいだろうか。
艶のある黒髪を後ろで三つ編みに結び、透き通るような白い肌。
整った顔立ちはまだ幼さを残しているが、少女と見間違えそうなほど中性的だった。
涼しげな切れ長の瞳は、騒ぎの中にいても少しも揺れない。
小柄で細身の体つき。
飾り気のない旅装束を身にまとい、武器らしいものは何も持っていなかった。
店員が困ったように頭をかく。
「財布を落としたって言われても困るよ」
「食べた以上は払ってもらわないと」
少年は静かに服や荷物を探す。
だが、見つからない。
「……ない」
「食べる前まではあった」
周りの冒険者たちがひそひそと話し始める。
「食い逃げか?」
「いや、本当に落としたんじゃねぇか?」
「あの子、男だよな?」
「ずいぶん綺麗な顔してるな」
少年は周囲の声など気にした様子もなく、店員を見つめた。
「払うつもりだった。財布を落とした」
表情はほとんど変わらない。
困っているようにも焦っているようにも見えない。
ただ事実だけを淡々と話していた。
俺は小さくため息をつく。
まあ、一人分の飯代だ。
大した額じゃないだろう。
腰の革袋へ手を伸ばす。
「いくらだ?」
店員が伝票へ目を落とす。
「銀貨五枚だ」
「……は?」
思わず聞き返した。
「五枚?」
「ああ」
店員は少年の座っていた卓を指差す。
そちらを見る。
空になった皿が山のように積み上がっていた。
パンの籠が三つ。
肉料理の皿が四枚。
シチューの器が二つ。
その横には、綺麗に骨だけになった鶏まで置かれている。
「……一人で?」
「ああ」
俺は少年を見る。
どう見ても十三歳くらいの細身の身体だ。
「お前、あれ全部食ったのか?」
「食べた」
「どこに入ってんだよ……」
少年は自分の腹へ目を落とした。
「腹」
「それは分かってる」
ルシオンが横から伝票を覗き込み、顔を引きつらせる。
「ランド……本当に払うんですか?」
「……ここまでとは思わなかった」
王都に来て、ようやく貯まり始めた金だ。
革袋の中を覗く。
銀貨が一気に五枚消える。
地味に痛い。
だが、ここまで首を突っ込んで「やっぱりやめた」とも言えない。
「……ほら」
俺は銀貨を五枚取り出し、店員の前へ置いた。
チャリン、チャリン、と一枚ずつ減っていく音が妙に耳に残る。
「これで足りるか?」
「ああ。ちょうどだ」
店員はほっとした様子で銀貨を受け取った。
俺は明らかに軽くなった革袋を腰へ戻す。
「……思ったより食ってたな」
少年を見る。
「これでいいだろ」
少年は俺をじっと見つめた。
そして、ほんの少しだけ首を傾げる。
「……ありがとう。借りは返す」
「別にいい」
そう答えてから、軽くなった革袋を触る。
「……いや、やっぱ五枚はちょっと痛ぇな」
「返す」
少年は、それでも俺をじっと見ている。
妙に律儀な奴だ。
「そういや、お前、名前は?」
「レン」
「俺はランド。こっちはルシオンだ」
「よろしくお願いします」
ルシオンが軽く頭を下げる。
レンも小さく頷いた。
「よろしく」
俺は改めて、皿の山を見る。
「それにしても、お前、本当にあれ全部食ったんだよな?」
「うん」
「……まだ食える?」
レンは少しだけ考えた。
「食べられる」
「嘘だろ……」
「お腹が空く」
「銀貨五枚分食った奴の台詞じゃねぇよ」
ルシオンも呆れたように皿の山を見る。
「その体のどこに入ってるんでしょう……」
「だから腹」
「そういう意味じゃありません」
レンは不思議そうに首を傾げた。
何だこいつ。
見た目以上に変な奴だ。
レンは俺たちの腰に下がった冒険者証へ目を向けた。
「……君たち、冒険者?」
「ああ」
「ついこの前、登録したばかりだけどな」
レンは小さく頷く。
「そう」
少し考えるように黙ったあと、口を開いた。
「僕も冒険者になる」
「……何でそうなる?」
「借りを返す。返すまで、君たちと行動する」
ルシオンが困ったように笑う。
「ずいぶん話が飛びましたね」
レンは首を傾げる。
「駄目?」
俺はレンを見る。
細い体つき。
武器も持っていない。
正直、冒険者には見えなかった。
「悪いけどな。俺たちは遊びで依頼を受けるわけじゃねぇ。下手したら死ぬぞ」
レンは表情を変えない。
「大丈夫」
「僕は強い」
短い一言だった。
だが、その言葉に迷いはなかった。
俺は思わず眉をひそめる。
「その自信はどこから来るんだ?」
「ずっと修行してきた。負ける気はしない」
ルシオンがレンを見る。
「……ずいぶん自信があるんですね」
レンは静かに頷いた。
「ある」
俺は少し考えてから息を吐く。
「……分かった。そこまで言うなら、一度見せてもらう。その前に登録だ」
レンは小さく頷いた。
「分かった」
俺はルシオンへ向き直る。
「悪いな。勝手に銀貨使っちまった」
ルシオンは苦笑しながら首を横に振る。
「気にしないでください。ランドなら、そうすると思っていました」
「ああ」
「ありがとな」
それからレンを見る。
「じゃあ、まずは冒険者登録だ」
「うん」
三人で受付へ向かった。
カウンターでは、アイリスさんがいつもの柔らかな笑顔で迎えてくれる。
「あら」
「ランドさん、ルシオンさん。おはようございます」
「お、おはようございます!」
「おはようございます」
アイリスさんは俺たちの後ろに立つレンへ視線を向けた。
「そちらの方は?」
「レンって言うんです。冒険者になりたいらしくて」
レンが一歩前へ出る。
「冒険者登録したい」
アイリスさんは優しく微笑んだ。
「かしこまりました。それでは、冒険者登録のお手続きをいたしますね」
必要な説明を受け、レンが書類へ名前を書いていく。
その途中、アイリスさんが尋ねた。
「レンさんは、武器は何をお使いですか?」
レンは少しだけ首を傾げた。
「使わない」
アイリスさんの手が止まる。
「……え?」
ルシオンも目を瞬かせた。
「武器を使わないんですか?」
レンは頷く。
「使わない」
「では……魔法でしょうか?」
レンは首を横に振る。
「使えない」
今度は俺まで思わず聞き返した。
「じゃあ何で戦うんだ?」
レンは何も言わず、胸の前で両拳を軽く合わせた。
「拳で」
受付が一瞬静まり返る。
「拳……ですか?」
アイリスさんが確認するように尋ねる。
レンは小さく頷いた。
「うん」
少しだけ考えて付け加える。
「あと、足も」
ルシオンは納得したように頷く。
「なるほど」
「格闘術で戦うということですね」
「そう」
俺は腕を組んだ。
「そんな戦い方もあるのか」
アイリスさんは驚きながらも、すぐに仕事の表情へ戻った。
「分かりました。それでは登録のお手続きを進めますね」
やがて手続きが終わり、アイリスさんが冒険者証を差し出す。
「これでレンさんもウッドランク冒険者です。登録は完了です」
レンは冒険者証を受け取った。
「ありがとう」
俺はレンを見る。
「一つだけいいか」
「何?」
「お前、自分は強いって言ってたよな」
「うん」
「だったら見せてくれ。依頼は命懸けだ。仲間になるなら、実力くらいは見ておきたい」
レンは少しも迷わず頷く。
「いいよ」
「どうすればいい?」
アイリスさんが俺たちを見比べる。
「でしたら、ギルドの訓練場をご利用になりますか? あそこなら手合わせもできますよ」
「ああ」
俺は頷いた。
「勝負じゃねぇ。少し動きを見るだけだ」
レンも静かに頷く。
「分かった」
アイリスさんに案内され、俺たちはギルドの奥へ向かった。
重い木の扉を開けると、広い訓練場が姿を現す。
石造りの床に、木人や藁人形が並んでいる。
壁には木剣や木槍など、訓練用の武器が掛けられていた。
数人の冒険者が汗を流しながら模擬戦をしている。
「広いですね」
ルシオンが感心したように呟く。
「ああ」
俺も辺りを見回した。
村にはこんな場所はなかった。
近くで訓練していた冒険者の一人が、こちらへ目を向ける。
「ん?」
「アイリスさん、どうしたんです?」
アイリスさんは微笑みながら答えた。
「新しく登録された冒険者さんです。少し手合わせをするそうですよ」
「へぇ」
その言葉を聞き、何人かの冒険者が手を止めた。
「新入りか」
「しかも子供じゃねぇか」
「あっちの奴、この前の新人だろ?」
「もう一人は……素手か?」
視線がレンへ集まる。
だが、本人はまるで気にしていない。
静かに訓練場の中央まで歩いていく。
俺も壁から木剣を一本取り、あとに続いた。
軽く振って感触を確かめる。
レンは俺の正面に立った。
肩の力は抜けている。
構えらしい構えも取らない。
ただ、自然に立っている。
「本当に素手でいいんだな?」
「うん」
「分かった」
俺は木剣を構えた。
人を相手に剣を構えるのは、これが初めてだった。
魔物なら何度も相手にしてきた。
牙を見る。
爪を見る。
足の向きや重心を見れば、ある程度は次の動きが読める。
だが――。
目の前のレンからは、何をしてくるのかまるで読めない。
俺は木剣を握り直した。
「始めるぞ」
「うん」
アイリスさんが少し離れたところから声を掛ける。
「では、始めてください」
俺は一歩踏み込んだ。
いきなり速くは振らない。
まずは反応を見る。
肩口を狙って木剣を振る。
――その瞬間。
木剣が空を切った。
「……っ?」
レンが、俺の剣の軌道から外れている。
大きく飛び退いたわけじゃない。
ほんの半歩。
体をわずかにずらしただけだ。
それだけで、木剣はレンの身体すれすれを通り過ぎていた。
俺はすぐに距離を取る。
「……今の、見えてたのか?」
「うん」
レンは当たり前のように答えた。
周囲がざわつく。
「おい、今の避け方……」
「ほとんど動いてねぇぞ」
「ただのガキじゃねぇな」
ルシオンも驚いたようにレンを見つめている。
レンは何事もなかったように俺を見る。
「もう一回?」
「ああ」
俺は木剣を構え直した。
さっきより腰を落とす。
なるほど。
口だけじゃなさそうだ。
「……面白ぇ」
地面を蹴る。
今度はさっきより速く間合いを詰め、横薙ぎに木剣を振った。
レンがわずかに身を沈める。
木剣が黒髪の上を通り過ぎた。
すぐに剣を返す。
下から斜めに振り上げる。
レンは半歩下がっただけで、それもかわした。
「なら――」
三撃目。
逃げる方向を塞ぐように踏み込み、木剣を振る。
今度こそ捉えた。
そう思った瞬間――。
「なっ……!」
レンが前へ出た。
避けるんじゃない。
俺が剣を振り切るより先に、一気に懐へ潜り込んできた。
近い。
これじゃ剣を振れない。
気付いた時には、レンの拳が俺の腹の前で止まっていた。
「……」
あと少し伸ばせば当たる距離。
俺は自分の腹と、レンの拳を交互に見る。
「今の……殴れたよな?」
「うん」
レンは拳を引いた。
「でも、実力を見るだけだから」
「ああ……そうだったな」
俺は一歩下がった。
こいつ。
本当に強い。
周囲の冒険者たちもざわついていた。
「今の見えたか?」
「剣の内側に入ったぞ」
「まだ全然ガキだろ、あいつ……」
ルシオンも眼鏡を押し上げながらレンを見つめている。
「レンは、ランドが剣を振る前から動いています」
「振る前から?」
「はい」
ルシオンは俺の足元を指した。
「踏み込む時の足、腰、肩。それに視線。そういう予備動作を見ているんだと思います」
俺はレンを見る。
「そうなのか?」
「うん」
レンはあっさり頷いた。
「足を見れば、だいたい分かる。肩も動く。目も」
「目?」
「攻撃するところを見てる」
「……そこまで見てんのか」
「うん」
即答だった。
俺は木剣へ目を落とす。
魔物相手なら、余計な動きは死につながる。
最短で近づく。
最短で急所を狙う。
それが俺の戦い方だった。
だが、人間は違う。
こっちを見ている。
考えている。
そして、次に何をするのか読もうとしてくる。
「……対人戦ってのは、面倒くせぇんだな」
思わず呟く。
ルシオンが苦笑した。
「たぶん、それを駆け引きと言うんですよ」
「面倒なのは変わらねぇだろ」
「それは否定しませんけど」
俺は再びレンを見る。
「レン」
「何?」
「お前、人と戦うのに慣れてるのか?」
「ずっと拳法を習ってた。組手もたくさんした」
「なるほどな」
そりゃ差が出るわけだ。
俺が魔物を相手に狩りをしていた間、こいつは人間を相手に拳を磨いてきた。
得意な相手が違う。
「じゃあ次は、お前から来てみろ」
「僕から?」
「ああ」
「攻撃も見せてくれ」
「分かった」
レンが初めて構えた。
腰をわずかに落とす。
片足を半歩前へ。
両手をゆるく上げる。
力んでいる様子はない。
それだけなのに――。
空気が変わった。
俺は反射的に木剣を握り直す。
さっきまで目の前にいた十三歳の少年とは思えない。
「……来い」
「うん」
レンの身体が沈んだ。
次の瞬間には、目の前にいた。
「っ!」
速い。
反射的に木剣を振る。
レンの頭を捉えた――と思った。
空を切る。
もう懐にいる。
拳が来る。
そう思って木剣を引き戻した、その時。
レンの軸足が地面を踏んだ。
腰が鋭く回る。
脚が跳ね上がった。
ヒュッ――。
俺の頬のすぐ横で、蹴りがぴたりと止まる。
一拍遅れて風が頬を撫でた。
「……」
目だけを横へ動かす。
すぐそこにレンの足がある。
あと少し。
本当にあと少し動いていたら、まともに顔へ入っていた。
「……あと、足も、か」
「うん」
レンは何事もなかったように足を下ろす。
「言ったから」
思わず笑ってしまった。
「本当に使うとは思わねぇだろ」
周囲からざわめきが聞こえる。
「今の蹴り見えたか?」
「寸前で止めやがった」
「しかも全然体勢が崩れてねぇぞ」
ルシオンも驚いた様子でレンを見ていた。
「すごいですね……」
「ああ」
俺は木剣を下ろした。
もう十分だった。
速いだけじゃない。
こいつは自分の身体を思い通りに動かせる。
それに、さっきの拳も今の蹴りも、当たる寸前で止めていた。
間合いも、自分の力も分かっている。
少なくとも、人と戦うことに関しちゃ俺よりずっと慣れてる。
「レン」
「何?」
「もういい」
レンが構えを解く。
「終わり?」
「ああ」
俺は木剣を壁へ戻した。
「お前が強いってのは分かった」
レンは小さく頷く。
「そう」
「もう少し喜べよ」
「強いのは知ってるから」
「自分で言うか、それ」
ルシオンが小さく笑った。
俺もつられて笑う。
妙な奴だ。
けど――悪くない。
レンが俺を見る。
「一緒に行っていい?」
「ああ」
俺は頷いた。
「これなら依頼に連れていっても問題ねぇ」
「ただし、一つだけ約束しろ」
「何?」
「依頼に出たら、勝手に一人で動くな。お前がどれだけ強くても、何が起こるか分からねぇ。三人で動くぞ」
レンは少しだけ考えてから頷いた。
「分かった」
「ならいい」
ルシオンが俺たちを見比べる。
「これで三人ですね」
「そうだな」
俺は改めてレンを見る。
小柄で細身。
武器すら持っていない。
最初に見た時は、とても戦えるようには見えなかった。
それが蓋を開けてみれば、俺の剣をかわし、あっさり懐へ潜り込んでくる。
見た目だけじゃ分からねぇもんだ。
それに――。
俺は今まで魔物ばかりを相手にしてきた。
レンは人間を相手に、何度も組手をしてきた。
俺には俺の戦い方がある。
こいつには、こいつの戦い方がある。
だったら、一緒に戦えばいい。
「よろしくな、レン」
「うん」
レンは小さく頷く。
「よろしく」
短い返事だった。
相変わらず表情もほとんど変わらない。
けれど、ほんの少しだけ声が柔らかくなった気がした。
こうして――。
俺たちのパーティーに、拳法使いのレンが加わることになった。
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