九章 自分を好きになる魔法
「恐れることはない、任せておけ♪」
「アタシが天国に連れて行ってやる♪」
「あはっ♪」
「ひより〜♡♡♡」
そしてノアールの手は、ひよりのしっとり濡れた秘部に……
——ということをしたらお母さんが部屋にいきなり入ってきて
「あんた!?なにやってんの!いやらしい!」
と、何故か怒られるに違いない!
ノアールは腕を組んだ。
ダメだ。お母さんが乱入してくるようなドッキリ大作戦ではない!
別の方法じゃ。
どうすればひよりは、キュンキュンして、おっぱいを自由に触らせてくれるのか?
違うぞ!
おっぱいキュンキュンではない。
今はひよりのニコニコのほうなのだ!
「なるほど」
「つまり」
「人の目が怖いのじゃな」
ひよりは、小さく頷いた。
「うん」
ノアールは立ち上がる。
「違うぞ」
「えっ?」
「擬態とは」
腰に手を当てる。
「顔を変える技術ではない」
「自分を、理想の自分へ近づける、一瞬の魔法なんじゃ!」
ひよりは息を呑んだ。
「魔法……?」
「そうじゃ」
「だから、アタシは天才なのじゃ」
胸を張る。
「よし、行くぞ」
「ええっ?どこへ?」
「アトリエじゃ♪」
「今から、ひよりを擬態させる!」
「ほ、本当に?」
「当然じゃ♪」
「安心せい!」
ノアールは笑った。
「今日は……」
「あはっ♪世界で一番、ひよりが自分を好きになれる顔を見せてやるぞ!」
「ワクワクするじゃろ♡」
「アナッ!……は、今、迷子だった」
「ひより、自動ポッドを呼んでくれ♪」
◇
壁一面に並ぶ化粧品。
何百本ものブラシ。
シリコンプロステティック。
エアブラシ。
光学測定器。
無数の顔が浮かぶ立体ホログラムがフワフワ浮かぶ。
ひよりは部屋を見渡した。
「……やっぱり、すごい」
「そこの椅子へ」
「ノアール……さん?」
声が違う。
先ほどまでの、騒がしいノアールではない。
静か。
ひよりは小さく頷き、椅子へ腰掛ける。
ノアールは端末へ指を滑らせる。
「アナ!」
桃色の光核が現れる。
『迷子扱いは心外なんだけど』
「顔面スキャン」
『了解』
淡い光が、ひよりの顔をゆっくりとなぞっていく。
輪郭。
瞳孔。
左右差。
頬骨。
鼻梁。
皮膚の色温度。
筋肉の癖。
数秒。
『解析終了』
『基礎データとの差異、〇・八%』
ノアールは画面を一瞥しただけで閉じた。
「不要だ!」
ブラシを一本取る。
「ひよりは全て、覚えている!」
ひよりが目を丸くする。
「えっ……」
ノアールは答えない。
ブラシを頬へ優しく滑らせる。
ひと刷け。
また、ひと刷け。
その瞬間から、ノアールの瞳が変わる。
遊びは終わり。
視線は、一ミリもぶれない。
呼吸は一定。
ブラシは迷わない。
まるで、一本一本が最初から決まっていた線をなぞるように。
「……これが、ノアールさんのZONE?」
ひよりが小さく呟く。
もう、ひよりは見えていない。
目の前にあるのは、一枚のキャンバス。
「右頬、一・二ミリ」
スポンジ。
「陰影、三%」
エアブラシ。
「瞳の印象を〇・七段階だけ柔らかく」
細筆。
ノアールは止まらない。
そこには、ホテルで暴走していた少女の姿はなかった。
ただ一人の、擬態芸術家だけがいた。
「……術了」
ノアールは呟いた。
浮かび上がる映像がモニタリングし、ひよりのビフォーアフターを映し出された。
「これが……私?」
ひよりが私を見た?
ひよりの指先がかすかに触れた。
「んっ……」
咄嗟に手を引いた。
なんだ?
私か?
今の声は。
作品。
……違う。
ひより。
作品?
ひより?
わからん。
ひよりは切ない顔でアタシを見ている?
見つめている?
わからない。
ニコニコ?
アタシを……待っている?
……重なる。
あの時の"作品"と。
「ひより!行くのじゃ、アタシと一緒に!」
思わず視線を逸らした。
そして、ひよりの手首を引いた。
「えっ?」
ひよりが驚いている。
NG!
そうじゃ。
ゆっくり。
そう。
こうやって力を緩めて……
ゆっくりだ。
優しく。
泣かないように。
大切に……
走らないよ。
そっと。
手首から滑らすように手を握って……
「行こう……」
「どこへ?」
「昨日のパーティ、じゃ♪」
「パーティ?」
ひよりは驚いている。
パーティに向かって歩いていく。
ひよりの顔が見れない?
長い!長い!長いぞっ!
パーティが遠いい!
交流会場?
どっちでもいい!
知らんのだ。
ゆっくりなんだ。
今はひよりをゆっくり。
大切に。
——でもゆっくり、嫌じゃない……
苦しい?
いつもみたいに抱きついて、下着に手を突っ込んで、なし崩したい。
違う。
今は しない じゃない。
したくない。
着いた……
「入るぞ!」
交流会場?
に入ると、昨日いた何名かの男、山木と何人かの友達が今日もいた。
「ノアールさん!?」
どこかの男が話しかけてくる。
「マジで?今回は連絡先、教えてくださいよぉ」
山木は目を背けた。
「あれっ?この……綺麗なお方と今日は一緒なの?」
「昨日と同じじゃ!水無瀬ひよりだ♪」
「……えっ?」
山木が振り返る。
「ひより?」
山木が目を丸くして驚いている。
「あの、ひより?」




