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五章 ゆっくり、ゆっくりと……

挿絵(By みてみん)

『映像メッセージがあります』

「メッセージ?」


「昨日は、ありがとうございました」

 なんと、ひよりだ♪

 ん?ひより?昨日?

 

「なんか、昨日は、すごく酔っ払って——」

「寝ちゃったみたいで」

「でも、私、ノアールさんと……」

()()会いたいです」

「私、仕事ありましたので……先帰りました」

 

「——今度また、お誘いします」


 映像が落ちた。


「……」

「……」


『どうしたの?ノアール』

「消えろ……」

『まあ機嫌が悪いこと』

『せっかくメッセージ出してあげたのに』


 そう言って桃色の光核は消えた。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ベッドにダイブ!

 

 バサッ


 なんてことだ。アタシは連れ込めていた。

 ひよりと、このベッドで。

 何たる不覚。バカだ。アタシは。


「アナ!」

 桃色の光核が再び浮かびあった。

『さっき消えろって言ったでしょう』


「人を二、三人埋められる穴を掘ってきてくれ」


『出来ません』


「なぜじゃ」


『機能がありません』


「……」


『もう、変なことで呼ばないでね』

 桃色の光核が消えていく。


「クソ、山木たちを埋めようと思ったが、無理か」


 ぬあああ!

 起きてさえいれば!

 この目さえ開いていれば。

 

 そうだ!

 

 今日からアタシは一生、寝ない人になろう。

 

 そして『寝ない人になろう系』小説家になる!

  

 いや、違うな。

 

 ひよりがとなりで、どんなにエッチな顔をして横にいても、アタシは寝てしまうのだ。


 むむむ。どうしたものか。

 端末を取り出して探す。


「ひより キュンキュン どうすればいい?」


『……どのひよりですか』


「ひよりと言ったらカワイイひよりだ」


『確認出来ません』


「使えん」

「ノーマル女 キュンキュン どうすればいい?」


 沢山のデータが、空間に浮かんでいる。

 多すぎて、どれがひよりか、わからんぞ。


 【男の料理にもうメロメロ!】


 【気になるあの子が胸キュンキュン?男飯ランキング五選!】


 これだ!

 アタシがひよりに、キュンキュンご飯を作る。

 そしてひよりを辱める。

 

 そこでエッチなくすりを……は、漢方でう○こで、あれはダメだ。

 

 とにかく、ご飯を作って、ひよりを辱める。


「わっはっはっ!アタシの勝ち確だ!」

 腰に手を置き、高笑った。

 

 ピピッ

『映像通話が入っています』

 

「ぬあっ?」

「——ひより?なんとグッドタイミング♪」


 ベッドから立ち上がり映像の前に立った。

「繋いでくれ」

 

「キャッ」

 

「!?」

「ノアール……さん?」

 

「あはっ♡よくかけてきたな」

「ご飯を作るぞ♡」

 

「それより、なんで裸なんですか」

 

「ん?ああ、気にするな」

 

「気にしますよ」

 

「そうか?」

 これでいいか。

「じゃあシーツを巻きつけてっと♪」

 

「それにご飯?」

 

「そうじゃ。ご飯を作って、ひよりを(はず)っ——」

「……」

「ではない。ご飯を作るから食べるのじゃ」

 

「ノアールさんが?」

 

「もちろん、アタシがだ」

 

「ぷっ」

 おお、なんかわからんが、ご飯を作ると、ノーマル女子は本当にキュンキュンするらしいな。

 

 (ご飯作れるノアールさん……好きにして♡)

 (ご飯作れるなら恥ずかしい顔します♡)

 (シャチってペンギン丸呑みするらしいの)

 (ペンギン可愛いのに……サメもだっけ?)


「これは求婚されるな」

「求婚?」

「なんでもない、世迷言じゃ」

 

「いや、連絡したのは……」

「お酒、大丈夫だったかなって思って」


 ひよりがアタシを心配している?

 もう好きにしてってサインではないか♪

 どうする。

 今からひよりを誘拐するか。

 どこで待ち伏せ?


「ノアールさん?」

「んっ?まだ配置についていないぞ?」

「配置?」

 

「いや、誘拐はしない」

「とりあえず、ご飯をつくるからキュンキュンしに来い♪」

 

「ふふ、ほんとおかしな人ですね」

 

「常に世の中を動かしてきたのは、一握りの天才だからな」


挿絵(By みてみん)


「一握りの天才?」


「忘れてくれ。木星ジョークじゃ♡」

 

「でも、今日は八十万ドル?の仕事だー♪って、昨日みんなに言いまくってましたよ?」

 

「なに?アタシは、今日、仕事なのか?」

  

「ええ、多分」

 

 なんてことだ。

 今日はご飯を作って、ひよりを辱めるはずが……

 仕事だと?

 聞いてないぞ。

 

「それで……」

 

「うんうん」

 

「もしよければ、ノアールさんの擬態?アーティストのお仕事ですか」

「ちょっと見てみたいなぁって思ったりして」


 なに!?事件は現場で起きているではないか!

 

 それはこの木星帰りの天才の華麗なる仕事っぷりを見たら、キュンキュンするということか?

 わからん。

 そんなものを見てキュンキュン?

 聞いたことないぞ。

 それよりも、なにを作ればよいのだ。

 パンにジャムを乗せて、食わせればキュンキュンするのか。


「ノアールさん?」

 

「ジャムはお好きかな?」

 

「ジャム?」

 

「そう。ジャムではない、仕事だ」

 

「はい、どうかなぁって」

 

「そんなものは、問題ない」

 

「わぁ、ノアールさんありがとー」

「楽しみにしてますね」


 アトリエを印したデータを送った。

「届きました」

「仕事が終わったら、行きますね」

 

「わかった」

「じゃ、()()

「うん」


 空間に浮かぶ映像が消えた。


「……」

「……」 

「アナ……」


 またまた桃色の光核が空間へ浮かんだ。 

『あんたね?何回も呼んで、一秒でも早く私をメンテナンスセンターに送り込みたいの?』


「好きだ」


『——末期症状ね』


「どうしたら、ひよりに色々できるのじゃ」

 

『いつもの同じ趣味の子じゃないみたいだからね』

 

「うん……」

 

『待ってあげたら?』


「何秒待てばよいのじゃ」


『あなたを受け入れてくれるまで』


「だから何秒待てばいいのじゃ」


『ふぅ』


「あっ!ため息ついたな!アナめ!」


『あなたの、大好きなベッドで女の子と遊ぶことだけが、好きってことじゃないってことよ』


「なに?」


『とにかく、ゆっくりとあんたの数少ない魅力を知ってもらうことから始めてみれば?』

 

「ゆっくり……?」


 ◇

 

「今日はまた、なんつーか」

「一段と薄着だな」


 ホテルのロビーを抜けるとハマキングは、葉巻を咥えて立っていた。


「ヴィクター、モデルは?」

 

「ヴィクター?なんかいつもとちげーって言うか……」


「——いや、()()()いい」


 ハマキングは頷いている。


「もう既にアトリエへ用意してあるよ」


挿絵(By みてみん)


「よし、行くぞ」


「なんか、調子狂うな……仕事前はそうだけど……慣れないもんだな」

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