四章 場外乱闘
もう限界なのじゃ。
触りたい。触りたい。ひよりの手を触りたい。
にんじんをぶら下げられ、走るお馬さんになったような気分だ。
馬?
そうだ、こいつの顔面へお馬さんのように蹴りをいれてやったら、どうだろうか。
ん?いや、今は違うぞ。
「あっ、あのお疲れ様です山木先輩」
ひよりは立ち上がってお辞儀をしている。
「ん?友達と一緒?」
「え、そうです、ちょっと」
「すっ、すごい、格好の子ねぇ」
なんだ、こいつは。いくら私が可愛いすぎるからといって、人を舐め回すように見やがって。
もしかして、抱かれたいのか。
ふふん。そうはいかぬぞ!
今、アタシは、ひよりとヤりたいのじゃ。
「あっ、アーティストさんなんです、メイクアーティスト、のノアールさんです」
立ち上がって腰に手を置いた。
「天才 擬態メイクアーティストのノアールじゃ!」
「じゃ?ええ……山木です、どうも」
はっはっはっ。
なんとも驚いておるな。一般ピーポーが、この天才アーティストを目の前にして。
「独特な……ファッションですね」
おお?褒められた?
悪いやつではなさそうだな。
「ありがとさん♪」
「そうだ。ひよりでいいわ、このあと時間ある?」
「えっ、あっ……はい」
「メンツ足りなくてさ?ちと、数合わせできてくれね?」
「ーーはい」
ん?ひよりは、さっき行きたくないと言ってたぞ?
でも行く?なにを言っている?
「んじゃ、十時にあそこの駅前で」
山木は、少し離れた友達のいる席に帰っていった。
ん?ということは?
首を傾げて手を口元に置いた。
まさか!?
このあとひよりと、チュッチュッ出来ないということかー!!
まずい!それはまずいぞ。
どうする。
山木の恥ずかしい写真を撮って、
(みんなに見せちゃうぞ?)
と脅して困らせるか。
いや、それはひよりにやって、困った顔にさせてから、色んなことを……
いや違う。
そんなことを今考えている場合ではない。
それにしてもアレが熱い。
一秒でも頭にひよりを置くと、
なんか、こう重なり……
だから考えるな。
違う。今アタシができることは。
山木の席に歩いていってしまった。
「あのぉ……」
山木が、なにか話かけてきた。
周りの友達もなんかみているな。
「ん?なんじゃ」
「えっと、それはこっちのセリフ」
山木が友達と目でなにか合図している。
きっと目配せして違法ドラッグのやり取りでもしているのだろう。
ははっ!碌でもない奴らだな♪
「あはっ♪そうじゃ、ひよりとはまだ、話もあるのじゃ、それでも連れて行くならアタシも連れてけ!」
「ええ?」
ひよりが駆け込んできた。
「ちょっ、ノアールさん?」
「すいません」
ひよりが何故か謝っている。
「えっ、まあ数合わせだったから別にいいよ」
「えっ、先輩?ノアールさんも?」
「大丈夫、大丈夫、ただのパーティだから」
パーティ?お誕生日?ハロウィン?
違う。
つまり、ひよりに優しくしない男がいるあれだな。
「けしからんですな!」
「は?」
「ノアールさん?」
ひよりが袖を引っ張る。
「安心せい」
肩をぽんっと叩く。
「今日はアタシがおる」
ん?
どさくさに紛れて、胸を触ってやれば良かった。
「でも……」
「ひよりは、茶でも飲んで笑っておればよい」
山木が苦笑している。
「えっと……面白い人なんですね」
「天才だ」
「ははっ……」
笑っておる。もうキマっているのか。
アホだな。こいつらは。
こんなファミレスで、キメているような先輩さんたちに、ひよりは渡さん。
それよりアタシは、一刻も早くホテルに連れ込んでひよりを辱めて、天国に連れていきたいのだ。
◇
「がっはっは!飲め!飲め!」
「この子すごいね、どっから連れてきたの」
「えっ、知らない」
山木は不機嫌そうになにか言っている。
「君、どっから来たの?」
「南国じゃ」
「南国?日本じゃないの?」
「おっ!そこの男。もっと飲まないと、みんな楽しくならないぞ?」
「ほら、見てみろ!女の子たちが、暇だよーって泣いているぞっ」
男たちが、山木たちを見た。
「おーし!斎藤!イッキしまーす」
「あはっ♪いったれー」
テーブルに乗って腕を上げた。
わはははは!見たか!天才の力を。
この天才擬態メイクアーティストが加われば、どこにいても無敵なのだ。
「よくやったぞ!斎藤、愛しているぞ♪」
「次ぃー!そこの175センチくらいの営業職の君!」
「えぇ俺ぇ?」
「なんで営業って分かるんすか?」
「靴」
「そして左利きじゃな」
「なんで!?」
「いったれー♪」
「はい!ノワールさんのために飲みまーす」
男が左手にグラスを持ちイッキを始めている。
「きゃは♪流石だ!営業175センチ」
「あざーす♡」
「次、そこの68キロの男!」
「だから、なんでわかるんすか?」
「だからだ。天才だからじゃ!」
「うすっ! 野上っす!いきまーす」
「きゃはは♪」
「まっじ、うざっ」
山木は目をそう言って目を背ける。
「こらこら、そんなこと言ってたらモテないぞ」
「えっ?きこえ……?」
「ほらっ♪みんなー山木も飲むぞー♪」
「いやっ私は——」
「「「おぉぉぉ」」」
男たちが楽しそうに笑って拍手していた。
ところでひよりは……
そこだ!
ひよりの隣に座ろう。
そうだ!
アタシはひよりとエロいことをするために、ここにいるのだ。
ドサッ
「ふぅ……」
「すごいですね……ノアールさん」
「だから言ったじゃろ♪」
「……」
「みな、目に映るもので、勝手に判断しているだけなんじゃ」
「でも……みんな、ノアールさんのこと楽しそうに見てますね」
「見ているのは、都合の良い欲望の奥にある虚像じゃ」
◇
翌朝、午前九時。
「ぐはっ」
身体を起こした。
ここは、ホテル?
いつもの壁、天井、そして裸。
裸?
そのまま窓を見た。
ピピッ
端末が鳴りアナが出てきた。
『ゆうべは おたのしみ でしたね』
「なんじゃ?それは。宿屋か?」
『忘れてください』
「?」




