三章 う○こサイダー事件
間違いない。さっき別れて、七時に会おう。
時間は!?
三時か。
あと四時間だと?
待ちきれるわけがない。
そうだ。拐おう。
「ハマキング!」
「ははっ、さっきの恋人からか?若いな」
ハマキングが気持ち悪い顔で、笑っていやがる。
そんなこと、どうでもよい。
「仲間のマフィアに頼んでくれ!」
「……お前、また意味のわからねーこと考えてんじゃねーだろうな」
「ひよりを拐ってきてくれ」
「はあ?」
「四時間も待てん」
「できるわけねーだろ!いい加減にしろ!」
ちっ!ダメか!
ワンチャンいけると思ったのだが。
「大人しくねーちゃんを待っとけ。俺は行くからな」
「なんてこった……」
これだけハマキングと話をしても、まだ三十秒しか経っていないではないか。
そうだっ!
この方法なら確実にひよりが天国にいける。
「アナ!」
桃色の光核が空間へ浮かんだ。
『また呼び出したの』
『何回も出したり引っ込めたり』
『そうすると金属疲労が蓄積するって言ったよね』
『そうやってパーツに疲労をためて私が、早く壊れちゃえば良いと思っているんだ』
「だまれ、ひよりにこの店で待っていると返信するのじゃ」
『はいはい。やります。やれば良いんでしょ』
メッセージ映像が空間に現れた。
「送信」
「そして秒で引っ込め!」
『全く、BANREI使いの荒さ、どうにか……』
「引っ込め」
桃色の光核は消えていった。
「ふっふっふっ」
「ぎゃーはっはっ!」
使うまいと、思っていたぞ。
こんなものモテモテの天才には必要なかったからな。
しかし。
ハマキングの悪そうな友達からもらった、なんかエッチな気持ちになってしまう薬。
こいつを使うときがきたか。
コイツを使えばひよりは、アタシに……
「ぐへっ」
「ぐへへへへへ」
「ん?」
なんか混ぜればいいだっけ?飲み物とかに?
端末をとった。
「ヴィクターに連絡」
遅い!
まだか。
「おう、なんかあったか」
「エロ薬は飲み物にまぜるのか?」
「……」
「ハマキング?」
『通話が切れました』
「ん゙ん゙ん゙?」
「ヴィクターへ再度連絡!」
遅いぞ。
アタシがかけたら二秒以内に出るのだ。
『拒否されました』
——なんて使えないジジィだ。
それとも長生きしすぎて、鼓膜が取れたか。
仕方がない。待つか。
◇
四時間……
その間にハンバーグと、エビフライ。チキンライス、アイス、ケーキ、ジュース端から端まで、パンケーキ、マグロ丼、マルゲリータピザ、そしてチョリソーを十四本食べたが、あと三十分もある。
何故だ。以前ハマキングのバカ友に巻きこまれて、二十日間、留置場にぶち込まれた時よりも長く感じるぞ。
きっと今、地球が突然、光よりも早く遠い昔、はるか銀河系のかなたへ向かっているから遅いのだ。
それ以外考えられん。
ピピッ
『ノアール、ひより様よりメッセージが入りました』
空間にまた映像が浮かび上がる。
『もうすぐつきます』
「なんだと!」
勢いよく立ち上がると、子どもが泣きだした。
メシ運びロボットが近づいてきて言った。
『お静かに』
「だまれ。こうしては、おれんのじゃ」
ドリンク?ドリンクだ。
何に?よくわからん。サイダーでよいか。
コイツを席に持っていき……
「ぐははははっ」
これを入れれば……ひより殿は。
混ぜ♪混ぜ♪混ぜ♪
「なっ!バカなっ!?」
サイダーは茶色になってゆく。
「これでは、う○こ色サイダーではないか!」
メシ運びロボットがまた近づいてきた。
『お静かに』
「サイダーがう○こになったのだぞ!」
「こんばんは、ノアールさん」
「なっ!?」
「——おっおう、こんばんは……」
しまった!
急に時間が早くなったぞ。
地球は、はるか銀河系のかなたに行くのをやめたのか?
「こっこれは?」
ヤバい。ヤバい。ヤバい!
ひよりが、めっちゃ、う○こサイダーを見ているではないか。
「いやな?暇だから、色々混ぜててな……」
「決してなんか入っているわけじゃないぞ」
「はぁ」
一億パーセント疑っている目……
飲むしかない。
このう○こを……
「ごくっ」
「うっ!?」
ヤバい……ヤバいぞこれは。
なんだ、この東南アジアで飲んだ漢方薬みたいな味は。
もしかしたらう○こよりまずいかもしれんぞ。
う○こより?そういえば食したことがない……
「ぬあぁぁぁ!」
「ちょっ、ノアールさん!?」
ひよりが、まだ見ている。
気合だ!ここは気合で一気に飲み干せ。
コトッ。
「だっ大丈夫ですか?」
「あはっ♪大丈夫、大丈夫♡」
あぶねー。バレるところじゃった。
できることなら胃にコップを突っ込んで、すくいだしたい。
クソッ!ハマキングの友達はろくなヤツがいねえ。
次、会ったら磔にして、ロケット花火を、
ビュンビュン飛ばしてやるんだ。
「誰か、一緒だったんですか?」
「へ?」
「いや、食べ終わったお皿が沢山あるから」
「それはアタシが食った」
「ええ?この量をですか?」
「あはっ♡邪魔よねぇ。片付けてもらおっか」
忘れていた。
これじゃダラシないと思われて、求婚されなくなってしまうじゃないか。
メシ運びロボットが片付けていく。
何度もくだらない注意するくらいなら、片付けとけばいいのに。
お仕置きじゃ。
ひっくり返してやろう。
ロボットの足元にスッと足を出した。
ロボットは普通に避け、空いた皿を持って帰った。
「ちっ」
「実は今度、職場の先輩に、交流会へ誘われているんです」
「交流会?」
「恋人を探す人もいるみたいで……」
「へぇ」
「最初はみんな優しいんです」
「うむ」
「でも、何回か会うと……」
「ほう」
「もっと明るい子がいい、とか」
「もっと積極的な人がいい、とか」
「地味だよね、とか」
「そういう話になるんです」
「……?」
なっ、熱いぞ。
身体が?
アレが?
どうしたアタシ?
うぅ……おかしい……
折角のひよりの話が入ってこんぞ。
「んっ♡」
ひよりは……?
顔をあげてひよりを見た。
「うわぁっ!!」
立ち上がってしまった。
「ノアールさん?」
「どうかしましたか?」
「いや、すまん、なんでもない、続けてくれ」
かっ、かっ、かっ……
カワイイ♡
おかしいぞ。昨日見た?
いや十秒前に見たひよりの三兆倍、カワイク見えるじゃないか♡
どうするノアール!
いきなり襲うか……突然襲うか……
それとも、急に襲うか。
どれにするか迷うな。エヘ♡
今すぐチュッチュッしたくて、震えが止まらないぞ。
「私、そういうの苦手で」
可愛い♡
「頑張って話しても」
抱きしめたい♡
「頑張って笑っても」
普通にヤりたい♡
「結局、つまらないって思われちゃうんです」
ん?思われちゃう?
「……違う」
「えっ?」
「地味なんじゃない」
「そう認識されておるだけじゃ」
「認識は作れる」
「だからアタシがおる」
しまった。
こんな話をしたら、
(ホテルに行くのじゃ!あはっ♡)
と、なんとなく、空気を有耶無耶にして、強引に連れて行けないではないか。
「ピエロの擬態を施せば、人はピエロだと思う」
「警察官の制服を着れば、警察官だと思う」
「白衣を着れば、なぜか先生だと思う」
なにを言っているのだ。天才ノアール!
アタシは困った顔で、恥ずかしがるひよりに、チューしたり、身体を弄って天国へ誘いたいのだ。
「人なんて、最初はそんなもんじゃ」
止まれ!ノアール!急ブレーキじゃ。
「擬態とは顔を変える技術ではない」
「相手の認識を作る技術じゃ」
ぶっ壊れたか。ブレーキ?
チューが出来なくなっちまうぞ?
よいのか!ノアール?
「見た目は虚像」
「だが、人はその虚像を真実だと信じて生きておる」
ぐはー!
擬態のことになると……アタシはっ。
クソがーーー!
「でも、それって騙していることになりませんか」
「違う」
「騙すんじゃない」
「相手は最初から勝手に勘違いしておる」
「えっ?」
「人間は見た目を見て勝手に『優しそう』『怖そう』『地味そう』と決める」
「だったら、その認識を少し動かしてやるだけじゃ」
「それで話を聞いてもらえるなら、それは騙しじゃない」
ノアールはひよりを見る。
「ひより」
「今、アタシをどう思っておる」
「変な人……です」
「ほら」
「まだアタシとひよりはちょっとしか話しておらん」
「もう認識されておる」
「えっ!?」
「人なんてそんなもんじゃ」
ひよりは笑った。
「確かに……」
笑った?
おお?おお?これは?
立ち上がりひよりの隣へ座った。
「もう少しだけ……」
「ひよりにアタシのこと、知ってもらいたい」
ひよりが見ている。
イケる!ここで唇を奪ってホテルに行って、それから——
「ひよりじゃん」
「!?」
誰じゃ?殺すぞ!このタイミングで。




