二章 求婚イベント発生!?
依頼人の名前は栗山白嶺という男か……
「ヴィクターさん、こんにちは」
二人は握手を交わし、そのままハマキングがクリを軽く抱き寄せた。
「ここは葉巻を吸えねぇみてーだな」
「ええ。でも、ヴィクターさんに注意できる人はいないと思います。店のBANREIが警報を鳴らすくらいでしょう」
そうだ。こんなヤニ中、害悪でしかない。
明日、保健所へ連れて行こう。
美しい日本のためだ。
それより、ひよりと十六分くらい会っていない。
……長い。
あの子は無事であろうか。
心配だ……そうだ。
見に行こう。
おもむろに立ち上がり、ひよりに会いにいこうとするその瞬間、ハマキングに腕を掴まれ、座らされた。
「ご要望の人間、連れてきたぜ」
おお?やっとアタシのターンってことだな!
ここは一発かましとくか。
「あはっ♪ おはまーす♪」
「ええ……」
ふっふっふっ。つれの女め。
アタシの可愛さに言葉もでないようだな。
にしても乳デカいな。
いやいやいや。
アタシはひよりにフォーリン・ラブだ。
ひよりのことを考えよう。
「ヴィクターさん、ご紹介します。こちらは文明局天国センター統括補佐、ライラ・モニカ・サントスです」
サントス?まずは顔。二十代前半。フィリピン系。目元は少し眠そう。 胸は九十三くらい……?
九十三だと!
それだけあれば、どれだけ、ひよりを優しく包んであげられる?
いや、今は違う。
身長百四十五。歩き方から運動神経は普通。髪は二週間以内に切った。メイク時間、十分。
恋人はクリ?
右肩が少しだけ下がっている。デスクワーク。
モニカは軽く頭を下げ、クリも続いて会釈をしている。
「へー♪ じゃあ、サンちゃんとクリちゃんだ」
「!?」
モニカの目が丸くなる。
クリが
「別の呼び方でお願いします」
と、言っている。
「あはっ♪」
ヴィクターは額に手を当て、大きく首を振っている。
「ここに着いてから、ずっとこのザマだ」
「ザマって! ひどーい! このハマキングめ!」
「紹介する。ノアールだ」
ヴィクターが呆れたように言うと勢いよく立ち上がった。
「そう! あたしは天才擬装アーティスト、ノアールちゃんじゃ!!」
サントスは開いた口が塞がらない。
ふっ、皆この天才に恐れおののいているな。
「本名はエリサ・クルス。南の島の血が入ってる」
ヴィクターは肩をすくめながら付け加えた。
そんな三人のやり取りを、クリだけは穏やかに微笑みながら眺めていた。
「まあ……これでもウチの仕事を何度かこなしている」
「ハマキングの仕事、つまらないのばっかりなんだもーん」
「そうだ、今度ハマキングの顔、大天使ミカエルにしてあげるよ♪」
「——遠慮しておく」
クリが一度だけ、こっちを見る。
……ん?
うさん臭い男だと思っていたが、作るなら話は別だ。
身長、一八〇前後。
肩はわずかに内側。
問題は右目。失明。
カラコンで隠してもわかる。
閉じるだけじゃ駄目だ。
見えていない目を作る。
焦点。瞬き。眼球の遊び。
そして視線が止まる位置。
首を向けるタイミング。
左目だけで人を見る癖?失明?そこは無理?
皮膚。唇の乾き。
声はあとでどうにでもなる。
だが、呼吸。あの間。
あれだけは身体に覚えさせるしかない。
顔なら三時間。
栗山白嶺なら二日。
クリが話を切り出した。
「この方に決めた理由は?」
「天才だからーー!」
決まってるだろ。アタシに作れないものなど、ないのだ。
それよりもひよりだ。
ノーマルだから、どうしたものか。
それにしても早く終わらないかな?
——やっと終わった。
そのあともごちゃごちゃ話をしていたらしいが、
なんとアタシを有名にしてくれるとは。
有名になったら。
ひより。
有名。
客。
ひより。
金。
……ん?金?
「ハマキング。いくら」
「は?」
「金だよ、金。いくらもらえんの?クリから」
「ああ、約百二五万ドルだ」
「百二五万ドル!?」
「俺の手数料は四五万、残りはノアールだ」
なにーーっ。八十万ドルだと?
こんな簡単な仕事でか?
「あは〜♡」
(ノアールさん。ひよりは、ノアールさんを一生愛しちゃいます♡)
(有名で八十万ドルもらったノアールさん……朝までひよりを抱いてください♡)
(セブ島でひよりと一生暮らせるのか?毎日チューできるに違いない♡)
(セブ島?虫唾?虫が多そうだな)
「おいっノアール、おいっ」
——ハマキングがなにか言っている。
「アナ!出てこいっ」
ノアールの端末から桃色の光核が飛び出す。
「セブ島に虫がいるかどうか調べて」
「おいおいおい——」
ハマキングが、なにやら騒いでいる。
「こんな所でBANREI出すな!」
「セブ島?虫?なんの話だ?」
『セブ島?』
『あなた、セブ島に行くの?』
『へぇ〜別にいいけど』
『私は暑いところ苦手だって何回も言いましたよね?』
『そこで私が暑さで壊れちゃっても構わないってことなんでしょ?』
『私はBANREIだから我慢しますけど』
「……」
うるせえ。
何故、毎回毎回出てくる度にヒスってんだ?アタシのBANREIは。
葬ろう……火口に。
お互いのためにも。
それでシティホールに行って、新しいものをもらうんだ。
ん?でも日本に火山なんてあるのか。
「アナ!火山はどこじゃ」
「やめろ、しまえ!」
ヴィクターが端末のリセットを押した。
桃色の光核が消えていく。
周りの客が、みんなこっちを見ている。
なんと!?
もう有名人になれたのか。
流石だな、クリは。
ピピッ
端末から知らせの音が鳴った。
『今日も会えそうです』
『七時に一緒に食事でもしませんか』
「うはっ♪ひよりじゃ♪」
なんと、なんと、なんと。
これはもしかして。
【求婚?】




