一章 アタシが天国にいざなうぞ!
「あんっ♡……ノアールさんちょっと待って……」
「キャハー♪待てんっ!待てんのじゃ♡」
雪色のツインテールが、ひよりの頬に落ちる。
「私、女の子とは……あっ♡その……初めてで——」
あーもう無理。殺す気か!
その顔反則。困った目で見んな。
ちっちゃい胸も可愛いとか反則だろ!
どれもが興奮するぅぅぅ
それにしても頭が痛てぇ
飲めない酒を飲んだのが、まずかった。
ホテルに連れ込むため、しこたま酒を飲ませて、襲ってやろうと思ったが、
まさかアタシが先に潰れるとは……
しかし、まだ行ける!
苦節約二ヶ月。
来る日も来る日もストーキングしまくり、行動を根掘り葉掘り調べ尽くして、いたずらしてやろうとやっとナンパしたのだ。
ヤルなら今!
今しかないのじゃ!
「ふっふっふっ!ひよりはここが弱いんだな!」
ノアールは布団に潜った。
「んっ♡ 待って、まだ……」
ガチャッ!
ドアの開く音が聞こえた。
「キャッ!」
ひよりが悲鳴を上げている。
「お前……朝っぱらからやってんのか」
野太い老人の男の声が聞こえる。
ちっ! 良い所で邪魔しやがって!
白い羽毛布団を蹴飛ばして飛び起きる。
「キャッ」
めくれ上がった羽毛布団をひよりは、たぐり寄せて身体を隠した。
「おっ?すまん、すまんのじゃ」
ノアールは手を合わせ謝る。
クソッ!
ドアに立つ男に怒鳴り散らしてやろう。
「おい!邪魔するな!ハマキング!殺すぞっ!」
裸?
知るか。
今そんなことはどうでもいいのだ。
「何いってんだ!連絡も取れねーし、そもそも時間だ」
ヴィクターが時計を指差し、呆れた顔でそう言った。
ジジィめ、この宇宙一至福の時間を奪いやがって。
アタシは昨日寝ちまって、今この時しかないのだ。
こんな男は死んだほうが宇宙のためだ。
「そんなものは、あとだっ!」
「今、アタシがするべきことは、ひよりを天国へ導くことじゃ!」
「ちょっ、ノアールさん!」
あっ、ひよりが困った顔をしている。
困った顔?困った目……
ヤバい!そんな目で見るな。
ひよりにそんな弱々しい目で見られたら。
アレが熱くなってゆく。
「ハマキング!」
「なんだ」
「帰れっ」
「無理だな。クライアントが待っている」
んーっ!苛つくのじゃ。
アタシはひよりを天国に連れていく使命があるのだ。このジジィはなにを言っているのだ。
「約束は午後一時だろ、間に合う」
「ノアールさん、お仕事なら優先したほうが……」
なっ、なにを言っているのだ、ひより。
この刹那の瞬間の価値がわからないのか。
ぬっ?待てよ。
これは太古の昔から日本は、
『いやよ、いやよは、とりあえずやっとけ』
という法律があると聞いたことがあるぞ。
そうだ。
ひよりは天国へいかずに、カフェの仕事なんてできるはずがない。
「ハマキング」
「なんだ」
「アタシはのっぴきならない、用事があるのじゃ」
「用事って……お前なぁ」
よし、もう少しだ。
ハマキングは帰る。
「天国に連れて行ってから、下のロビーまで一時間で帰ってくる!」
「無理だ、ロビーで待っている、降りてこい」
バタン。
ようやく帰ったか!ハマキングめ。
お〜♪
振り向けばひより。
いざゆくぞ。
「ノアールさん……目が……怖い」
なんて目をしやがる。ひより。
うん。
襲いかかろう。
白い羽毛の海に飛び込む。
バフンッ!
「ひより♡♡♡」
ひよりの胸にそっと触れる。
「んっ♡」
柔らかい。暖かい——
「ノアールちゃん、今日も頑張る♡」
——んっ?
ひよりの動きが止まった?
なにかがおかしい。
「あの怖い……ご年配の方がっ」
「大丈夫だ、ひより、アタシに任せておくのじゃ」
「いえ……そうじゃなくて……」
「放っておけばいい、あんなジジィ」
「そこにっ」
「なんじゃと!?」
身体を起こしてドアを見た。
うわっ。
ジジィが、ドアの隙間から覗いている。
変質者だ。
間違いなくあいつは、性犯罪者登録されているに違いない。
「……毒殺しよう」
「んなことだろうと思ったよ」
ハマキングから服と下着が飛んできた。
「着替えろっ!」
ひよりがモソモソ動き出した。
「私も、あの……そろそろ仕事の時間ですし、行かなきゃ」
なに!?
天国にまだ行っていないのに、カフェ店員の仕事などしたら、拷問じゃ。
あんな暇地獄を続けてたら、新型インフルエンザにかかるかもしれないのだぞ。
「ひよりぃ」
涙が溢れてしまう。
「いや、そんな大げさですよ」
おっ?これか?
とりあえず泣いてみるか。
「うぅぅぅぅ」
「でも……」
OK!
ひよりが優しいぞ。
これはまだ行ける?
もう少し泣くか。
「昨日は、楽しかったです、また会ってくれたら嬉しいかも……です」
なっ!!
まただと?
天国に連れていってないのに、また?
どういう意味だ。
過去の女性たちの映像が浮かんだ。
(ノアールさん……もう男の人に戻れません)
(ノアールさん……また、お願い出来ますか……)
(来来亭の麻婆豆腐は辛すぎて食べれん)
(ジジィめ、なんとか毒殺する方法はないものか)
「ノアールさん?」
「なんだ、ひより。愛しているぞ」
「いえ、そうじゃないですよ」
ひよりが、ヴィクターに指をさしている。
やはり変質者の殺人依頼を求めているのだな。
「急げっ!」
ハマキングが怒っている。
バタンッ!
ドアを勢いよく閉められた。
きっと130歳だから、加減する神経がバカになっているのだろう。
悔しいが仕方がない。
「ひより、アタシもまた、連絡する」
服を着て、ひよりと一緒にホテルの部屋をでた。
◇
ホテルのロビーまで降りると、ハマキングが腕を組んで待っていた。
「遅い!」
うるせー。殺すぞ!
こっちは貴様のせいで人生最大のイベントを失ったばかりなのだ。
「ひよりが仕事だから仕方ないのじゃ」
「おお、かわいそうでちたね〜」
ひよりを触るチャンスだ。
頭を撫でよう。
「はぁ」
おお?感じているのか!?
「お前の仕事だ」
忘れていた。
しかし今はひよりのことしか考えられん。
「では」
ひよりが何故かハマキングにお辞儀をしている。
こんなジジィ、お辞儀などせず、全力で顔面に石を投げつけてやればいいのに。
自動ドアの向こうで、ひよりが小さく手を振っている。
死ぬほど可愛い。
「ノアールさん、また連絡しますね」
「絶対じゃぞ!」
ひよりはホテルの入り口を出てゆく……
走って追いかけたい。
そのままカフェまで送りたい。
なんなら今日一日、店の外からストーキング行為をしたい。
ん? ストーキング?
そうだ、そうしよう。
そのまま、ひよりの方へ歩いていった。
「おいおい……」
ヴィクターに腕を掴まれた。
「なんじゃ?」
ヴィクターが親指で自動ポッドを示した。
「行くぞっ」
仕方がない。
仕事の商談など二秒で終わらせれば、残り七時間くらいひよりをストーキングできる。
「ハマキング、ついてこい」
そう言って自動ポッドに乗った。
◇
【ファミリーレストラン HONA3】
「おう、栗山。こっちだ」
うるせえ声だ。
虫唾が走るって聞いたことあるが、これか。
初めて知ったわ。虫。




