病院 3
由香里が、急いで脇による。
「すいません。騒がしくしてしまって。」
「いえ。大丈夫ですよ。元気そうで何よりです。」
先生は、由香里に愛想よく答えると、真由に向かって笑顔をつくった。
「調子は、悪くないみたいだね。悪いけど、座らせてもらうよ。」
そう言うと、先生は、先程、由香里が座っていた椅子に、腰を落ち着けた。
真っ直ぐに、真由を見る。
「うん。意識もはっきりしているみたいだね。何処か痛いところはあるかな?」
「いっ、いえ。全くないです。」
心の底まで見透かされたような気がした真由は、枠のこともあって焦ったが、開き直って答える。
「うん。気持ち悪いとかもない?」
「はい。」
「そうか。なら、いいんだけど。」
そこで先生は、顎に手を当て、少し黙ると、もう一度、真っ直ぐに真由を見た。
「もし、気になることがあるなら、先に聞いてくれると助かるかな。」
にっこりと、柔らかな笑みを浮かべる。
「えーっと。」
ー黒い枠が見えて、変身できそうです。言えるわけないんだけどーー!ー
思わず言ってしまいそうになり、両手で口を覆う真由。
「あぁ。無理をして言う必要はないよ。君が元気なのは間違いからね。ただ、少しでも気になることがあるなら、先に答えておいた方がいいかと思ってね。」
苦笑する先生に、
ー絶対無理だから。ー
真由も、微妙な苦笑でかえす。
「あっ。でも、、。」
気になる一つを思い出した真由は、苦笑を止めて、目線を上げた。
「わたし、のことじゃなくても、いいですか?」
「うん。僕に答えれることなら、何でも構わないよ。」
微妙に目を大きくするも、すぐに笑みをつくる先生。
「わたしのあった事故で、私以外の誰かが、この病院に運ばれましたか?」
不思議そうに、首を傾げる先生。
「んっ、と、どう言うことかな?」
真由は、事故にあったその時、車にぶつけられないように突き飛ばした、小学生らしい背中を思い出しながら、先生に答えた。
「その、わたしがぶつかった時、すぐ前を、小学生ぐらいの子供が歩いていたんです。その子、大丈夫だったかな、って。」
流石に、突き飛ばして、かわりにぶつかりました、とは言えなかったし、助けれたかも確認していない為、気になったのだ。
先生は、数回、頷き、安心できる笑顔になる。
「それなら、大丈夫だよ。けが人は、一人、君だけだと聞いているし、ここに運ばれてきたのも、君だけだ。他には誰もいないから、その、小学生の子は大丈夫。巻き込まれてはいないよ。」
「よかった。」
真由が、安堵に、ストンと肩を落として、息を吐く。
横で、由香里も、同じように肩を落としていた。
「うん。受け答えもしっかりしているし、体の方も、気になるところはなさそうだし、大丈夫みたいだね。」
「正直、自分のことでも驚いてます。」
「だろうね。僕も、酔っ払った人が、軽い打ち身と擦り傷だけ、って、言うのは何度かあったけど、全く怪我もない、って言うのは初めてだよ。よっぽど運がよかったみたいだね。」
ニコニコと笑顔の先生に、真由は、誤魔化すように笑って見せる。
「あはは。ほんと、運がいいみたいで。」
ー変な枠、見えます。変身、、、無理だから!ー
そこで、先生の目が、少し、真剣な色になる。
「そうだね。ただ、大丈夫なのはわかっているけど、念には念を入れた方がいいから、明日、もう一度、精密検査をして、それで何もなければ、退院、と、そんな感じでいいかな?」
先生の、言い方は柔らかくも、決定した目線に、真由は、姿勢をなおすと、頷く。
先生も頷き、
「じゃあ、今日のところは、これで失礼するよ。お母さん、そんな感じでいいですか?」
最後の方は、由香里に確認。
「はい。わかりました。」
由香里に向かって頷いた先生は、多少、大きめの動作で席を立ち、
「じゃあ、明日、精密検査の後でね。」
「はい。よろしくお願いします。」
答える真由に頷くと、病室を出ていく。
ー精密検査、大丈夫だよね。ー
心配になりながら、先生を見送る真由の前に、由香里が座る。
「退院もすぐに出来そうだし、よかったわね。」
「うん。マットレス様様かな。」
「そうね。出してくれた誰かに、感謝しないとね。」
二人して、笑ったその時、
「真由!」
真由と由香里、二人の間に、剛の声が、割って入った。
「あっ。おとーさん。」
「あら、起きたのね。真由、元気よ。」
と、言う、二人の声を無視して、真由が寝ているベッドに駆け寄る剛。
「真由!」
一声上げて、真由を抱きしめた。
「真由!おとーさん、滅茶苦茶!真由のこと心配したんだぞ!もう、目が覚めないんじゃないかって、すっごく心配して、、、、、、。」
「おとーさん。痛いし、苦しい。」
かなりしっかりと、剛に抱きしめられ、真由が、流石に、声を上げた。
ちゃんと聞こえたらしく、剛の腕が解かれる。
そのまま、剛は、一歩下がった。
「すまない。嬉しすぎて、思わす。」
真由は、一息つくと、笑顔を見せた。
「いいよ。心配してくれてありがと。」
「真由!」
と、剛が、また、両腕を広げたところで、由香里が、その腕をつかんだ。
「おとーさん。真由はもう、一人前のレディなんだから、気安く抱きついたら駄目よ。」
「おっ。おぅ。そうだな。」
しっかりと腕をつかみながら、ニッコリと微笑む由香里に気圧された様子で、腕を下げる剛。
「ほんと、強引なんだから。」
呆れたように、腰に手を当てる由香里。
真由は、自分が目を覚ました時を思い出して、小さく笑うと、
「ふふっ。おかーさんも、わたしが起きた時、ちょっと、強引だったけどね。」
「あっ。それは、、、。」
「、、、。」
思い出して、止まる由香里に、お前もか、と、目線を送る剛。
真由は、その二人を前に、俯き加減にもじもじと手を動かし、
「えっと。二人とも心配してくれて、ありがとう。凄くうれしい。」
二人は、一瞬、目を合わせた。
「そっ、その。おとーさんも、真由が元気で嬉しいぞ。」
照れ臭そうに、真っ赤になっている剛。
由香里は、とびっきりの微笑で。
「おかーさんだって、真由が無事で嬉しいわ。だから、みんなお相子ね。」
「うん!」
真由も、黒枠のことはすっかり忘れて、思いっ切り、笑顔になった。
読んでいただき、ありがとうございます。
よければ評価をお願いします。




