病院 2
「あっと。」
立ち上がり、真由に背を向けたところで、もう一度、由香里が、真由に向き直る。
片手を壁に向けて伸ばし、
「おとーさん、そこで寝てるから。」
「え?」
言われるままに、由香里の指す先を見ると、待合室に置いてあるような背のない長椅子に、窮屈そうに、父親、剛が寝ていた。
「おとーさん。」
完全に熟睡しているのか、おきる様子は全くない。
「真由が事故にあった、って、聞いた途端に、会社を飛び出してここに来て、そのまま徹夜続きで真由のそばにいたのよ。流石にダウンしちゃったけど。」
クスクスと、優しい微笑で剛を見る由香里に、真矢も、
ーおとーさんらしいや。ー
と、父親、剛を眺めた。
「でも。徹夜続きって、わたし、どのくらい気を失ってたの?」
由香里の表情が渋くなる。
「二晩よ。」
「二晩。」
繰り返した真由に、由香里が、小さく頷く。
「そう。おとーさん、先生は、怪我も奇跡的に全くなく、精密検査も全く異常はないから、気を失ってるだけ、って、言っているのに、それでも、心配だから、って、会社も休んでね。」
「そうなんだ。」
もう一度、真由は、剛に目を向けた。
「えっと。勘違いしないでね。私も一緒にいる、って、言ったら、おとーさんが、俺が潰れたら、代わってもらわないといかんから駄目だ、って、言うから、仕方なく仕事に行ってたんだからね。けっして、真由が心配じゃないから一緒にいなかった、て、訳じゃあないからね。」
少し、焦った言い方の由香里に、真由は笑って見せると、
「大丈夫。おかーさんのこと、信用してるから。」
由香里は、ホッとしたように肩を落とす。
「ありがと。じゃあ、私は、先生を呼んでくるから。」
「うん。」
頷く真由に、由香里が背を向けて部屋を出ていく。
その時、真由は、先程見えていた、黒い、半透明の枠、が、ないことに気がついた。
ー何だったんだろ、あれ。ー
気が付くと、枠が目の前に出ていた。
ー、、、。ー
よく見ると、黒い枠は、半透明なだけに、透けたむこうに、寝ている剛が見えていた。
ー半透明でも邪魔よね。ー
途端に、枠が小さくなって、視野の下の隅に移った。
ー、、、。ー
とりあえず、意識だけその枠に向けてみる。
何しろ、見ようとして頭を動かすと、あわせて枠も動く。
勿論、目だけを動かしても、一緒に動く為、意識だけ向けてみたのだ。
「見えない、って言うか、意味がない、って、言うか。」
呟くと、また、目の前に。
ー、、、。ー
暫く、枠を黙って眺めてしまうが、何も文字が書かれていないことに気がついた。
「あれ?何か書いてあった気がしたけど、、、。」
パラパラと、、、。
>資質。
>合格。
>改変。
>成功。
>結果。
>職業。
>変身ヒーロー。
>能力。
>変身 解除前の装備に切り替える
>解除 変身前の装備に切り替える
>キメる 色々あり
>
真由は、一言、言いたくなったが、思いつく言葉がなかった為、黙って、書き出された文字を読んでみる。
ー上の方は、わからないけど、職業、変身ヒーロー、ってなによ?ヒーローって、普通、男の人のことでしょう。ー
「わたし、女の子なんだけど、何で、ヒロインじゃないの?」
愚痴ってしまうが、書き出された文字が変わる様子はない。
「もぅ。」
口を尖らせつつ、下に読んでいく。
ー変身やら、解除はともかく、キメる、って何?ー
そして。
「だいたい、これって、わたしのことなの?」
枠に向かって顔を突き出すと、あわせて、枠もさがる。
「もぅ。やり難いわね。せめて、半分にならないの?」
枠が、視野の右半分になる。
文字の大きさは同じだ。
「、、、。下半分とか。」
枠は、視野の下半分になる。
「消えるとか。」
枠が、消える。
「、、、、、、。」
真由は、少しの間、剛が寝ている様子をぼんやりと目に写していたが、
「枠。」
呟く、と、視野の下半分に枠。
ーどう見ても、わたしの意思に従ってるよね。つまり。ー
「変身ヒーロー、って、わたしのことなの?」
ガーン、と、こん棒で殴られたような衝撃が、真由を突き抜け、ノックアウト、かと思われたが、真由は、ギリギリ耐えた。
「せっ、精密検査も異常なしだったらしいし、気のせいだよね。あはは。」
その時、病室の扉が開かれ、由香里が顔を出した。
「真由。先生を呼んできたわ。大人ししてた?て、言うか。どうしたの?変な顔して、何処か痛いの?」
顔色を変えた由香里が、慌てて走り寄ってくる。
真由は、はっ、と、手を上げた。
「あっ。大丈夫。ちょっと、変なこと思い出しただけだから。」
心配そうに覗き込んでくる由香里が、確認するように目を細くする。
「本当?」
「本当。大丈夫。大丈夫。」
「なら、いいけど。」
すっ、と、由香里が体を起こすと、その後ろから声がかかった。
「その様子だと、大丈夫みたいですね。」
そこには、白髪で初老の男性が立ってた。
どうやら、呼んできた先生らしい。
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