病院 1
少し、埃が積もっているモニターに、電源が入り、コンソール画面が表示される。
>無作為抽出候補者の資質を、約68.7%で確認できる事案が発生、観察を開始。
モニターに、監視カメラの荒い画像が表示される。
そして、その画像が、次々と流れるように切り替わっていく。
そこには、猛スピードで走る車と、それを追うパトカーが映っていた。
岩島 真由が目を覚ますと、目の前、2メートルほど離れたところに、黒い、半透明の枠が浮かんでいた。
ー何、この黒いの?ー
枠は、結構な大きさで、ゲームのステータス画面のように見えるが、全く飾り気が無い。
なんとなく眺めていると、文字が並んでいるのに気が付く。
内容は。
>資質。
>合格。
>改変。
>成功。
>結果。
>職業。
>変身ヒーロー。
>能力。
>変身 解除前の装備に切り替える
>解除 変身前の装備に切り替える
>キメる 色々あり
>
ー、、、、、、、、何、これ?ー
雲がかかった頭で読んでみるが、全く意味がわからない。
「真由!気が付いたの!」
真由が顔をしかめたところに、その、半透明の枠を突き抜けて、母親、由香里の顔が飛び出した。
母親、由香里から伸ばされた両手が、真由の頬を挟み、強制的に上向かせる。
「痛いところはない?私のことはわかる?」
しっかりと、頬を挟まれている真由が、
「おかーさん。ごめん。痛い。」
思わず、言ってしまうと、
「あっ!と、ごめんね。」
両手が離れ、心配そうな顔をした由香里の顔も、少し、離れた。
「ごめんね。大丈夫?」
ちょっと、トーンが下がって、心配そうな表情の由香里が、もう一度謝る。
真由は、少し微笑んで、彼女を眺めた。
「うん。大丈夫。」
答えて、周りを見回す。
「えっと。ここは?」
白の壁の部屋。
クリームがかったチェストが自分が寝ているベッドの脇にあり、そのベッドを囲うように、カーテンを動かすためのレールが天井に張り付いている。
ベッドの脇には、白いカーテンがかかっていた。
ー病院?ー
「病院よ。」
真由の思考にかぶせるように由香里が答えた。
「病院?」
「そうよ。真由、あなた、交通事故にあって、ここに運ばれたの、覚えてない?」
首を傾げ、真由は、記憶を掘り起こした。
キキキキーーー!
間違いなく驚く大きな音を響かせながら、車が交差点を曲がってくる。
ーぶつかる!ー
真由は、思うより先に走り出し、前を歩いていた小学生を突き飛ばす。
そして。
車は、小学生を突き飛ばした真由に向かって、突進してきた。
「あっ、、、。」
自分に向かって突進してくる車を思い出し、真由は、恐怖で身震いして、体を小さくした。
「大丈夫?」
暖かい由香里の手が、肩に置かれる。
その手の暖かさが、真由の恐怖を、スーッと、溶かしていく。
真由は、体の緊張を解いて、ゆっくり、顔を上げた。
「大丈夫。」
真由のその声に、由香里は、ためていた息を吐いた。
「ならいいけど。何処か痛いところはない?」
言われて、真由は、はじめて、自分の体の状態を確認した。
と、言っても、
ーあれ?ー
「痛いところ、全然ないんだけど?」
「本当?」
由香里の確認に、真由は、再び、自分の体の状態を確認してみる。
「んー、と。本当に、痛いところがないの。」
「本当?まぁ、一応、先生からは全く異常はありません、て、言われてはいるけど、本当に、大丈夫なのね。」
真剣な眼差しで、真由に顔を近づける由香里に、真由も、しっかりと頷く。
「なら、いいけど。」
もう一度、大きく息を吐く由香里。
「でも、、、。」
腕を上げたり、かけてあったシーツをどかして、足をさすってみたり。
真由は、その時になって、骨折や、打ち身どころか、擦り傷もないことの異常さに気がついた。
「わたし、、、。」
「ん?」
呟いた真由は、優しく声を掛けてきた由香里に向かって、盛大に、首を折った。
「何で、怪我してないの?わたし、車とぶつかったんだよね。」
由香里の顔に、苦笑が浮かぶ。
「それね。なんでも、真由がぶつかって飛ばされた先に、ベッドのマットレスが粗大ごみとして出してあったらしいの。」
真由は、少し、由香里から目をそらして考えた。
「つまり、車とぶつかったわたしは、そのマットレスに突っ込んだおかげで、全く、無傷だった、と。」
「そう言うことらしいわね。私も聞いただけだから、はっきりとはわからないけどね。」
「、、、。」
二人は、少し、黙って目を合わせた。
「そっ、、。そんなこと、あるんだ。」
戸惑う真由を見る由香里の苦笑が、柔らかくなる。
「まっ。私としては、真由が無事なら、全く問題ないわ。」
「あはは。わたしも、痛い目見なくてよかったかな。」
「そうね。」
二人でクスクス笑ったところで、ポンっと、由香里が手を打った。
「そうだ。真由が気が付いたら、呼んでほしい、って、先生に言われてたわ。ちょっと行ってくるから、大人しくね。」
「うん。」
真由が答えると、由香里は立ち上がる。
いつの間にか、黒い、半透明の枠は、真由の前から消えていた。
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