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追放王子の放浪記 ―灯りを守る旅―  作者: 伊佐波瑞樹


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【第74話 戻すための手】


 石蔵の灯りは、思っていたよりも小さかった。


 古い覆い付きのランプが一つ。


 火を外へ漏らさないよう、厚い硝子と金属の枠で囲まれている。


 火気厳禁だとレクスターが何度も言ったため、村人たちは恐る恐るそれを使っていた。


 それでも、灯りは灯りだった。


 黒い畑に囲まれたハルダ村で。


 水車が止まり、祠が沈黙し、集会倉庫の黒い樽が仮封鎖された後で。


 石蔵の中にある小さな光は、誰かの胸を支えるには十分だった。


 アレックスとマーガレットが戻ると、石蔵の中の人々が一斉に顔を上げた。


 子どもたち。


 老人たち。


 怪我人。


 カイ。


 そして、ようやく四十五分の休息を取らされていたレクスター。


 レクスターは木箱にもたれて目を閉じていたが、足音だけで起きた。


「戻りましたか」


 マーガレットが即座に指を差す。


「まだ四十五分経ってない!」


「気配で目が覚めただけです」


「それも休んでない!」


「目は閉じていました」


「休みの基準が低い!」


 そのやり取りに、石蔵の中で小さな笑いが起こった。


 笑いながら、誰もがアレックスたちの顔を見ている。


 サヴィルが何を話したのか。


 黒い樽をどうするのか。


 畑は戻るのか。


 水は飲めるようになるのか。


 聞きたいことは山ほどある。


 でも、誰もすぐには問い詰めなかった。


 怖いのだ。


 答えを聞くのが。


 アレックスは、石蔵の中央へ進んだ。


 カイが立ち上がる。


「聞けた?」


「ああ」


「なんでハルダだった?」


 問いは鋭かった。


 アレックスは誤魔化さなかった。


「水路があったからだ」


 石蔵の中が静まる。


「水を村の中心から畑全体へ流せる。薬を広げる実験に使いやすかった」


 ミレ婆が息を呑んだ。


 ガロンが歯を食いしばる。


 カイの拳が震える。


「……実験?」


「ああ」


「俺たちの村を?」


「そうだ」


 カイは俯いた。


 肩が震える。


 怒りで。


 悔しさで。


 でも、彼は叫ばなかった。


 石蔵の中には子どもがいる。


 怯えている老人がいる。


 彼はそれを分かっていた。


 唇を噛み、声を押し殺す。


「……ふざけるな」


 小さな声。


 けれど、誰もが同じ思いだった。


 マーガレットも拳を握っている。


「カイ」


 彼女は静かに言った。


「怒っていいよ」


「……」


「でも、今は戻す方法も聞いてきた」


 カイが顔を上げる。


「戻せるのか」


 マーガレットはレクスターを見た。


 アレックスも。


 レクスターはゆっくり身体を起こした。


 まだ疲れている。


 だが、目ははっきりしていた。


「全部を元通りにするのは困難です」


 その言葉に、石蔵の空気が少し沈む。


 だが、レクスターは続けた。


「しかし、村全体が終わったわけではありません。水車を止め、祠の核を沈黙させ、黒い樽を閉じたことで、拡散は弱まっています。今なら残せる場所があります」


 カイの目に光が戻る。


「何をすればいい」


「水をかけないこと」


 レクスターはまず言った。


 村人たちがざわつく。


「水をかけない?」


「汚染された場所に水をかけると、薬が広がります。黒い土、黒い根、樽の中身には絶対に水を使わないでください」


 ミレ婆が口元を押さえる。


「清めようとして水を撒いたら……」


「逆効果です」


 沈黙。


 誰かが小さく「危なかった」と呟いた。


 村では、汚れを洗い流すために水を使うのが当たり前だ。


 それを逆手に取られていた。


 レクスターは続ける。


「黒い樽は石灰粉と乾燥灰で表面を覆い、反応を抑えます。村に石灰はありますか」


 ガロンが顔を上げた。


「ある。畑の土壌調整用に、共同倉庫の裏に少し」


「乾燥灰は」


「各家にある。竈の灰なら」


「濡れていないものを集めてください」


 マーガレットがすぐに立ち上がる。


「私、集める!」


 レクスターが即座に言う。


「一人で行かないでください」


「分かってる!」


「本当に」


「本当に!」


 カイも立ち上がる。


「俺も行く」


 ミレ婆が声をかける。


「カイ」


「分かってる。勝手に走らない。黒いところ触らない」


「なら、行っておいで」


 カイは少し驚いた。


 止められると思っていたのだろう。


 ミレ婆は静かに言った。


「あんたは道を知ってる。灰のある家も分かる。必要な役だよ」


 カイの目が揺れる。


「……うん」


 アレックスはカイを見る。


「マーガレットと一緒に。必ず二人で動く」


「分かった」


 マーガレットが手を上げる。


「三人目、誰かいる?」


 ガロンが立ち上がろうとした。


 だが、すぐ膝をつく。


「くそ……まだ力が……」


「無理しないで」


 マーガレットが止める。


 すると、避難小屋にいた若い母親が手を上げた。


「私が行きます」


 胸に子どもを抱いたままではない。


 子どもはミレ婆のそばにいる。


 彼女は立ち上がり、震える声で言った。


「家の竈の灰が、まだ乾いているはずです。場所も分かります」


 マーガレットは心配そうに見る。


「大丈夫ですか?」


「怖いです」


 女は正直に答えた。


「でも、ここで子どもを抱いているだけだと、もっと怖い」


 その言葉に、石蔵の中が少し静まった。


 怖いまま動く。


 それは、ここ数日のアレックスたちが何度も見てきた姿だった。


 マーガレットは力強く頷いた。


「一緒に行きましょう」


「はい」


 レクスターは作業を分けた。


 石灰と乾燥灰の回収。


 石蔵周辺の安全確認。


 黒い根が薄い場所の印付け。


 負傷者の管理。


 飲用水の管理。


 そして、集会倉庫の黒い樽の再封鎖。


 どれも地味だった。


 派手な戦いではない。


 剣を振れば終わるものでもない。


 むしろ、間違えれば悪化する。


 水をかけない。


 踏まない。


 触らない。


 焦らない。


 畑を戻す戦いは、我慢の戦いだった。


 マーガレットは灰集めに出た。


 カイと若い母親――名前はエルマと言った――を連れて。


 アレックスはその後ろ姿を見送った。


 マーガレットは何度も振り返る。


 カイが走り出していないか。


 エルマが無理をしていないか。


 足元に黒い草がないか。


 その姿は、少し前の彼女とは違って見えた。


 力で前へ進むだけではない。


 誰かの歩幅を見る。


 危ない時に止める。


 重い荷物を持つだけでなく、軽い不安も拾う。


 それが今のマーガレットの強さだった。


 石蔵に残ったアレックスは、レクスターと共に集会倉庫へ戻る準備をした。


 レクスターは休息を中断したが、マーガレットとの約束があるため、動く前に自分で水を飲み、少しだけ干し肉を口にした。


 アレックスはその様子を見て言った。


「成長したな」


「子ども扱いですか」


「いや、本気で」


「……必要な補給です」


「そうだな」


 レクスターは目を逸らす。


「マーガレットに怒られるのも、面倒なので」


「それも大事な理由だ」


「否定しません」


 二人は石蔵を出た。


 外の空は夕暮れに傾いている。


 黒い畑の音は、さらに弱まっていた。


 だが、完全には止まらない。


 ぎし。


 ぎし。


 どこかで、根がまだ水を求めている。


 集会倉庫へ戻ると、サヴィルは縛られたまま壁際にいた。


 彼の前にはガロンたちが置いた見張り用の木椅子があり、今はハンスが見張っていた。


 ハンスはまだ顔色が悪いが、意識は戻っている。


 アレックスを見ると、立ち上がろうとした。


「そのままで」


 アレックスが言う。


 ハンスは悔しそうに頷く。


「すまない。見張りくらいしかできない」


「それが大事です」


 レクスターが言った。


「拘束者を一人にしないこと。証人を守ること。非常に重要です」


 ハンスは少し驚いた顔をし、それから深く頷いた。


「分かった。やる」


 サヴィルは、アレックスたちを見て薄く笑った。


「戻す作業か」


「そうだ」


 アレックスは短く答える。


「泥臭いことだ」


「お前たちが壊したからな」


「壊した土地に価値を見出す者もいる」


「黙っていろ」


 アレックスの声が低くなる。


 レクスターが隣で言った。


「怒るだけ無駄です。彼は言葉でこちらの集中を削ろうとしています」


「分かってる」


「なら、作業に集中を」


「ああ」


 サヴィルはつまらなそうに目を細めた。


 黒い樽は、四つ並んでいる。


 蓋は閉じている。


 だが、隙間から青白い光が漏れていた。


 床板に染みた黒い筋もまだ残っている。


 ここへ石灰と灰を運び、樽の表面を覆い、隙間を塞ぐ。


 その後、樽の周囲を土で囲い、絶対に水をかけないよう印をつける。


 単純に聞こえる。


 だが、樽は不安定だ。


 少し揺れれば、中身が反応するかもしれない。


 アレックスは樽の一つへ近づき、雷糸を細く伸ばした。


 直接触れない。


 金具と蓋の隙間だけを見る。


「中で動いてる」


「はい」


 レクスターが水の本を開く。


「液体が完全には沈静化していません。水車停止で反応は弱まりましたが、樽内で自己反応を続けています」


「爆発するか」


「火気や水分を与えれば可能性はあります」


「今は?」


「静かにしていれば、すぐには」


 サヴィルが横から言った。


「その樽は輸送用だ。雑に扱わなければ割れない」


 レクスターが振り向かずに言う。


「あなたの言葉は参考情報に留めます」


「疑り深い」


「当然です」


 アレックスは樽の周囲に印をつけた。


 マーガレットたちが戻るまで、先に作業範囲を決める。


 床板の黒い筋を囲い、どこまでが危険かを示す。


 水を使えないため、清掃ではなく隔離だ。


 汚れを消すのではない。


 触れないように残す。


 それは、どこかグレイルの記録にも似ていた。


 消してはいけない。


 隠してはいけない。


 危険なものとして、そこにあると示す。


 見ないふりをしないために。


 しばらくして、マーガレットたちが戻ってきた。


 灰の入った壺。


 石灰粉の袋。


 乾いた布。


 小さな木べら。


 想定より多く集まっていた。


 マーガレットは汗だくになっている。


「持ってきた!」


 レクスターがすぐ確認する。


「濡れていませんか」


「大丈夫! エルマさんが見てくれた!」


 エルマは息を切らしながら頷く。


「乾いた灰だけです」


 カイも袋を抱えている。


 小さな身体には重そうだが、彼は意地でも下ろさなかった。


「これ、使える?」


 レクスターが中身を見て頷いた。


「使えます」


 カイの顔に少しだけ安堵が浮かぶ。


「よかった」


 作業が始まった。


 まず、樽の周囲に乾燥灰を薄く撒く。


 直接手では触れない。


 木べらで少しずつ。


 黒い筋に灰が触れると、じゅ、と小さな音がした。


 マーガレットが肩を震わせる。


「音した」


「反応していますが、広がってはいません」


 レクスターが確認する。


「続けてください。ゆっくり」


「ゆっくり……」


 マーガレットは息を止めそうになりながら灰を撒く。


 カイも隣で真似をする。


 手が震えている。


 アレックスは声をかけた。


「焦らなくていい」


「焦ってない」


「震えてる」


「怖いだけ」


「うん」


 カイは自分で言った。


 怖いだけ。


 それでも作業している。


 大きな一歩だった。


「怖いまま、ゆっくりだ」


「……うん」


 カイは慎重に灰を撒いた。


 樽の隙間には石灰粉を詰める。


 こちらはレクスターが行った。


 水糸で微細な振動を見ながら、反応が強くならない量を判断する。


 彼の額には汗が浮かぶ。


 まだ休息が足りない。


 それでも、手元は正確だった。


 マーガレットが横から言う。


「レクスター、終わったら休むからね」


「分かっています」


「絶対」


「分かっています」


「本当に」


「……分かっています」


 サヴィルが壁際で呆れたように言う。


「作業中にまでそれか」


 マーガレットは振り返らずに答えた。


「大事だから」


「仲間の休息が?」


「うん」


「非効率だ」


「倒れたらもっと非効率でしょ」


 サヴィルが黙った。


 レクスターが小さく言った。


「正論です」


「レクスターが正論って言った!」


「作業に集中してください」


「はい!」


 灰と石灰で覆われた樽は、少しずつ青白い光を弱めていった。


 完全には消えない。


 だが、揺れが小さくなる。


 黒い筋の脈動も弱まる。


 石蔵から来た村人たちは、遠巻きにその様子を見ていた。


 誰も声を出さない。


 自分たちの村を壊しかけたものが、目の前で封じられていく。


 それは安堵であり、同時に怒りでもあった。


 ガロンが静かに言った。


「こんなものを、俺たちは豊作薬だと……」


 カイが顔を上げる。


 ガロンは歯を食いしばっていた。


「すまねえ、カイ」


「……」


「俺たちが、受け入れた」


 石蔵から戻ってきていたミレ婆が、杖をついて言った。


「責めるのは後だよ」


「だが」


「後だ」


 ミレ婆の声は強かった。


「今は村を戻す。悔やむのは、手を動かしながらでいい」


 ガロンは目を伏せ、頷いた。


「……分かった」


 彼も灰の袋を持った。


 まだ足元はふらついている。


 だが、座っているだけではいられなかったのだろう。


 レクスターは状態を見て少し眉をひそめたが、止めなかった。


「無理のない範囲で」


「ああ」


「黒い筋が強まったらすぐ下がってください」


「分かった」


 村人たちが、少しずつ作業に加わった。


 黒い樽の周囲を囲う者。


 印を立てる者。


 石蔵へ残す記録を書く者。


 水を使わないよう、井戸や桶に札を立てる者。


 子どもたちは石蔵で待つ。


 だが、サムが小さな木札を運ぶ役をやりたいと言い、マーガレットに「軽いのだけ」と許可された。


 地味な作業だった。


 誰かを斬るわけでもない。


 敵を倒すわけでもない。


 ただ、撒く。


 囲う。


 運ぶ。


 書く。


 待つ。


 しかし、その一つ一つが村を終わらせないための戦いだった。


 夕暮れが深くなる頃、四つの樽はすべて灰と石灰で覆われた。


 青白い光は、ほとんど見えなくなっている。


 レクスターが水の本を開き、しばらく反応を確認した。


 長い沈黙。


 誰も喋らない。


 マーガレットも、カイも、村人たちも、息を潜める。


 やがて、レクスターは静かに言った。


「一次封鎖、成功です」


 その瞬間、集会倉庫の中に安堵が広がった。


 誰かが座り込む。


 誰かが泣く。


 マーガレットも大きく息を吐いた。


「よかった……」


 カイは樽を見つめたまま、拳を握っていた。


「これで、終わり?」


 レクスターは首を横に振る。


「終わりではありません。ですが、拡散の大きな原因は抑えました」


「じゃあ、村は?」


「これから戻します」


 カイは頷いた。


「うん」


 その返事は、疲れていた。


 でも、折れていなかった。


 サヴィルは黙っていた。


 彼の顔からは、最初の余裕が薄れている。


 村人たちが自分で手を動かし、樽を封じたこと。


 それが彼には理解しにくいのかもしれない。


 壊れた村は売るしかない。


 彼はそう思っていた。


 だが、ハルダ村の人々は、売る前に戻そうとしている。


 汚れた土地を前に、まだ種袋を守ろうとしている。


 それはサヴィルの計算にはない反応だった。


 アレックスは彼を見た。


「見たか」


 サヴィルは答えない。


「お前が壊した村は、まだ手を動かしてる」


「……一時的な抵抗だ」


「それでも抵抗だ」


 マーガレットが言う。


「抵抗っていうか、生活だよ」


 その言葉に、アレックスは少し胸を打たれた。


 戦いではない。


 生活。


 水を守る。


 種を残す。


 灰を撒く。


 怪我人を寝かせる。


 子どもに硬いパンを分ける。


 それらは、すべて生活だった。


 そして生活は、時にどんな剣よりもしぶとい。


 夜が近づく。


 レクスターはついに座り込んだ。


 いや、マーガレットに座らされた。


「約束!」


「分かっています」


「今度こそ休む!」


「はい」


「水の本は?」


 レクスターは少しだけ渋った。


 マーガレットが手を出す。


「一時間」


「四十五分では」


「樽封鎖したから一時間」


「理屈が」


「一時間」


「……はい」


 レクスターは水の本をマーガレットに渡した。


 マーガレットは両手で大事に受け取る。


 まるで赤子を抱くように。


「絶対汚さない」


「お願いします」


「落とさない」


「お願いします」


「抱きしめて折らない」


「最重要です」


「分かってる!」


 カイが横で笑った。


 アレックスも笑った。


 レクスターは壁に背を預け、今度こそ目を閉じた。


 すぐに眠りに落ちる。


 サヴィルが小さく呟いた。


「理解できないな」


 アレックスが見る。


「何が」


「その記録係は、もっと効率よく使える人材だ。休ませるより働かせた方が成果が出る」


 マーガレットの顔が険しくなる。


 だが、アレックスが先に言った。


「人は使うものじゃない」


「またそれか」


「仲間だ」


 サヴィルは黙った。


 アレックスは、眠るレクスターを見た。


 水の本を抱えて見張るマーガレット。


 灰だらけになったカイ。


 疲れながらも木札を立てる村人たち。


 石蔵で種を守る老人たち。


 そのすべてが、今の答えだった。


 ハルダ村の夜は、まだ不安だった。


 黒い畑は完全には戻らない。


 水路もまだ危険だ。


 サヴィルの背後にいるグレイ商会、そして王都の影も残っている。


 だが、黒い樽は封じた。


 水車は止めた。


 祠は沈黙した。


 避難者は石蔵へ移った。


 村人たちは手を動かし始めた。


 それは大きな勝利ではない。


 けれど、確かな一歩だった。


 アレックスは集会倉庫の外へ出た。


 夕暮れの空に、最初の星が見えている。


 黒い畑はまだ軋む。


 ぎし。


 ぎし。


 でも、その音の向こうに、石蔵から人の声が聞こえた。


 水を分ける声。


 子どもを呼ぶ声。


 種袋を数える声。


 カイの声。


 マーガレットの声。


 それらが、畑の軋みよりも少しだけ強く聞こえた。


 ハルダ村は、まだ暗い。


 だが、戻すための手が動き始めた。


 なら、この村は終わっていない。


 アレックスは静かに息を吸った。


 土の匂い。


 灰の匂い。


 薬の匂い。


 そして、わずかに残る種の匂い。


 明日へ繋がる匂いだった。

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