【第57話 流さないための選択】
青白い原液槽が、脈打っていた。
旧施療院の最深部。
調剤室の奥に隠されていた巨大な薬液槽。
人の背丈を超える硝子筒の中で、濁った液体が泡立っている。
底には無数の欠片核。
小さな石のようなものが、青白い光を瞬かせながら浮かび、沈み、また浮かんでいた。
そのたびに、槽の表面に細い波紋が広がる。
まるで、生き物の心臓だった。
治療薬の原液ではない。
人を壊す薬。
人の身体へ命令線を刻み、欠片に反応させ、意志を奪い、名前を削り、番号に変える薬。
それが、今にも水路へ流れようとしていた。
アレックスは雷の刃を構えたまま、息を詰めていた。
追わない。
そう決めた。
リゼットは奥の通路へ逃げた。
今追えば、捕まえられるかもしれない。
エイナの弟リクの記録。
ルミアの治療記録。
数えきれない被害者の名。
それらを奪った女が、すぐそこにいる。
追いたい。
止めたい。
問い詰めたい。
怒りをぶつけたい。
だが、今ここで原液槽を放置すれば、薬が町の水路へ流れる。
グレイル中に広がる。
セラやルミアのような子が、さらに増えるかもしれない。
リゼットは、それを分かって選ばせた。
自分を追うか。
町を守るか。
嫌になるほど悪質な選択だった。
でも、アレックスは選んだ。
追わない。
今は、流さない。
「レクト」
アレックスは声を落とした。
「止め方は分かるか」
レクスターは原液槽を見上げていた。
壁に手をつき、呼吸を整えている。
顔色は悪い。
北鐘楼で帳簿を守り、共鳴鐘の後処理をし、ここまで来た。
立っているだけでも不思議な状態だ。
それでも、彼の目は原液槽から離れていなかった。
「……構造を見ます」
「無理は」
「無理です」
即答だった。
アレックスが言葉を失う。
レクスターは続けた。
「無理ですが、必要です」
マーガレットが眉を寄せた。
「それ、だめなやつ」
「承知しています」
「承知してたらやめて」
「やめられません」
「もう!」
マーガレットの声に、苛立ちと心配が混ざる。
だが、レクスターは視線を逸らさなかった。
「水路へ流出すれば、被害範囲は町全域に及ぶ可能性があります。ここで止める以外ありません」
エイナが原液槽の下部を見た。
そこには太い管が何本も繋がっている。
ひとつは壁の奥へ。
ひとつは床下へ。
ひとつは上部の薬棚へ。
「床下の管が水路に繋がってる」
エイナが言う。
「たぶん旧施療院の排水路。昔は薬草を洗った水を流してた場所」
「今は薬を流す道か」
アレックスの声が低くなる。
「最低だね」
マーガレットが吐き捨てた。
レクスターは水の本を開いた。
ページが湿った空気を受けて揺れる。
「選択肢は三つ」
「また選択肢か」
アレックスが苦く言う。
「今回は私たちで整理するものです」
レクスターは淡々と言った。
「一つ目、槽を破壊する。最速ですが、原液が漏れます。却下」
「うん、却下」
マーガレットが即答した。
「二つ目、排水管を物理的に塞ぐ。マーガレットの力なら可能ですが、内部圧力が上がり、槽が破裂する危険があります」
「う……それもだめ?」
「単独では危険です」
「単独じゃなければ?」
「三つ目と併用します」
「三つ目は?」
アレックスが問う。
レクスターは原液槽の中の欠片核を見た。
「核の命令反応を弱め、原液を沈静化させる。その上で排水管を塞ぎ、槽内の圧力を逃がす」
「難しそう」
マーガレットが言った。
「難しいです」
「やっぱり」
「ですが可能性はあります」
アレックスは頷いた。
「俺の雷で核を沈める」
「はい。ただし、強すぎれば核が砕け、原液全体が暴走します」
「弱すぎれば?」
「反応が止まりません」
「いつものやつだな」
「いつものやつです」
マーガレットが小さく手を上げる。
「私は?」
「排水管を塞ぎます。ただし、完全に潰すのではなく、流量を絞る程度に」
「難しい!」
「はい」
「最近そればっかり!」
「成長の機会です」
「レクスター、たまに鬼!」
「自覚はありません」
「ないの!?」
そのやり取りの間にも、原液槽は脈打っている。
床の青白い線が少しずつ強くなる。
流出まで時間はない。
エイナが短剣を握り直した。
「私は?」
「制御盤の解除」
レクスターが答える。
「壁の右奥。リゼットが触っていた装置の奥に、手動弁があります。そこを開ければ内部圧力を別室の貯留槽へ逃がせる可能性がある」
「罠は?」
「あります」
「だよね」
エイナは苦笑した。
だが、その目に迷いはなかった。
「やる」
「肩は」
「痛い」
「動けますか」
「動く」
「無理なら」
「無理だけど動く」
レクスターは小さく息を吐いた。
「全員そうですね」
「レクトもだろ」
アレックスが言う。
「否定できません」
短い沈黙。
その沈黙の中で、全員が互いを見た。
疲れている。
傷だらけだ。
もう何度も限界を超えている。
それでも、ここで止まらない。
リゼットを追わないと決めたからには、原液槽を止める。
それが、今できる最善だった。
「やろう」
アレックスが言った。
「うん」
マーガレットが頷く。
「やる」
エイナが答える。
「始めます」
レクスターが水の本に指を置いた。
まず、レクスターの水糸が原液槽の外側へ伸びた。
硝子に直接触れるのではない。
槽の周囲に張り巡らされた管の水分を探る。
薬液。
蒸気。
壁の湿気。
それらを細い糸として捉え、流れを見る。
レクスターの眉が寄る。
「槽内圧力、上昇中。流出口が開きかけています」
「どれくらいで流れる?」
「一分以内」
「短い!」
マーガレットが叫ぶ。
「正確には四十秒程度」
「もっと短い!」
「マーガレット、排水管へ!」
「はい!」
マーガレットが床下へ繋がる太い管へ走る。
鋼鉄のような管。
しかし、継ぎ目は古い。
ここを完全に潰せば、流れは止まる。
だが破裂する。
だから、潰しすぎない。
マーガレットは両手で管を掴んだ。
「どれくらい!?」
「半分です!」
レクスターが叫ぶ。
「半分ってどれくらい!?」
「完全に潰さない程度!」
「それ説明になってない!」
「感覚で!」
「レクスターが感覚って言った!」
マーガレットは歯を食いしばった。
力を込める。
管が軋む。
ぎぎ、と嫌な音。
だが、潰しすぎない。
半分。
半分。
半分とは何か。
マーガレットの額に汗が浮かぶ。
「ううう……!」
彼女は管の形を見ながら、少しずつ力を込めた。
ぐに、と管がへこむ。
流れが鈍る音がした。
「そのまま!」
レクスターが叫ぶ。
「まだ潰さない!」
「了解!」
エイナは制御盤へ向かった。
壁の右奥。
古い木製の箱に、金属のレバーと青白い結晶が埋め込まれている。
見ただけで罠だと分かる。
エイナは短剣の先で蓋を開けた。
中に細い線。
三本。
いや、四本。
「罠、多い」
「線の色は!」
レクスターが叫ぶ。
「青、黒、赤、白!」
「白を触らないでください! 警報です!」
「赤は?」
「おそらく焼却!」
「黒は?」
「毒煙!」
「青は?」
「弁です!」
「分かった!」
エイナは短剣を握り直す。
肩が痛む。
傷が引きつる。
だが、指先は震えない。
青い線。
そこだけを狙う。
だが、近くに黒線が絡んでいる。
切り損ねれば毒煙。
エイナは息を止めた。
「……リク」
小さく呟く。
リクの名前。
それはもう、彼女を壊すだけの言葉ではなかった。
支える言葉になり始めていた。
「見てて」
短剣が青い線を引っかける。
慎重に、黒線から離す。
赤線にも触れない。
白線にも触れない。
汗が頬を伝う。
そして。
「開ける!」
エイナが青線を引いた。
壁の奥で、弁が動く音がした。
ごご、と低い音。
原液槽の上部から別の管へ液体が流れ始める。
「圧力が逃げました!」
レクスターが叫ぶ。
「アレックス、今です!」
アレックスは原液槽の前に立っていた。
槽内の欠片核が強く光っている。
無数の小さな核。
全部を砕いてはいけない。
反応だけを弱める。
鐘を止めた時と同じ。
セラの侵食を抑えた時と同じ。
ルミアを水槽から出した時と同じ。
ただ、規模が違う。
アレックスは刃先を槽へ向けた。
雷が細く分かれる。
一本では足りない。
五本。
十本。
さらに細く。
雷糸が硝子越しに欠片核へ触れる。
強く焼くのではない。
震えを与え、命令反応を緩める。
欠片核が一斉に反発した。
「ぐっ……!」
手首に痛みが走る。
雷が逆流しそうになる。
アレックスの腕が震えた。
レクスターが叫ぶ。
「核が同期しています! 一つを刺激すると全体が反応する!」
「どうすれば!」
「全体に均等に!」
「簡単に言うな!」
「簡単ではありません!」
マーガレットが管を押さえながら叫ぶ。
「アレックス、頑張れ!」
「頑張ってる!」
「もっと!」
「分かった!」
無茶苦茶な励まし。
だが、それで少し力が戻る。
アレックスは雷糸をさらに細かく分けた。
全ての核へ同じ強さで触れる。
強すぎない。
弱すぎない。
まるで、荒れた子どもたちの背中を一人ずつ撫でて落ち着かせるように。
そんな感覚だった。
攻撃ではない。
制圧でもない。
沈める。
落ち着かせる。
「静まれ……!」
欠片核の光が揺らぐ。
青白い泡が減る。
原液の波紋が少しずつ小さくなる。
だが、完全には止まらない。
底の一つ。
大きめの核が強く光る。
主核。
それがまだ命令を出している。
「中央下部に主核!」
レクスターが叫ぶ。
「そこを止めれば!」
「分かった!」
アレックスは雷糸を束ねる。
主核へ。
だが、周囲の小核が邪魔をする。
まるで守っているように反発する。
雷が弾かれる。
アレックスの腕に痺れが走る。
その瞬間、床の線が再び強く光った。
「まずい!」
エイナが叫ぶ。
「弁が戻される!」
「自動復帰です!」
レクスターの声。
「エイナ、青線を固定してください!」
「どうやって!」
「何かで挟む!」
「雑!」
「時間がありません!」
エイナは制御盤の中を見る。
固定具はない。
短剣を挟めば、手元の武器を失う。
だが。
「……いいよ」
彼女は短剣を青線に差し込み、動かないように固定した。
「これで!」
「短剣が!」
マーガレットが叫ぶ。
「また買う!」
「かっこいい!」
「今それ言う!?」
エイナが少し笑った。
笑えた。
その一瞬が、彼女自身を繋ぎ止める。
マーガレットは管を押さえ続けている。
腕が震え始めていた。
力を入れすぎてもだめ。
抜いてもだめ。
半分の圧力を保つ。
単純な力より、ずっと難しい。
「マーガレット、大丈夫か!」
アレックスが叫ぶ。
「大丈夫じゃないけど、大丈夫!」
「それ流行ってるのか!」
「エイナから習った!」
「変なところで学ばないでください!」
レクスターが叫ぶ。
その声にも少しだけ力が戻っていた。
だが、次の瞬間、彼が咳き込んだ。
「レクト!」
「問題……」
「ないって言うな!」
マーガレットが怒鳴る。
レクスターは口元を押さえた。
無理をしすぎている。
水糸で流れを読み、圧力を見て、アレックスへ指示を出し、エイナへ指示を出す。
頭も身体も限界だ。
それでも、水の本を閉じない。
「アレックス……主核の外側に、三重の命令線……」
「見える!」
「外側から順に……」
「ほどく!」
「はい……!」
アレックスは主核へ集中した。
三重の線。
外側。
中間。
内側。
一気に切れば反動。
一本ずつ。
だが遅すぎると流出する。
雷糸が主核の外側へ触れる。
一つ目。
切る。
主核が激しく光る。
原液槽が揺れた。
マーガレットの押さえる管が暴れる。
「うわっ!」
「耐えて!」
「耐えてる!」
二つ目。
雷糸が弾かれる。
アレックスの指から血がにじむ。
雷の負荷に皮膚が裂けた。
だが、手を引かない。
マーガレットが叫ぶ。
「アレックス!」
「平気!」
「絶対平気じゃない!」
「あとで怒られる!」
「今怒ってる!」
「あとでも頼む!」
「任せて!」
意味の分からない会話。
だが、マーガレットは泣きそうになりながら笑った。
その笑顔で、アレックスの呼吸が戻る。
二つ目を切る。
主核の光が弱まる。
残り一つ。
一番内側。
これを切れば終わる。
だが、そこに触れた瞬間。
アレックスの頭に、声が流れ込んだ。
違う。
声ではない。
記録の残響。
薬に混じった命令。
リゼットの声。
『効くわ』
『もう少し強く』
『名前は邪魔』
『痛いなら、忘れなさい』
『番号の方が楽よ』
アレックスの意識が揺れる。
雷糸が乱れる。
「アレックス!」
レクスターの声が遠くなる。
視界が青白く染まる。
その中で、別の声が聞こえた。
小さな声。
ルミアの声。
『……なまえ……』
ニナの声。
『セラ姉……!』
セラの声。
『知らないまま、待つ方が苦しいです……』
エイナの声。
『リクの名前を、数字にしない』
マーガレットの声。
『番号じゃないよ』
レクスターの声。
『見るべきは、命令線です』
アレックスは息を吸った。
戻る。
青白い残響から、自分の場所へ戻る。
名前がある。
声がある。
待っている人がいる。
「……名前は」
アレックスは呟いた。
雷糸が再び整う。
「邪魔じゃない」
最後の命令線へ触れる。
「戻る場所だ」
雷糸が、内側の線をほどいた。
ぱきん。
主核の光が消えた。
同時に、原液槽全体の泡が止まる。
青白い液体が沈んでいく。
床の線が暗くなる。
管の震えが消える。
マーガレットが押さえていた管も、ようやく静かになった。
「……止まった?」
マーガレットが恐る恐る言う。
レクスターが水糸で確認する。
数秒。
長い数秒。
そして。
「止まりました」
その言葉が、地下室に落ちた。
マーガレットがへたり込みそうになる。
「やった……!」
エイナも制御盤から離れ、壁に背を預ける。
「止まった……」
アレックスは刃を下ろした。
指先が震えている。
腕が痛い。
息が荒い。
だが、原液は流れていない。
町は守られた。
リゼットは逃げた。
でも、彼女の置いた最悪は止めた。
レクスターがゆっくり床へ座り込んだ。
今度は本当に限界だった。
「レクト!」
アレックスが駆け寄る。
「……今度は、少し休みます」
「少しじゃなく休め!」
マーガレットが怒る。
「同感です……」
「自分で言った!」
レクスターは苦笑しようとしたが、うまくできなかった。
「記録は……」
「ある」
マーガレットが箱を抱えた。
「薬剤記録も、薬瓶も守った」
エイナも胸に手を置く。
「リクの記録も」
アレックスは頷いた。
「原液槽も止めた」
沈黙。
長い長い沈黙。
誰もすぐには立ち上がれなかった。
地下にあるのは、停止した装置の音だけ。
ぽたり、とどこかで水が落ちる。
青白い光は、もう弱い。
マーガレットが小さく言った。
「リゼット、逃げたね」
「ああ」
アレックスが答える。
「悔しいね」
「悔しい」
「でも、追ってたらこれ、流れてたんだよね」
「たぶん」
「じゃあ、これでよかったんだよね」
「うん」
マーガレットは悔しそうに唇を噛んだ。
「でも、悔しい」
「うん」
アレックスも同じだった。
正しい選択をした。
それでも悔しい。
それでいいのだと思う。
悔しさが残るから、次に進める。
エイナが静かに言った。
「私は、少しだけよかった」
アレックスとマーガレットが彼女を見る。
「リゼットを追ってたら、たぶん私、冷静じゃいられなかった」
エイナは胸の記録帳を抱きしめる。
「今でも、殺したいくらい憎い。でも……リクの記録を守れた。ルミアの記録も守れた。原液も止めた」
彼女は涙をこぼした。
「リクに、少しだけ顔向けできる気がする」
マーガレットが近づき、そっと隣に座った。
「できるよ」
「……」
「絶対できる」
エイナは小さく頷いた。
アレックスは立ち上がり、停止した原液槽を見た。
まだ危険だ。
完全に無害化したわけではない。
ここは封鎖し、レクスターが回復してから処理する必要がある。
町の人々にも知らせなければならない。
リゼットは逃げた。
黒外套もいる。
バルザックの処理もまだ終わっていない。
だが。
今夜、守れたものは確かにある。
帳簿。
名前。
ルミア。
リクの記録。
グレイルの水路。
町の灯り。
アレックスは静かに息を吐いた。
「戻ろう」
レクスターが顔を上げる。
「少し休んでから」
「そうだな」
アレックスは微笑んだ。
「今は、本当に少し休もう」
マーガレットが目を丸くする。
「アレックスが休むって言った」
「言った」
「すごい」
「俺も成長した」
エイナが小さく笑った。
レクスターも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
旧施療院の地下。
人を壊すための原液槽の前で。
四人は、ほんのわずかな時間だけ座り込んだ。
勝利とは言えない。
終わりでもない。
でも、流さずに済んだ。
それだけで、今は十分だった。
やがて、マーガレットがぽつりと言った。
「ルミアちゃん、名前聞いたらどんな顔するかな」
アレックスは想像した。
あの青白い瞳。
「なまえ」と呟いた小さな声。
「泣くかもしれない」
「私も泣く」
「もう泣いてる」
「泣いてない」
「泣いてる」
「今日はもう、泣いてもいいかな」
マーガレットが笑いながら涙を拭った。
エイナも小さく言う。
「私も、たぶん泣く」
「うん」
アレックスは頷いた。
「泣こう」
レクスターが静かに付け加える。
「ただし、記録を濡らさない範囲で」
マーガレットが吹き出した。
「そこ!?」
「重要です」
「レクスターらしい」
笑いが、少しだけ地下に響いた。
苦しくて。
痛くて。
疲れ切っていて。
それでも、確かに笑いだった。
リゼットの薬房の奥底で。
人を番号にする場所で。
名前を持つ者たちが笑っていた。
それは小さな反抗だった。
この場所が、人を壊すためだけの場所では終わらないという証だった。
アレックスは目を閉じた。
灯りは、まだ消えていない。
むしろ、増えている。
だから、戻る。
ルミアへ、名前を届けるために。
グレイルへ、記録を持ち帰るために。
そして、逃げたリゼットをいつか必ず止めるために。
四人は、少しの休息のあと、重い身体を起こした。
それぞれが記録を抱え、傷を押さえ、武器を握り直す。
旧施療院の地下を出る階段は、下りてきた時よりも長く見えた。
けれど、戻る道には意味があった。
名前を待つ子がいる。
帰りを待つ町がある。
だから、進む。
暗い地下から、グレイルの夜へ。
守ったものを抱えて。
彼らは、ゆっくりと上へ向かって歩き出した。




