【第20話 灯りを守る三人】
森の闇に、松明の光が揺れていた。
一つ。
二つ。
三つ。
いや、それだけではない。
木々の隙間から、さらに奥にも小さな火が見える。
湿った夜気の中で、炎は赤く滲み、まるで森そのものがいくつもの目を開いたようだった。
笛の音が、また鳴る。
ぴぃ、と短く。
それに応えるように、別の方向から低い合図が返った。
見張り小屋を囲むように、敵が動いている。
人買いたちの仲間か。
グレイル裏市の追手か。
それとも黒外套に誘導された者たちか。
まだ分からない。
だが、分かっていることもある。
ここには、傷ついた人々がいる。
檻から出されたばかりの者たちがいる。
捨て場から連れ戻された者たちがいる。
子どもがいる。
熱に浮かされたミナがいる。
名前を取り戻したユミがいる。
そして、彼らを背にして、三人が立っている。
逃がすわけにはいかない。
踏み込ませるわけにはいかない。
この小さな灯りを、もう一度踏みにじらせるわけにはいかなかった。
「来る」
レクスターが低く言った。
水の本が淡く光っている。
彼の顔には疲労が見える。
さっきまで捨て場から連れ戻した者たちの処置を続け、ほとんど休んでいない。
それでも、目は鋭かった。
冷静に敵の位置を読み、森の湿気と川の流れを感じ取り、どこに水糸を張るべきかを瞬時に判断している。
「正面に五。右に三。左に二。奥に弓らしき気配が二」
「多いね」
マーガレットがハルバードを肩に担ぎながら言った。
声は明るい。
けれど、その目は笑っていない。
背後の小屋から、子どもの小さな泣き声が聞こえたからだ。
その声が、彼女の中の怒りを静かに燃やしていた。
「多いけど、分かりやすい」
「分かりやすいだけで済めばいいですが」
レクスターが返す。
「相手は人質を取り返す、あるいは証拠を消す目的で来ています。こちらを殺すだけでなく、小屋に火をかける可能性もあります」
「火?」
マーガレットの声が低くなる。
「そんなことしたら、中にいる人たちが」
「だからさせません」
レクスターは淡々と言った。
その淡々の奥に、明確な怒りがあった。
「マーガレット。正面から来る者を止めてください。ただし森ごと吹き飛ばさないように」
「分かってる!」
「本当に?」
「今度は本当に!」
「信じます」
「えっ」
マーガレットが一瞬だけ驚く。
「今、信じるって言った?」
「言いました」
「もう一回言って」
「戦闘中です」
「あとで言って!」
「生き残ったら検討します」
「よし!」
アレックスは右手を雷の刃に添えたまま、森の闇を見ていた。
松明の光が近づいてくる。
足音も聞こえ始めた。
枝を踏む音。
鎖の鳴る音。
低い笑い声。
こちらを怯えた獲物だと思っている者たちの気配。
アレックスは静かに息を吸う。
怒りはある。
だが、飲み込んだ。
怒りのまま斬れば、守るべきものを見失う。
今は倒すためではない。
守るために戦う。
「レクスター」
「はい」
「小屋の周囲は任せた」
「当然です」
「マーガレット」
「うん」
「正面は頼む」
「任せて」
マーガレットはにっと笑った。
いつもの笑顔。
でも、その足元の土がかすかに沈む。
彼女の大地の力が、静かに広がっている。
「アレックスは?」
「右を潰して、弓を止める」
「無茶しないでね」
「する前に戻る」
「それ、ちょっと怪しい」
「怪しいですね」
レクスターが即座に言う。
「あなたは弓を見つけた瞬間、奥まで踏み込みすぎる可能性があります」
「じゃあ止めてくれ」
「止めます」
「頼んだ」
「頼まれました」
小屋の中から、トマの声がした。
「まーが!」
マーガレットが振り返る。
小屋の入口で、トマが棒を握りしめて立っていた。
ミナを背に庇いながら。
顔は青ざめている。
でも逃げていない。
「中にいなよ!」
マーガレットが叫ぶ。
「分かってる!」
トマは叫び返す。
「でも、来たら俺も――」
「来させない!」
マーガレットの声が、森の夜に真っ直ぐ響いた。
「トマはミナのそばにいて! それが一番大事!」
トマは唇を噛んだ。
言い返したそうだった。
でも、ミナが小さく咳をした瞬間、彼は小屋の中へ半歩戻った。
「……絶対、来させるなよ」
「絶対!」
マーガレットは笑った。
「約束!」
その約束を聞いて、アレックスの胸が一瞬だけ重くなる。
また約束が増えた。
守るものが増えた。
けれど、今はその重さが足を止めるものではない。
前へ踏み出す理由だった。
松明を持った男たちが、ついに姿を現した。
革鎧。
短剣。
剣。
弓。
顔を布で隠した者もいれば、堂々と嫌な笑みを浮かべる者もいる。
先頭の男は片目に傷があり、首に銀の鎖を巻いていた。
人買いたちとは違う。
ただの見張りではない。
荒事に慣れた、裏市の処理役。
そんな空気を纏っている。
「おいおい」
片目の男が笑った。
「派手にやってくれたなあ。橋の連中が戻らねえと思ったら、こんなところで遊んでやがったか」
アレックスは答えない。
男の後ろにいる者たちを見た。
人数。
武器。
距離。
小屋までの経路。
松明の位置。
火が飛べば危ない場所。
全部を見る。
片目の男は、縛られた人買いたちへ視線を向けた。
「情けねえな。ガキどもにやられたのか?」
縛られた太った男が顔を引きつらせる。
「ザイル……助けろ……」
「助けろ?」
ザイルと呼ばれた片目の男は、鼻で笑った。
「馬鹿か。証拠を持たれて、人も逃がして、欠片も奪われかけて、何を助けろって?」
太った男の顔から血の気が引く。
「お、おい……」
「使えねえ荷物は処分だろ」
その言葉が出た瞬間。
マーガレットの足元の土が、びしりと鳴った。
「……また言った」
低い声だった。
ザイルがマーガレットを見る。
「あ?」
「荷物って言った」
「ああ、言ったな。人だろうが何だろうが、金にならなきゃ荷物だろ」
その瞬間、アレックスはマーガレットを見た。
マーガレットも、アレックスを見た。
止めるべきか。
行かせるべきか。
アレックスは一拍だけ考えた。
そして、静かに言った。
「マーガレット」
「うん」
「檻から離れてる。小屋からも距離がある」
「うん」
「地面は壊しすぎないように」
マーガレットの瞳が燃えた。
「了解」
次の瞬間、彼女は踏み込んだ。
速い。
小柄な身体が、獣のように低く走る。
ザイルの周囲の男たちが反応するより早く、マーガレットはハルバードを横に構えた。
「人は」
地面を蹴る。
「荷物じゃ」
柄が唸る。
「ないっ!」
刃ではない。
柄の腹。
それでも、正面にいた男二人がまとめて吹き飛んだ。
背後の木へ叩きつけられ、呻き声を上げて崩れる。
ザイルはぎりぎりで横へ跳んでいた。
目を見開く。
「なんだ、この女……!」
「マーガレット!」
彼女は叫んだ。
「覚えなくていいよ! 倒すから!」
「ふざけ――」
ザイルが言い終える前に、マーガレットは二撃目を振るう。
だが、今度はザイルも反応した。
短剣を抜き、ハルバードの柄を滑るように受け流す。
単純な力ではなく技術。
荒事に慣れている。
マーガレットの目が鋭くなる。
「へえ」
「こっちの台詞だ」
ザイルが笑う。
「ただの馬鹿力女じゃねえのか」
「馬鹿力は合ってる!」
「認めるのかよ!」
「でも」
マーガレットはハルバードを引き戻す。
「馬鹿じゃない!」
石突が地面を打つ。
土が盛り上がり、ザイルの足場が崩れた。
「うおっ!?」
「ちょっとは考えてる!」
マーガレットが踏み込む。
ザイルは短剣で受けきれず、後ろへ跳んだ。
その隙に、正面から来ていた男たちの動きが止まる。
マーガレット一人が、正面の敵を完全に引き受けていた。
一方、右側の林から三人の男が小屋へ回り込もうとしていた。
松明を低く持ち、足音を殺している。
狙いは小屋。
火を投げ込む気だ。
アレックスはすでに動いていた。
雷の刃を抜く。
鞘鳴りと同時に、彼の身体が青白く閃く。
一人目の松明を柄で弾き飛ばす。
火は地面へ落ちる前に、アレックスの踏み込みで土をかけられ消えた。
二人目が短剣を振る。
アレックスは刃の背で手首を打つ。
短剣が落ちる。
三人目が後ろへ下がり、叫ぼうとした。
「右から――」
言葉は続かなかった。
アレックスの雷の刃が喉元すれすれで止まっていた。
「静かに」
穏やかな声。
男は震える。
「小屋には近づくな」
「ひっ……」
「中に怪我人がいる」
男の視線が小屋へ向く。
そこから聞こえる子どもの息遣い。
弱った人々の呻き。
それでも男は、顔を歪めて笑おうとした。
「だから、なんだよ……」
その一言に、アレックスの目が変わった。
明るさが消える。
怒鳴らない。
斬り捨てない。
ただ、低く言った。
「だから、ここから先は通さない」
男の膝を、刃の背で打つ。
崩れたところを首元へ一撃。
意識を刈り取る。
残る二人も、すでに立てない。
アレックスはすぐに森の奥へ目を向けた。
弓だ。
レクスターが言っていた弓兵が、まだいる。
その瞬間、矢が放たれた。
狙いはアレックスではない。
小屋の入口。
トマがいる場所。
「っ!」
アレックスが踏み込もうとした時、左側から水の膜が走った。
矢の軌道が逸れ、小屋の壁に突き刺さる。
中からミナの小さな悲鳴が聞こえた。
トマが叫ぶ。
「ミナ、大丈夫! 大丈夫だ!」
レクスターの声が鋭く飛ぶ。
「弓兵は私が抑えます!」
彼は水の本を開き、左手を森へ向けた。
周囲の湿気が細い糸となり、闇の中へ伸びる。
弓兵が二射目を構える気配。
「遅い」
レクスターが呟いた。
水糸が弓兵の指へ絡む。
「なっ!?」
弓が引けない。
次の瞬間、足元に水が広がり、弓兵の身体を滑らせる。
倒れる音。
罵声。
もう一人の弓兵が場所を変えようとする。
だが、レクスターはそれも読んでいた。
「そこは悪手です」
水糸が木の枝から落ちる雫を伝い、弓兵の足首へ絡みつく。
「ぐっ!」
「森の湿気を甘く見ましたね」
レクスターの声は冷たかった。
だが、その額には汗が浮いている。
疲労は残っている。
それでも、彼は左側と後方を完全に封じていた。
小屋の中では、トマが震える手で棒を握っていた。
矢が壁に刺さった音が、まだ耳に残っている。
ミナが泣きそうな顔で兄の服を掴んでいる。
「兄さん……」
「大丈夫」
トマは声を震わせながらも言った。
「大丈夫だ。まーががいる。アレックスがいる。レクスターがいる」
「……怖い」
「俺も怖い」
トマは正直に言った。
ミナが目を丸くする。
「でも、ここにいる」
「……うん」
「俺も、ここ守る」
トマは小屋の入口に立った。
外へ出るわけではない。
でも、逃げない。
その小さな背中を、ユミが毛布の中から見ていた。
「……トマ……」
「寝てろ」
「……こわい……?」
「怖い」
「……でも……いる……?」
「ああ」
トマは棒を握り直した。
「いる」
その言葉が、小屋の中の子どもたちに少しだけ伝わった。
誰かが泣き止む。
誰かが毛布を握り直す。
ここにいる。
名前がある。
守ると言った人たちが外にいる。
それが、小さな小屋の中で灯りになっていた。
正面では、マーガレットとザイルがぶつかっていた。
ザイルは強い。
まともに受ければ押し潰されるマーガレットのハルバードを、正面からではなく角度で逃がす。
足場を使い、木を盾にし、短剣を滑らせ、時には仲間を壁にする。
汚い戦い方だった。
けれど、実戦的でもあった。
「ちょこまかと!」
マーガレットが踏み込む。
「当たったら終わりだからな!」
ザイルが笑う。
「馬鹿みてえな力しやがって!」
「馬鹿じゃないって言った!」
「なら証明してみろよ!」
ザイルが懐から小さな瓶を投げた。
割れる。
中から青白い粉が散る。
欠片の残滓。
マーガレットの目が鋭くなる。
「これ……!」
「吸えば足が鈍るぜ!」
粉が広がる前に、レクスターの声が飛ぶ。
「マーガレット、息を止めて下がる!」
「了解!」
マーガレットは即座に後ろへ跳ぶ。
レクスターが水の膜を飛ばし、粉を包み込んで地面へ落とした。
「汚染粉末。面倒ですね」
「助かった!」
「前を!」
ザイルがその隙に距離を詰める。
短剣がマーガレットの腕を狙う。
だが、マーガレットは下がりきっていなかった。
むしろ待っていた。
「今のは」
彼女は短く言う。
「ほんとにむかついた」
大地のハルバードを片手で回し、柄で短剣を弾く。
もう一方の手でザイルの襟首を掴む。
「なっ――」
「人を弱らせる粉なんか」
マーガレットの瞳が燃える。
「使うなっ!」
そのまま地面へ叩きつけた。
加減はした。
殺さないように。
でも、地面はひび割れた。
ザイルの口から息が抜ける。
「が、は……っ!」
「マーガレット!」
アレックスが叫ぶ。
「殺してない!」
マーガレットはすぐ答えた。
「でも、しばらく起きない!」
「十分です」
レクスターが言う。
ザイルが倒れたことで、敵の動きが大きく乱れた。
正面の男たちは後ずさる。
弓兵は拘束済み。
右側の回り込みもアレックスが止めた。
残る敵は、松明を持った三人。
彼らは顔を見合わせた。
逃げるか。
攻めるか。
その迷いの一瞬を、アレックスは逃さなかった。
「武器を捨てろ」
雷の刃を下げたまま、彼は言った。
「これ以上は戦わなくていい」
「ふざけんな……」
一人が震えながら剣を握る。
「俺たちが戻らなきゃ、裏市に――」
「戻っても同じです」
レクスターが冷たく言う。
「失敗した時点で、あなた方は処分対象でしょう」
男たちの顔色が変わる。
その反応で分かった。
彼らもまた、恐怖で動いている。
許されるわけではない。
だが、恐怖の連鎖の中にいる。
アレックスは一歩前へ出た。
「武器を捨てろ。話は聞く」
「信じられるかよ!」
「信じなくていい」
アレックスの声は静かだった。
「でも、剣を振れば倒す」
沈黙。
森の葉が揺れる。
焚き火が小さく音を立てる。
男の手から、剣が落ちた。
一人。
そして、もう一人。
最後の一人も、悔しそうに松明を地面へ置いた。
レクスターがすぐに水を飛ばし、松明の火を消す。
「拘束します」
「お願い」
水糸が男たちの手首へ絡む。
マーガレットはザイルを見下ろし、深く息を吐いた。
「……勝った?」
「戦闘としては」
レクスターが答える。
「でも、完全には終わっていません」
「分かってる」
アレックスは剣を納めた。
森の夜が、少しずつ静かになる。
敵の呻き声。
解放者たちの震える息。
小屋の中から聞こえる子どもたちの声。
誰も死なせなかった。
少なくとも、ここでは。
だが、この戦いで分かったこともある。
裏市は動く。
証拠を消しに来る。
人を荷と呼び、使えなくなれば捨て、失敗した仲間すら処分する。
そして、その背後に黒外套がいる。
アレックスはザイルのそばへしゃがんだ。
ザイルは意識が朦朧としている。
だが、かすかに目を開けた。
「……化け物どもが……」
「グレイル裏市について聞く」
「話すと……思うか……」
「思わない」
アレックスは言った。
「でも、君の仲間は話すかもしれない」
ザイルの目が動く。
武器を捨てた男たちを見る。
彼らは青ざめていた。
レクスターが冷たく告げる。
「あなた方は裏市に戻れば処分される可能性が高い。こちらに情報を出せば、生存率は上がります」
「脅しか」
ザイルが笑う。
「いいえ」
レクスターは眼鏡を押し上げた。
「現実です」
その言葉に、何人かが視線を伏せた。
現実。
彼らにとって、それは一番嫌な言葉だったのかもしれない。
マーガレットは小屋の方へ走った。
「みんな、大丈夫!?」
中からトマが顔を出す。
「大丈夫」
「ミナは?」
「大丈夫。ユミも」
「よかった……」
マーガレットはその場に座り込みそうになったが、踏ん張った。
まだ終わっていない。
敵の拘束。
怪我人の確認。
森の警戒。
やることは山ほどある。
でも、トマが小さく言った。
「……守ったな」
マーガレットが目を丸くする。
「え?」
「ここ、守った」
その言葉に、マーガレットの胸が熱くなる。
彼女は笑った。
「うん」
「すごいな」
「もっと言って」
「調子に乗るな」
「ちぇっ」
トマは少しだけ笑った。
小屋の中で、ミナも弱く笑う。
ユミは毛布の中で、かすかに呟いた。
「……まーが……いる……」
「いるよ」
マーガレットはすぐに答えた。
「ちゃんといる」
その頃、アレックスは森の奥を見ていた。
敵は退けた。
小屋は守った。
けれど、遠くの闇の向こうで、まだ何かが動いている気がした。
グレイル。
裏市。
黒外套。
欠片。
ラドナ村。
捨て場。
名前を奪われた人々。
すべてが一本の線になり始めている。
レクスターが隣へ来る。
「今夜は、もう大きな襲撃はないでしょう」
「根拠は?」
「この規模の処理班を失えば、相手も状況確認を優先します」
「じゃあ、朝までは?」
「警戒は必要です」
「そうだな」
「そして朝になったら、決める必要があります」
「グレイルへ行くか」
「はい」
アレックスは小屋を見る。
人々がいる。
傷ついた人々。
守ったばかりの灯り。
「置いていけない」
「全員を連れていけない」
「分かってる」
「なら、方法を考えます」
「頼りにしてる」
「当然です」
マーガレットが戻ってきた。
「私も考える!」
レクスターが彼女を見る。
「では、まず座ってください」
「え?」
「あなたも疲れています」
「私はまだ」
「座ってください」
「はい」
あまりにも強い声に、マーガレットは素直に座った。
アレックスが少し笑う。
「レクスター、強いな」
「あなた方が言うことを聞かないので」
「俺も?」
「あなたもです」
「そうか」
「そうです」
三人は焚き火の前に並んだ。
背後には小屋。
周囲には救われた人々。
少し離れて拘束された敵たち。
夜はまだ明けない。
それでも、空の端がほんの少しだけ薄くなり始めていた。
長い夜の終わりが、遠くに見え始めている。
アレックスは小さく息を吐いた。
「守れたな」
「うん」
マーガレットが頷く。
「守れた」
「ただし、次が本番です」
レクスターが言う。
「分かってる」
アレックスは焚き火を見る。
小さな火。
何度も消えそうになりながら、まだ燃えている。
この火みたいだと思った。
ラドナ村も。
見張り小屋も。
助けた人々も。
そして、自分たちも。
弱くても、消えていない。
なら、守る価値がある。
「グレイルへ行く」
アレックスは言った。
マーガレットが頷く。
「うん」
レクスターも静かに頷いた。
「準備しましょう」
森の夜に、静かな決意が落ちる。
人を荷と呼ぶ者たち。
名前を奪う者たち。
欠片を使い、苦しみを広げる黒外套。
そのすべてに向かって、三人は進む。
追放された三人の放浪旅は、もう逃げ道ではなかった。
誰かの灯りを守るための道になっていた。




