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追放王子の放浪記 ―灯りを守る旅―  作者: 伊佐波瑞樹


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【第14話 森の見張り小屋】


 森の奥へ進むほど、光は細くなっていった。


 旧街道から外れた道は、もはや道と呼ぶには頼りなかった。


 獣道。


 あるいは、昔は人が通ったが、今では森に飲まれかけている細い跡。


 足元には湿った落ち葉が積もり、踏むたびに小さく沈む。


 木の根が蛇のように地面を這い、ところどころで土が盛り上がっている。


 枝は低く垂れ、葉は濃く、昼だというのに夕方のように薄暗い。


 遠くから、かすかな水音が聞こえていた。


 小川か。


 それとも、古い橋の下を流れる水か。


 森の匂いは濃かった。


 湿った土。


 苔。


 古い木。


 そこに、微かに混じる鉄の匂い。


 ラドナ村の井戸で感じたものに似ている。


 アレックスはそれに気づき、表情を引き締めた。


 欠片の影響は、ここまで来ている。


 いや。


 もしかすると、黒外套が通った場所すべてに、こうして薄い異常を残しているのかもしれない。


 そう思うと、胸の奥が冷えた。


「……道、こっちで合ってる?」


 マーガレットが小声で尋ねる。


 彼女の背には、熱でぐったりしたミナがいる。


 ミナは最初こそ怯えていたが、マーガレットの背中の温かさに安心したのか、今は浅く眠っていた。


 ただ、呼吸はまだ少し荒い。


 小さな手が、マーガレットの肩口の布をぎゅっと握っている。


 マーガレットはいつもより慎重に歩いていた。


 枝を避ける時も、足場を越える時も、背中のミナが揺れすぎないように気を遣っている。


 大地のハルバードは片手で持ち、必要ならすぐ構えられるようにしながらも、無駄な音を立てない。


 普段の豪快さからは考えられないほど、丁寧な動きだった。


 トマは少し前を歩いている。


 木の棒を握りしめ、時折後ろを振り返る。


 妹が無事か。


 三人が本当に逃げずについてきているか。


 追手が来ていないか。


 小さな身体で、何もかも警戒している。


「合ってる」


 トマは短く答えた。


「見張り小屋は、もう少し先」


「そこ、安全なの?」


 マーガレットが聞く。


「昔、森番が使ってた場所。今は誰も使ってない」


「崩れてない?」


「たぶん」


「たぶんかぁ」


「仕方ないだろ。俺だって住んでるわけじゃない」


「ごめんごめん。責めたわけじゃないよ」


 マーガレットは柔らかく言った。


 トマは少しだけ目をそらす。


 謝られることに慣れていないのかもしれない。


 あるいは、優しくされることに警戒しているのかもしれない。


 レクスターは最後尾で水の本を抱えながら歩いていた。


 時折、立ち止まって地面や木の幹を見る。


 足跡。


 折れた枝。


 土に残った滑った跡。


 森の中に残る情報を、冷静に拾っている。


「追手の痕跡があります」


 彼が低く言った。


 全員が足を止める。


 トマの肩が跳ねた。


「近いのか」


「まだ距離はあります。ただ、複数人がこの方向へ入っています」


「何人?」


 アレックスが問う。


「最低四人。重装ではありません。森を歩き慣れている者が二人。雑な者が二人」


「雑って分かるの?」


 マーガレットが小声で聞く。


「分かります。枝を折りすぎ、足跡が深すぎる。急いでいるか、苛立っている」


「じゃあ、トマたちを追ってる?」


「可能性は高いです」


 トマの顔が青ざめる。


 握った木の棒が震えた。


「……やっぱり来る」


 その声は小さかった。


 怒りより、恐怖が強い。


 それでも逃げ出さないように必死に立っている。


 アレックスはその様子を見て、胸が痛んだ。


 子どもがこんな顔で森を歩かなければならない。


 それだけで、もう十分に間違っている。


「トマ」


 アレックスは膝を少し折り、目線を合わせた。


「ここから先は、俺たちが見る」


「……俺も戦える」


「うん」


「棒だってある」


「うん」


「妹を守らないと」


「守ってるよ」


 トマが唇を噛む。


「でも」


「ここまで連れてきた。追手から逃げて、ミナを守って、俺たちに道を教えてくれてる」


 アレックスは静かに続けた。


「それは、ちゃんと守ってるってことだ」


 トマの目が揺れた。


 子ども扱いされたくない。


 でも、怖い。


 強がりたい。


 でも、疲れている。


 その全部が、小さな顔に出ていた。


「……まだ、終わってない」


「うん。だから、次は一緒にやろう」


「一緒?」


「ミナを安全な場所へ隠す。それが今の一番大事な役目だ」


 トマは少し黙った。


 木々の間を風が抜ける。


 葉がざわめく。


 やがて彼は小さく頷いた。


「……分かった」


 マーガレットがほっと息を吐いた。


「トマ、えらい」


「子ども扱いするな」


「ごめん」


「でも……」


 トマは小さく言った。


「妹を落とすなよ」


 マーガレットはにっと笑った。


「絶対落とさない」


「絶対だぞ」


「うん」


「まーが、力強すぎるから」


「お、まーがって呼んだ」


 トマはしまったという顔をした。


「違う! 今のは……!」


「呼んだね」


「呼んでない!」


「呼んだよ」


「うるさい!」


 マーガレットは嬉しそうに笑う。


 ミナが背中で少し身じろぎした。


「……まーが……?」


「うん、いるよ」


 マーガレットの声が一瞬で柔らかくなる。


「もう少しで休めるからね」


「……兄さん……」


「いる」


 トマがすぐに答えた。


「ここにいる」


 ミナはまた浅い眠りに落ちた。


 アレックスはそのやり取りを見て、胸の奥に静かな怒りが積もるのを感じた。


 黒外套だけではない。


 この森で子どもを追う者たち。


 人を集めているという者たち。


 青い欠片の近くへ連れていく者たち。


 彼らが何をしているのか、まだ分からない。


 だが、許せるものではないと直感していた。


「急ごう」


 アレックスが言った。


「追手より先に小屋へ」


 トマが頷き、再び前へ進む。


 森はさらに深くなった。


 足元は湿り、苔が増える。


 倒木を越えるたび、ミナが揺れないようマーガレットが体勢を調整する。


 レクスターは何度も後方を確認しながら、時折水の本を開いた。


 アレックスは先頭と後方の間に立ち、いつでも動ける位置を保つ。


 雷の刃にはまだ手をかけていない。


 だが、意識はずっとそこにある。


 森の奥から、ふと声が聞こえた気がした。


 人の声。


 男の怒鳴り声。


 遠く、風に紛れて、はっきりとは聞き取れない。


 マーガレットが顔を上げる。


「今、何か聞こえた?」


「聞こえました」


 レクスターが答える。


「距離はあります。追手か、別の集団か」


 トマの足が少し速くなる。


「急いで」


「トマ」


「小屋、すぐそこ」


 木々の間に、古い建物が見えた。


 小さな小屋だった。


 石と木で作られた一階建て。


 屋根の一部は苔に覆われ、壁の板は黒ずんでいる。


 扉は歪んで半分外れかけていた。


 窓には板が打ちつけられているが、一枚は落ちている。


 確かに、長く使われていない。


 だが、完全に崩れてはいない。


 隠れるには十分に見えた。


「ここ」


 トマが言う。


「中を確認します」


 レクスターが前へ出る。


 水の本を開き、扉の前で止まった。


「生体反応はなし。大きな魔力反応もありません」


「罠は?」


「現時点では不明」


「入る」


 アレックスが扉に手をかける。


 ゆっくり押すと、ぎい、と嫌な音がした。


 中は薄暗い。


 古い机。


 倒れた椅子。


 壁際の棚。


 床には落ち葉と埃。


 奥には小さな暖炉の跡がある。


 森番が使っていたという話は本当らしい。


 ただ、人が住める状態ではない。


 それでも雨風はしのげる。


「大丈夫そうだ」


 アレックスが言う。


 マーガレットは慎重にミナを背から下ろし、比較的埃の少ない壁際へ座らせた。


 自分の外套を丸めて背もたれにする。


「ごめんね、ちょっと硬いけど」


 ミナは薄く目を開けた。


「……ありがとう」


「うん」


 マーガレットは水袋を取り出し、レクスターを見る。


「飲ませてもいい?」


「少量ずつ」


「はい」


 トマは小屋の入口に立ち、落ち着かない様子で外を見ている。


 アレックスはその隣へ行った。


「トマ」


「何」


「ここでミナを見ていてほしい」


「お前たちは?」


「古い橋を見に行く」


 トマの顔が強張る。


「危ない」


「分かってる」


「捕まってる人がいる。大人も、子どもも」


「うん」


「商人みたいなやつら、剣持ってる」


「うん」


「黒いやつもいるかもしれない」


「うん」


「なんで行くんだよ」


 トマの声には苛立ちがあった。


 理解できないものへの苛立ち。


 怖いものへ向かう大人たちへの、怒りに近い戸惑い。


「逃げればいいだろ」


 彼は言った。


「お前たち、俺たちをここまで連れてきた。もういいだろ」


 マーガレットが顔を上げる。


 レクスターも静かにトマを見る。


 アレックスは少しだけ黙った。


 すぐに答えなかった。


 この問いには、軽く答えてはいけないと思った。


 逃げればいい。


 その通りだ。


 三人は追放された身だ。


 王都からの追手もある。


 ラドナ村の欠片も追わなければならない。


 ここで別の問題に首を突っ込むほど、余裕があるわけではない。


 それでも。


「見ちゃったから」


 アレックスは言った。


 トマが眉をひそめる。


「何を」


「君とミナを」


「……」


「捕まってる人がいるって聞いた。子どももいるって聞いた。青い欠片に関係しているかもしれない」


 アレックスは森の奥を見る。


「もう知らないふりができない」


「馬鹿だ」


 トマが吐き捨てる。


「馬鹿だよ。そんなの」


「うん」


「認めるなよ!」


「でも、そうかもしれない」


 アレックスは少し笑った。


「俺は、効率よく逃げるのが下手なんだと思う」


 レクスターが横から言った。


「下手というより、致命的に向いていません」


「そこまで?」


「そこまでです」


 マーガレットが笑う。


「でも、そういうアレックスだから、私たちもついてきたんだよ」


「私は監視と補助です」


「レクスターはそう言うよね」


「事実です」


 トマは三人を見た。


 理解できない。


 だが、少しだけ何かが揺れている。


 逃げればいい。


 そう思うのは当然だ。


 この子は逃げることで妹を守ってきた。


 逃げることは弱さではない。


 守るための選択だ。


 だからアレックスは、否定しなかった。


「トマは、ミナを守ってくれ」


 アレックスは言う。


「俺たちは、他の人を見てくる」


「……戻ってくるのか」


「戻る」


「ラドナ村にも戻るって言ったのか」


「言った」


「約束、多すぎる」


「そうだな」


「守れるのか」


 アレックスは、今度もすぐには答えなかった。


 守る。


 簡単に言える言葉ではない。


 ラドナ村にも言った。


 トマにも言うのか。


 その重さを、ちゃんと感じる。


 それから、頷いた。


「守るために行く」


「答えになってない」


「そうかも」


「変なやつ」


「よく言われる」


 トマは苛立ったように顔を背けた。


 だが、入口から退いた。


「……見張ってる」


「頼む」


「頼まれたからじゃない。ミナのためだ」


「うん」


 アレックスは微笑んだ。


「それでいい」


 レクスターが小屋の内側を確認しながら言う。


「防衛の最低限を作ります。入口に簡易の水糸を張る。誰かが入れば分かります」


「水糸?」


 トマが警戒する。


「罠ではありません。警報です」


「信用できない」


「結構です。効果があれば問題ありません」


「レクスター、子ども相手に相変わらず」


 マーガレットが呆れる。


「甘い言い方をしても、仕組みは変わりません」


「そうだけどさ」


 レクスターは本を開き、小屋の入口と窓辺に細い水の線を張った。


 目を凝らさなければ見えないほど細い。


 光もほとんどない。


 だが、誰かが触れればレクスターに伝わる仕組みらしい。


「これで接近には気づけます」


「すごい」


 ミナが小さく呟いた。


 レクスターは一瞬だけ止まる。


 そして、眼鏡を押し上げた。


「最低限です」


「褒められ慣れてない?」


 マーガレットがにやにやする。


「黙ってください」


「照れてる」


「黙ってください」


「二回言った」


 アレックスは小屋の奥から古い毛布を見つけた。


 埃はひどいが、叩けば使えそうだ。


 マーガレットが外で軽く払い、ミナにかける。


「少しだけ寝ててね」


「まーがは?」


「ちょっと行ってくる」


「……帰ってくる?」


 ミナの声は、ひどく小さかった。


 その問いに、マーガレットの表情が柔らかくなる。


「帰ってくるよ」


「ほんと?」


「ほんと」


「兄さん、嘘つく人は目を見るなって言ってた」


「そっか」


 マーガレットはミナの目をまっすぐ見た。


「帰ってくる」


 ミナはしばらく彼女を見つめた。


 そして、小さく頷いた。


「待ってる」


 その言葉に、マーガレットの胸が詰まる。


 ラドナ村でも聞いた。


 待ってる。


 その言葉は、軽くない。


 けれど、今は逃げない。


「うん」


 マーガレットは笑った。


「待ってて」


 三人は小屋を出た。


 トマは入口の横に立ち、棒を握っている。


 ミナを守るための顔だ。


 怖がっている。


 でも、逃げない。


「無茶するなよ」


 トマが言った。


「トマも」


 アレックスが返す。


「俺は無茶しない」


「そうかな」


「するわけないだろ」


「妹のためならする顔です」


 レクスターが淡々と言う。


 トマがぎくりとする。


「うるさい」


「図星ですね」


「うるさい!」


 マーガレットが笑う。


「トマ、レクスターに口で勝つのは難しいよ」


「むかつく」


「分かる!」


「分かるのか」


「うん!」


 短い会話のあと、三人は森の奥へ向かった。


 見張り小屋を背にして。


 古い橋へ。


 捕まった人々がいるという場所へ。


 黒外套の影が見えたという場所へ。


 森はさらに暗くなった。


 小屋から少し離れただけで、空気が変わる。


 湿気が増し、鉄の匂いが濃くなる。


 青白い魔力痕も、レクスターにははっきり感じられるようだった。


「近いです」


 彼が低く言う。


「欠片の反応が濃くなっています」


「黒外套も?」


「不明。ただし、欠片はこの先にあった可能性が高い」


「今もある?」


「動いています」


「動いてる?」


 マーガレットが顔をしかめる。


「つまり、誰かが運んでいる?」


「その可能性があります」


 アレックスは雷の刃へ手を添える。


 木々の間から、遠くの水音が大きくなってきた。


 橋が近い。


 それと同時に、今度ははっきりと人の声が聞こえた。


「さっさと歩け!」


 男の怒鳴り声。


 続いて、何かを叩く音。


 小さな悲鳴。


 マーガレットの目が鋭くなる。


「……今の」


「ああ」


 アレックスの声も低い。


 レクスターが手で二人を制した。


「感情で飛び出さないでください」


「でも!」


「人数確認が先です」


 マーガレットは歯を食いしばった。


 今すぐ走り出したい。


 怒鳴り声の主を殴り飛ばしたい。


 でも、背中にミナの温もりがまだ残っている。


 トマの「戻ってくるのか」という声も残っている。


 失敗すれば、助けられるものも助けられない。


 だから止まった。


「……分かった」


 レクスターは頷く。


「良い判断です」


「褒めた?」


「褒めました」


「あとでちゃんと聞く」


「今は前を」


「はい」


 三人は身を低くして進んだ。


 茂みを抜ける。


 古い石の橋が見えてきた。


 苔むした橋。


 下には細い川が流れている。


 橋の向こう側に、壊れた荷車が数台。


 粗末な檻。


 縄で縛られた人々。


 そして、商人風の男たちが数人。


 その中に、青白く光る小さな石を布で包んだ男がいた。


 欠片だ。


 アレックスは直感した。


 だが、その場に黒外套の姿はない。


 代わりに、濃い茶色の外套を着た太った男が、捕らえられた人々の前で苛立ったように指示を飛ばしていた。


「早く積め! 夜までに移動するぞ!」


「でも、こいつらもう動けません」


「動けないなら捨てろ。使えん荷物はいらん」


 その言葉に、マーガレットの拳が震えた。


 アレックスの目から笑みが消える。


 レクスターの声が氷のように冷えた。


「人買いですね」


「人買い……」


「森を通る旅人や周辺の子どもを捕らえ、労働力として売る連中です」


「なんで欠片を持ってる」


「黒外套が渡した、あるいは利用させている。詳細は不明ですが」


 レクスターは目を細める。


「ろくでもないことだけは確定です」


 その時、檻の中から小さな子どもが咳をした。


 男が苛立ったように振り返る。


「うるさい!」


 棒を振り上げる。


 マーガレットが動きかけた。


 今度は、アレックスも止めなかった。


 ただ、彼の方が一瞬早かった。


 雷が走る。


 茂みの中から、青白い光が抜けた。


 棒が振り下ろされる寸前。


 アレックスの雷の刃が、その棒を根元から斬り飛ばした。


 男が目を見開く。


「な――」


 アレックスは男の前に立っていた。


 静かな顔。


 けれど、その目は明るくない。


「子どもを叩くな」


 短い声だった。


 橋の周囲が一瞬で凍りついた。


 人買いたちが一斉に武器へ手を伸ばす。


 捕らえられた人々が息を呑む。


 マーガレットが茂みから飛び出し、大地のハルバードを肩に担いだ。


「はい、終わり!」


 彼女の声は明るかった。


 でも、怒っていた。


「全員そこに並んで。ぶっ飛ばすから」


「並ぶ必要はありません」


 レクスターが水の本を開きながら言う。


「逃走経路を塞ぎます」


 水の線が川から伸び、橋の両端へ広がる。


 人買いたちの顔色が変わる。


 太った男が叫んだ。


「何者だ、貴様ら!」


 アレックスは雷の刃を構える。


 優しく明るい青年の顔は、そこにはない。


 ただ、静かな怒りを宿した剣士がいた。


「旅人だよ」


 そして、少しだけ笑った。


「人を助けに来た」


 その言葉と同時に、森の空気が震えた。


 欠片を包んだ布が、青白く脈打つ。


 橋の下の水がざわめく。


 捕らえられた人々の目に、恐怖とは違う光が宿る。


 助けが来た。


 そう思っていいのか分からないまま、それでも見てしまう。


 アレックスたち三人を。


 マーガレットはハルバードを握りしめる。


「アレックス」


「うん」


「遠慮いる?」


「いらない」


「了解!」


 レクスターが即座に言う。


「ただし殺さないでください。情報が必要です」


「そこは分かってる!」


「信用度五割」


「上がった!」


「まだ低いです」


 アレックスは一歩前へ出た。


 人買いたちが剣を抜く。


 欠片が、また一度、強く光った。


 青白い光が森の古い橋を照らす。


 放浪旅の次の戦いが、静かに始まろうとしていた。

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