表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

8 極楽寺崩壊――四間槍と石鹸で寺社利権を奪い取る

 極楽寺は、油座と高利貸しの利権を守るため、僧兵二百を動員した。周辺の国衆を煽り、「仏敵・三郎を討て」と気勢を上げた。

 門前には、法衣の下に鎧を纏った僧兵二百人が、長刀を振りかざして気炎を上げている。

 対する俺の軍勢は、百人。

 鉄造が鍛えた四間槍を手にした、元・農民の歩兵たちだ。

「……整列。三列横隊、槍を水平に保て」

 僧兵たちが「三郎を殺せ!」と突撃してくる。弓が地面に突き刺さる。明確な敵対行為。よし、これで大義名分が成立した。

「待った甲斐があったな。正当防衛の成立だ。……やれ」

 俺の合図で、歩兵たちが機械的に歩を進める。


 中世の戦いは個人の武勇がすべて。名乗りを上げ、我先にと手柄を求める。

「……前列、叩け!」

 壁のように並んだ長槍が一斉に繰り出された。

 四間、つまり約七メールの高さから振り下ろされた槍は、高さがスピードに、スピードが力に変換され、僧兵の頭上に襲い寄せる。

 その一撃で前列の僧兵たちは押しつぶされた。その力は、ひしゃげた鎧や折れた刀を見れば一目瞭然だ。

「後列、突き出せ。前列、上げろ」

 七メートルのリーチ。僧兵の武器が届く遥か手前で、その喉元や胸を正確に貫く。

「な、なんだこの長さは!? 近寄れん!」

「一人を斬っても、横から次の槍が出てくるぞ!」


 僧兵たちはパニックに陥った。

 俺の常備軍は、個人の武勇など発揮しない。ただ機械のように、歩調を合わせ、淡々と作業をこなすように槍を突き出す。

「一騎打ちなんてものは、ワンマン経営の悪習と同じだ。これからは、圧倒的な物量と組織力で、敵を圧殺してやる」


 戦場のすぐ後ろ、安全圏に控えていた鶴姫が、拡声器を手に前に出た。

「小机の民たちよ、聞きなさい! この寺は、皆さんの借金で贅沢三昧! この台帳を今、この場で焼却します! 皆様の借金はすべて三郎様が買い取り、そして今――免除されました!」


 門前の農民たちから、地響きのような歓声が上がった。

「三郎様、万歳!」

「鶴姫様は観音様だ!」

 敵対勢力を排除しつつ、住民の支持を一気に奪っていく。

 

 一刻後。極楽寺の鐘楼には、三郎の旗が掲げられていた。

「おのれ三郎! 貴様、こんな暴挙が許されると思うてか!」

 縄をかけられた僧正が喚くが、俺は冷めた目で彼を見下ろした。

「小田原には、『極楽寺は武田と密約を交わし反乱を企てたため、やむを得ず粛清した』と報告する。証拠の隠し資産と一緒にな。安心しろ、この資産は俺の常備軍の軍資金と、新しい製油所の建設費に有効活用してやるよ」


 俺は寺の広大な敷地を見渡した。

「ここを今日から常備軍駐屯地として、そして製油と石鹸の工場用地として接収する。……鶴、あとは頼んだ。寺に保管している情報を掻き集めてくれ」

「承知いたしましたわ、旦那様。……まずは、この者たちの口を割らせて、周辺の国衆の弱みを洗い出させますわ」

 鶴姫は、返り血ひとつない袖を整え、艶やかに微笑んだ。

 彼女が僧正の耳元で何かを囁くと、彼らは幽霊でも見たかのように顔を青ざめさせる。

 秘密を握られたエリートたちの顔と同じだな、昔、不正を突き止めた時によく見た顔だ。

「……完璧だ、鶴。さあ、次のフェーズに移ろうか」

 夕闇の中、俺たちは次なる戦略へと歩き出した。


 極楽寺を接収した翌日から、俺たちは精力的に動いていた。

 小机での成功は、あくまでPoC(概念実証)、つまり机上の空論が本当にも実現できるかの実験に過ぎない。有効だと確認出来たのなら、周りが手を打つ前に横展開するべきだ。

 俺は小机でのノウハウを言語化して、部下達にマニュアルを配布した。そして、特に信頼できる部下二人をリーダーとして神奈川湊と佐江戸へ派遣した。一人は百姓をやっていた七介ななすけ、もう一人は小机衆の地侍の次男だったが、俺の方針に興味を持った蓮次れんじ。二人とも貪欲に知識を吸収していくし、泥臭い経験を厭わない。

「神奈川と佐江戸、ここを同時に手に入れるぞ。鉄造は搾油機の生産ラインをフル稼働させろ。常備軍は、新拠点の設営と警備に回れ。鶴は使える情報の取り出しを頼む」

 やることは如何に早く小机の焼き直しを行うかだ。

 油の圧倒的生産性で市場を独占し、同時に腐敗した既得権益層の裏帳簿を奪取、焼却する。そして彼らは武田と密約で、反乱準備の為に蓄財していたという証拠が出てくる。

「借金が消えた! 観音様だ!」と涙を流す民たちを、高給の常備軍として雇用していく。

神奈川の港周辺でも、佐江戸の農村でも、俺と鶴姫は「救世主、観音様」として、あるいは「根切りの三郎、黒蛇の鶴姫」としてその名が広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ