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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第6章 信長・天下編 ~戦国の終わり、八洲商会の誕生と世界の始まり~

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74 信長よ、悪いが今日は息子が生まれたので佐渡をもらう

 元亀三年(1572年)、春。

 残雪の残る春日山城に、高く、力強い産声が響き渡った。

「――おめでとうございます! 健やかな若君にございます!」

 産屋から駆け出してきた侍女の声に、廊下で控えていた俺は、前世でも味わったことのないほど深い安堵で膝をつきそうになった。


 正室・伊保野が産んだのは、元気な男児だった。信長の流言を、夫婦の絆とこの新しい命で見事に跳ね返してくれたのだ。

 俺はすぐさま産屋に入り、疲れ果てた、しかし誇らしげな表情の伊保野の横に座った。

「よく頑張ったな、伊保野」

 その小さな体を胸に抱いた瞬間、胸の奥が痛んだ。

(……俺は、本当にこの子の未来を守れるのか)

 織田も、武田も、南蛮も。世界そのものが牙を剥いている。

 だが、この温もりだけは絶対に手放せない――そう思った途端、背負うものの重さが、これまでとは比べ物にならないほどの圧でのしかかってきた。

「……景虎様。この子は、上杉と北条、二つの家を繋ぐ光となりましょう」

 俺はその小さな温もりを抱き上げ、決めていた名を口にした。

「幼名は『海王丸かいおうまる』だ。この子が大人になる頃、日ノ本の海はすべて一つの路で繋がっている。その主となる男だ」

 伊保野は「素敵な名ですね」と微笑み、眠りについた。

 

「――報告。武田軍、三方ヶ原にて徳川・織田連合軍を粉砕。家康公は浜松城へ命からがら逃げ込み、織田の援軍・平手汎秀は討死にございます」

 春日山城の書斎。三ツ者――武田から譲り受けた忍びの一人が、音もなく現れて告げた。

 俺、上杉景虎は、手元の帳簿から目を上げずに短く応えた。

「そうか。予定より早いな。こちらも開始しよう」

 

 織田信長は今頃、岐阜城で頭を抱えているはずだ。

 彼の計算では、武田は背後の上杉を恐れ、兵の三割は国境に残すはず、とでも思っていたのだろう。兵站も、長年の戦で限界に達しているはずだった。

 だが、現れたのは「全軍」だ。

 しかも、その兵たちの胃袋は上杉の滋養強壮に富んだ飯で満たされ、傷口には俺が国外から直接買い付けた薬草が塗られている。

 信長がどれほど優れた戦術家でも、「物資が無尽蔵の武田軍」など悪夢でしかない。

 暫く後、俺は御実城様こと、義父・上杉輝虎(謙信)に武田の報告と軍事行動の裁可を取りにきた。


「義父上。武田が三方ヶ原で徳川·織田連合軍に勝利しました」

「うむ、先ほど報告を受けた」

「そして。佐渡の本間一族が、日本海での海賊行為を激化させております。物流を司る水軍総管として、これ以上の看過は上杉の義に反します。……これより、佐渡を鎮圧し、直轄領と致します」

 輝虎様は鋭い眼光で俺を見つめた。

「三郎よ。佐渡は根が深い。本間は海を庭とする者たちだ。力で屈服させれば、後が長引くぞ」

「ご安心を。力で滅ぼすのは、秩序を乱す『組織の腐敗』だけです。それに、武田が動いておりますので」

「うむ。だから今か」

「はい」

「わかった。手早く済ませてまいれ。次の戦まで、それほど時は無いかもしれぬ」

 

 佐渡攻略に動員したのは、俺が鍛え上げた長槍部隊と、栞が率いる宇佐美衆、計二千。

 対する本間一族は、山城と海賊船に籠もり、六百から千ほどの兵で抵抗の構えを見せた。

「景虎様。本間は『波風を味方にできる』と豪語しておりますが」

 隣に立つ栞が、愛銃の火蓋を切りながら冷ややかに告げる。

「海賊のやり方は熟知しているということだろう。だが、これは組織戦だ。個人の武勇でどうにかなる時代は終わったと、教えてやろう」


 本間一族の船団が、荒波を利用して俺たちの輸送船を囲もうとしたところで、俺は合図を送った。

 景虎流の「機動水軍」だ。

 大型船の横腹で待機していた宇佐美衆。そして、福良津衆の熟練の操船術。

「放て!」

 栞の号令と共に、宇佐美衆の鉄砲が一斉に火を噴いた。

 本間の小舟は、接近する前に次々と蜂の巣にされ、冷たい日本海へと沈んでいく。

 陸に上がっていた本間の兵たちも、俺たちが選別して磨き上げた精鋭たちの組織的な包囲網の前に、なすすべなく瓦解していった。


 数週間後。

 佐渡は、名実ともに俺の管理下に置かれた。

 武田から連れてきた金堀り衆が、本間が隠していた古い坑道を調べ上げ、俺に報告した。

「景虎様……これは、とんでもねえ銀の脈です。甲斐の山が子供に見える。……これなら、日ノ本中の米を買い占められますぜ」

 俺は、採れたての銀の塊を掌で転がした。

 信長。あんたは今、三方ヶ原で血を流している武田に必死だろう。

 北条幻庵が駿河と遠江の境に座っているだけで、徳川が身動きも取れずに凍りついていることも知っているはずだ。

 だが、あんたの本当の敗北は、今、この瞬間だ。

 俺が佐渡の銀という銭の油田を手に入れたことで、あんたがどれほど戦場で勝とうが、経済という名の血流が北陸道を中心に変わっていく。まもなく、堺を大混乱に落としてやる。

「海王丸。父からの最初のプレゼントだ」

 俺は、産まれたばかりの息子の顔を思い浮かべながら、銀の塊を撫でた。

第74話を最後までお読み頂きありがとうございます!

最近、新しく読みに来て頂ける方が増えており、みなとは嬉しいです。


今回は、正室の伊保野との間に息子が生まれました。織田の流言を家族で跳ね除け、新しい命を背負った景虎は、彼らしい行動に出ます。織田と武田はお互いにすり減らしあっているなか、こちらは佐渡の銀山を取りにいきました。

息子に銀の塊をプレゼントすると言っていますが、この銀山がこの後の織田との闘いで本当の力になっていきます。

「これからの経済戦が気になる」「武田と織田はどうなる」「景虎は次に何を仕込む」が楽しそうと思ってくださったら、ぜひ画面下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップして応援していただけると非常に励みになります!


「ここが熱かった!」という感想やいいね(リアクション)も、ぜひお気軽に置いていってください!

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