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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第4章 関東編 ~二千の潜入、唐沢山の死闘~

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48 評定で死地を命じられたので、真田の隠れ道から電撃戦を仕掛けます

 春日山城、評定の間。

 微かに香る沈香の匂いの中、上杉輝虎は地図を凝視していた。

 その前で、泥で薄汚れた肩衣かたぎぬを正した顕景が、苦渋の報告を行っていた。

「……申し訳ございませぬ。春日山から湯沢迄は工期内に完成する見通しです。……しかし、湯沢から沼田を繋ぐ街道、地盤の緩みとコンクリートの硬化が間に合いませぬ。全通には、あと一月の猶予を」

 重苦しい沈黙が広がった。これは顕景の明らかな失態であった。事前に計画した期日迄に街道が開通しなければ、軍を動かせない。その遅れは、下野の攻略対象に防衛の準備を整わせてしまう。この一年間の景虎の成果と今回の顕景の失態の対比が、春日山内での政治バランスを変えようとしていた。

 しかし、そんな家臣たちの思惑を吹き飛ばすように輝虎は大笑いしてその沈黙を破った。

「よい、顕景! むしろ好都合よ」

「お屋形様?」

「お主が一月遅れる、という事実は、敵にとっても上杉の軍はまだ動けぬ、という油断に繋がる」

「御屋形様、敵とは」

「佐竹と宇都宮じゃ。こちらの大軍が動けぬ中、佐竹と宇都宮が唐沢山に向けて動き始めているとのことだ。唐沢山城が落ちれば、厩橋の北条高広との連携が断たれる。さらに、由良の金山城も孤立する。これは上野全体の守りが崩れることを意味する」

 評定の間がざわめき出す。そんな中、輝虎の指が、地図上の真田の領地をなぞった。

「景虎。真田から密約の返書が届いた。奴らの隠れ道を使わせるとのことだ。……ただし、この道は狭く、側面を突かれれば全滅の恐れがある危うい道だ」

 輝虎は俺を真っ直ぐに見据え、策を授ける。

「景虎、お主に先陣を命ずる。武田についた真田の道を通って、下野の唐沢山城と金山城の援護にまわれ。この一月、お主の功名の機会と捉えよ」

「はっ!」

 俺は深く頭を垂れる。

 周囲の重臣達は、いっそ苛烈とも言える輝虎の命令にざわめきたつ。

「やはりお館様は顕景殿を推す為にこのような仕打ちをなさるのか」

「危険な道じゃ、北条の者にこそ相応しい」

「うむ。武田と北条で潰しあえばよい」

 見方によっては捨て駒だ。本当に真田が密約通り動くかも不明だ。それに、俺は三増峠で武田に痛撃を与えた張本人だ。だが、俺は頭を下げて応えた。

「……はっ。私が先陣を切り、唐沢山城の援護に向かいます。そして。真田は信じるに値する、と証明してまいります」

「うむ。お主が隠れ道を通り、下野に向かっている間に、顕景。お前は死に物狂いで街道を完成させろ。一月後、道が繋がった時に儂が本隊を引き連れ、完成した街道を駆け抜けて関東に攻めいる。そして、頃合いをみて、後詰を残して越中へ転進する。街道沿いに必要な物資を用意しろ。宿場毎に最低限の物資を補充することで速度を得る。越中を、一気に平定する」

 これこそが、輝虎の描いた「時間差の二正面作戦」だった。


 評定を終え、城の廊下を歩く景虎の背中に、顕景が声をかける。

「義兄上……。俺は大事な役目を受けたにも関わらず全う出来なかった。本来、義兄上が進む死地は、俺が責任を取っていくべきところだ。申し訳ない」

 顕景は深々と頭を下げた。

「気にするな、顕景。御屋形様は幾重にも戦略を考えているのだろう。仮に何かが駄目でも、他の手を用意する、ということなのだ」

「……」

「お前が作る道があるからこそ、俺は全力で暴れられる。……それに、俺の背中は妻たちが守ってくれるだろう」

「姉上、ですか?」

 俺は顕景の肩に手をかける。

「下野で待っている。早く本隊と物資を持って来てくれ」

「……っ、必ず!!」

「顕景の道があるからこそ、俺は死地を駆け抜けられる。……さて、真田の隠れ道か。面白そうじゃないか、春の信州を駆け抜けてやろうじゃないか」


 春日山城 三の丸、景虎宅。

 俺の周りに、伊保野、鶴、小机衆の七介と蓮次、枇杷島衆の前島、宇佐美衆の栞、荒浜で開発を行っている弥次兵衛、権左、助蔵、それに後藤源三郎が座った。弥次兵衛の後ろには柚子が座る。

 俺は皆を集めて話し始めた。

「……というわけだ。顕景が道を繋ぐまでの一月。俺たちは真田の隠れ道を通って下野の唐沢山の援護に向かう」

 俺が地図を指すと、真っ先に口を開いたのは伊保野だった。

「……無茶を仰いますわね、旦那様」

 彼女は凛とした佇まいで俺を見据える。

「ですが、上杉の重臣たちが顕景殿を推す中、この先陣が結果を出さねば、景虎様の立場が危うくなるでしょう」

「やってやりましょう」

 小机衆の連次が発言する。

「お屋形様は速度を尊ぶ。ならば三郎景虎流の電撃戦、とくと見せつけてやりましょう!」

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