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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第3章 戦準備編  ~荒浜の奇跡と、戦国を変える技術革命~

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47 人工石の道を作ったら、軍神がテンション爆上がりで馬を暴走させました

 春日山城の麓、直江津へと続く街道の一角。

「これが、お前の言う『人工石の道』か」

 上杉輝虎(後の謙信)が、愛馬・放生月毛の手綱を引きながら、眼前の光景に目を細める。

 そこにあるのは、砂利と石灰などを配合して、数日の養生を経て岩のように硬化した、簡易舗装のコンクリートロードである。

「はい。まだ試験的な数町(数百メートル)ですが、表面の凹凸は極限まで削りました。泥濘ぬかるみもなければ、石に躓くこともありません」

 俺がそう答える間も、輝虎の視線はその平坦な路面に釘付けだった。

 軍神と呼ばれ、戦場の速度に誰よりも拘る男には、この白い道が持つ真の意味が理解できていた。

「景虎。……試してよいか」

「ええ、存分に。あまりの速さに驚かないでくださいよ」

 輝虎は答えず、愛馬の腹を蹴った。

「――行けッ、放生!」

 刹那、爆音のような蹄の音が響いた。

 だが、それはいつもの「ドッドッ」という土を叩く鈍い音ではない。「カカカカッ!」という、硬質な岩場を叩くような、高く鋭いリズム。

「なっ……!?」

 輝虎の体が、一瞬で視界の先へと遠ざかる。

 加速が違う。土の道では、蹄が地面を蹴る際にどうしても微かな逃げが生じる。だが、このコンクリートの上では、馬の脚力がそのまま推進力へと変換されていた。

「ははははは! 景虎ッ! これは凄いぞ!」

 疾走する背中から、輝虎の歓喜の叫びが飛んでくる。

 軍神が、まるでおもちゃを手に入れた子供のように、破顔していた。

 風を切り、重力を置き去りにするような疾走感。普段は静謐な威厳を纏う輝虎が、その速度の快楽に酔いしれている。

「蹄が滑らぬ! 足元を気にせず、ただ前だけを見て駆けられる! これならば、春日山から関東まで、文字通り『一息』で駆け抜けられるではないか!」

 往復して戻ってきた輝虎は、荒い息をつく愛馬を労わりながら、興奮冷めやらぬ様子で馬から飛び降りた。その瞳は、未知の技術に魅了されていた。

「最高だ、景虎! 儂はこの速度を求めていたのだ」

 ガシッ、と。

 汗ばんだ手で景虎の肩を掴む輝虎。その力強さに、俺は苦笑しながらも手応えを感じていた。

「この道が繋がれば、迅速に兵を移動出来ます。そして、この平らな道は多くの荷駄を運べるようになるのです」

「うむ……! 越後に関東、いや、日ノ本すべてをこの白い道で囲おうではないか!」

 これまでは奇妙な術を使う義子、として見ていた部分もあったかもしれない。だが今、輝虎の中で景虎は自分の夢を叶える有能な義子へと昇格した。

「……見ておれよ、晴信。お前が山道で喘いでいる間に、我らはこの人工石の道で日の本中を駆けてやるぞ」

 夕日に照らされた白い道の上で、軍神は高らかに笑う。

 

 さあ、銭は集まった。道を作る方法も確立した。次は、顕景に一気作ってもらうとしよう。 

 そう思った時もありました。

 俺が荒浜に戻り、鶴と一息ついていた頃、直江信綱がやってきた。

「おお、直江殿。よくぞいらした。小千谷の開発は順調ですか?」

 憮然とした直江は、俺の前に座ると出された水を一気に飲んでから話し始めた。

「……景虎殿。ご助力頂きたい」

 俺は目を細めながら答えた。

「なんなりと」

「……いま、顕景様は、湯沢から山を登られたところにいる。谷川岳を迂回するように道を広げているのですが、切り立った断崖が続く巨大な岩盤を崩せずにいるのです」

「それは、粉砕すればよろしいのか?」

「いえ、苦労して削っても、その後に地盤が容易に崩れていくのです」

「なるほど」

 直江は俺に頭下げた。

「お願い致します。顕景様どうか助けて頂けませんか」

 俺は朗らかに笑って答えた。

 「勿論ですよ、直江殿。我が義弟の困りごと、共に悩み、共に解決したい。明日にはここを出発しましょう」 

 

「皆、準備は出来たな」

 前島たちに頼み、大量の荷車を引かせて用意した。積まれているのは、大量の灰、石灰、そして荒浜の砂利だ。

 「旦那様、それは?」

 鶴が首を傾げる。俺は荷車の中身を指差した。

「これは人が人工石の材料だ。こいつは道に使うだけじゃないんだ。崩れそうな崖だって固められる。岩を作るんだ」


 俺は、前島たちに命じて顕景の工事現場まで材料を運び込むと、脆い崖に沿って木枠を設置させた。

「石灰に火山灰を混ぜ、水で練る。これに砂利を加えて木枠に流し込めば、数日で岩より硬くなる」

「……ホントですか?」

 小次郎が胡散臭そうにしている。

「小次郎。 ボケっ突っ立ってないで、混ぜろ。 練れ。 空気を抜け」

「え? 若様?」

「囀るな、動け!」

「イ、イエス・マム! じゃなくて、イエス・マスター!」

小次郎たちが半信半疑でドロドロの液体を木枠に流し込む。

「やべえ。若様も鶴様と同じだ」

「黙ってやれ。集中しないとやられる」


 「……旦那様、本当に壁のように固まるのですか?」

 前島が疑わしそうに泥を突つく。

「固まるさ。それも、水の中でもな。これを使えば、橋の土台も、崖の補強も、今までの十倍のスピードで終わる」


 数日後。

 監査のために訪れた直江信綱は、その光景を見て、愛用の筆を地面に落とした。

「な……ななな、なんだこれは!? 先週まで崩落した壁だったじゃないか」

 そこには、滑らかな灰色に固まった、完璧な舗装路が数百メートルにわたって伸びていた。

「石を積んだ跡がない……。まるで山そのものが、道の形に変質したようだ……」

「直江殿、お早いお着きで」

 景虎が、固まったばかりのコンクリートの上をコツコツと叩きながら現れる。

「どうですか。崩れないように固めましたよ。岩は破岩杭で砕き、脆い地形は型枠に泥を流し込んで道を作れるのです」

「馬鹿な……。これは外法ではないか?」

「直江殿、結構なことではないですか。工期が大幅減り、人足も危険な作業を避けられ、出来た道は皆の為になるのです」

 直江の顔は青ざめていた。

「景虎殿。これでは、城壁すら数日で作り替えられてしまうではないですか」

「その通り」

 直江は、軍事バランスが根底から崩れることに気づいたのだ。


「景虎様、これ……いいですわね」

 伊保野が、固まったコンクリートの壁をうっとりと撫でる。

「強度は十分。表面を滑らかにすれば、敵の忍びも爪が立てられず登れません。……ふふ、越後中の城を、これで囲った、灰色の要塞、に変えて差し上げたいですわ」

「伊保野、それはちょっと怖すぎるからやめてくれ」

 景虎の苦笑いを余所に、人足たちは人工石の威力に熱狂していた。

 本来なら死人が出てもおかしくない難所が、レクリエーションのような手軽さで舗装されていく。

 こうして、本来数年かかるはずだった沼田街道の整備は、わずか数ヶ月という異次元のスピードで完成へと向かい始めた。

※お読みいただきありがとうございます。

荒浜で積み重ねてきた準備が、ようやく形になりました。

次回からはいよいよ戦が始まります。

「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークで応援していただけますと嬉しいです。

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