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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第3章 戦準備編  ~荒浜の奇跡と、戦国を変える技術革命~

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44 僧兵が調子に乗ったので、寺ごと崩して黙らせました

 福良津 本誓寺 本堂の落成式

「おお……なんと神々しい。この白き壁、まさに極楽浄土の宮殿にございますな」

 老僧が、完成したばかりの「セメント造りの本堂」を見上げ、感涙にむせんでいる。

 俺は、その後ろで殊勝な顔をして手を合わせている。

「如来様をお守りする場所ですから。この壁の『ふし』は、明の建築術で『龍の脈』と呼び、気の流れを整えるものでございます。……決して、壊そうなどと思ってはなりませぬよ」

 ふるきが指差した「龍の脈」――それは、破岩杭を打ち込めばドミノ倒しに壁が崩れる構造的な急所だった。扇で口元を隠して微かに笑う。

(……おいたわしや。この寺は、景虎様が指を鳴らせば、そのままお前たちの墓標になるというのに)


「明の商人は一向宗にここまで尽くしている」という噂が広まり、他の地域の一向宗も警戒を解く。そして、「是非我が寺にも」と、改修を願う声が続出した。とても全てをさばき切れないため、心苦しいが、より「重要な寺」のより「重要な場所(例えば正門、裏門、砦など)」から出来る限り補修を請け負っていった。その修復先が、越中ヘと続く主要な建物であったのは、勿論、事前に俺とふるきで選定していたところであった。


 福良津。港に面して設けられた「明人租界」の迎賓館。

 そこは、ふるきが設計し、調度品を選び、「明の商家の娘」を演じるための、美しい舞台装置だった。

 香炉から立ち昇る、石鹸と同じ花の香り。

 ふるきは、豪奢な明風の直領の袖を整えながら、背後に控える景虎に鋭い視線を投げた。

「……景虎様。この衣装、少々胸元が開きすぎではありませんか? 三門の家訓には『肌の露出は徳の欠如』とございます。このような破廉恥な策、お断りしたいところですわ」

「そう言うな。その隙こそが、坊主どもの理性を狂わせるんだ」

 通辞の助手に扮した俺は、無造作に答える。ふるきは「ふん」と鼻を鳴らし、扇子で口元を隠した。

「……全く。貴方というお方は、女性の羞恥心を軍略の部品としか思っていらっしゃらない。……ですが、引き受けた以上は完璧に演じてご覧に入れますわ。見ていらして」


 夜更け。部屋の戸が無造作に開かれた。現れたのは、僧兵を束ねる屈強な男、願哲がんてつ。砂糖の甘みと酒の臭いに理性を溶かしたその目は、どろりとした欲望に濡れていた。

「……三門の娘よ。如来様への供物は届いた。だがな、仏の慈悲をこの地に留めるには、もう一つ……『生きた供物』が必要だとは思わぬか?」

 願哲が下卑た笑みを浮かべ、ふるきの細い肩に手をかけようとする。ふるきは、眉一つ動かさず、冷たく言い放った。

「……お黙りなさい、生臭坊主。その汚れた手で私に触れることなど許されません。私は大明の皇族に連なる身。不浄な真似をすれば、この福良津に二度と砂糖も石鹸も届かぬことになりますわよ」

「黙れ! 異国の女が粋がるな。 力こそが如来の意思よ!」

 逆上した願哲が、ふるきを乱暴に畳へ押し倒す。はだける衣。ふるきの瞳に、初めて微かな「恐怖」と、それを上回る「屈辱」が走った。

(……景虎様、まだですの!? まさか、本当に私を使い捨てに……っ)

 その刹那、天井から中西が舞い降り、願哲の腕をねじ上げた。

「そこまでだ。……仏門にありながら、女を襲うとは。破門ですら生ぬるいだろう」

「な、何奴だ! 通辞の助手風情が!」

 俺の合図で、潜んでいた影が一斉に願哲を拘束した。

「遅いですわ……この、大馬鹿者!」

「すまん。こいつの部下達を拘束するのに手間取っていた」

 ふるきに手を差し伸べると、ふるきは一瞬その手を叩き落とそうとして、結局、縋るように握りしめた。

「……あと少し遅れたら、私は自ら喉をつくところでしたわ」


 翌朝。俺たちは捕らえた願哲たちを突き出し、寺側に厳重に抗議した。

「我が主たる三門の姫への乱行。これは大明への宣戦布告と受け取るが如何に?」 

 老僧は顔を青くしたが、願哲を支持する狂信的な僧兵たちは違った。

「異国の者が調子に乗るな! その女も、砂糖も、この寺の宝も、全て我ら、真の門徒が頂戴する!」

 願哲を慕う若手の僧兵が叫ぶと、背後の連中が一斉に抜刀した。その場にいた老僧たちは、口封じと言わんばかりに背後から切り捨てられていく。

「景虎様、来ますわ!」

「……フン、野蛮なことだ。中西、やれ」

 俺が指示を出すと、周囲の建物から数十名の部下たちが姿を現し、一斉に連発式短筒の火を噴かせた。銃身は、消音のための厚い革と油が塗り込まれている。

 ――シュパパパンッ!!

 先頭にいた数人の僧兵が、何が起きたかも分からず、眉間に穴を開けて崩れ落ちる。

「な、なんだこの音は!? 呪術か!?」

「一瞬でこれほど……化け物か、こいつらは!」

 見たこともない音のしない銃撃の威力と、目の前で仲間が倒れていく怖さ。彼らの気炎は恐怖に塗り替えられていった。広場で戦えば全滅すると悟った僧兵たちは、仲間たちが覆いかぶさって倒れた中庭を捨て、唯一無二の防壁、つまり俺たちが造ったセメント壁に囲まれた本堂へと転がり込んでいった。

「……愚かな。自ら退路を断ち、墓場へ飛び込んだか」

 本堂の重い扉が閉まり、中から「ここは大明の技術で固めた鉄壁の城だ! 近寄れば如来の天罰が下るぞ!」という叫び声が聞こえてくる。

「景虎様、彼らはあの中が一番安全だと信じ切っております。滑稽ですわね」

 ふるきが、扇子で口元を隠しながら、勝ち誇ったように微笑んだ。

「では……『龍の脈』、断たせていただきましょうか」

 ふるきは皆の前に立つと、こう宣言した。

「皆様、ご覧なさい! 如来様が、不徳な者たちに怒っておられます! これより『龍の脈』を断ち、偽りの聖域を浄化いたしましょう!」

(なんだ、ふるき。お前もノリノリじゃないか)

 ふるきが、あのセメント壁の「特定のふし」を扇で指し示す。

「……そこですわ、景虎様!」

「了解だ。……打ち込め!」

 俺の合図とともに、久助ら福良津衆が、破岩杭を壁の継ぎ目に一斉に叩き込んだ。

 ――ミシッ、メキメキッ!!

 昨日まで岩山より頑丈だ、と豪語していた白い壁が、まるでもろい積木のように、ガラガラと音を立てて崩壊していく。内部で錆びた鉄筋が膨張し、構造を破壊していたのだ。

 

「な、何事だ!? 如来様が……如来様が寺を壊された!」

 逃げ惑う僧兵たち。無敵の要塞と信じた壁が砂のように崩れる光景は、彼らの戦意を完全に粉砕した。


 一刻後。願哲一派は完全に制圧され、福良津は、「三門家と福良津衆」が管理する実質的な要塞となった。表向きは一向宗だが、中身は上杉の橋頭堡だ。これでもう、越中への道は開かれたも同然だ。

 

 福良津港 大明租界の迎賓館。

 香炉から立ち昇る花の香りの中、ふるきは豪奢な明風の直領の袖を気にしながら、俺に鋭い視線を投げた。

「……景虎様。この衣装、やはり胸元が開きすぎではありませんか? 三門の家訓には『肌の露出は徳の欠如』とございます。このような破廉恥な策、本当にお断りしたいところですわ」

「そう言うな。その隙に奴が油断したからこそ、一気に制圧できたんだ」

 俺が答えると、ふるきは「ふん」と鼻を鳴らし、扇子で口元を隠した。

「開けても見せるものなどございません……全く。貴方というお方は、女性の羞恥心を軍略の部品としか思っていらっしゃらない。最低ですわ。……ですが」

 ふるきは顔を伏せ、呟く。

「……ですが。助けに来てくださることは信じておりましたわ」

「怖かっただろう。すまなかった」

「……っ、……勘違いしないでくださいね? 貴方がいなくなれば、三門の再興と私の商売が台無しになるからですわよ」

 ツンと顔を背けるふるき。だが、その耳たぶは隠しようもなく赤く染まっていた。

 俺が思わず「よくやった」と彼女の頭に手を置こうとすると、

「さ、触らないでください! 礼節を知りなさいませ、この……大莫迦者が!」

 そう叫びながらも、彼女は俺の手を振り払おうとはしなかった。石鹸の香りよりも甘く、抗い難い微熱が、二人の間に漂っていた。

いつもお読み頂きありがとうございます。

今晩で、一旦、福良津編は終わりです。


作者のみなとから皆さまにちょっとしたご相談があります。

明日からまた越後に戻り、新しい仕込みを始めていくのですが、皆さまはどちらの展開の方がよりワクワクしますか?

①軍事行動 また三増峠のような合戦を見たい

②経済ハック オークションで得た資金をしっかり運用してほしい

画面下の感想欄に「①」か「②」の数字一文字だけでも残して頂けると、今後の執筆の大きなヒントになります。是非、お気軽に教えてください。

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