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鶴姫と景虎の国盗り経営録 ──戦国の怪物たちを円卓に集めたら資本で世界を取りに行った件  作者: みなと
第3章 戦準備編  ~荒浜の奇跡と、戦国を変える技術革命~

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43 一向宗の寺を改修したら、ワンタッチで崩れる寺が完成しました

「……この『石鹸しゃぼん』という香る石。これを使えば身も心も清まり、如来様に近づける心地がいたしますな」

老僧が、泡立った手から立ち上がる花の香りに目を細める。

「ええ。明の宮廷では、高貴な方々が日常的に使われるもの。大徳だいとくのような徳の高いお方には、常に清浄であっていただきたいのです」

 ふるきが、滑らかな手つきで明産の極上白糸で作られた法衣を差し出す。

「おお……この肌触り。越後の青苧あおそとは比べものにならぬ」

「これら全て、福良津の再建と、如来様への供養のために使いましょう。……ただ、取引の安全を確保し、織田や上杉の不作法な兵から守るためには、やはり石の蔵が必要なのです」

 老僧は、石鹸の香りと絹の感触、そして銅銭の輝きに完全に毒されていた。

「……よかろう。蔵の増設、並びに館と塀の改修、全て明の流儀で進められよ。織田や上杉など、この福良津の豊かさを見れば腰を抜かすに違いない」

 後ろで控える俺は、深く頭を下げ、声を出さずに笑う。

(……そうだ。贅沢を日常に変えろ。一度覚えた清潔さと絹の感触は、二度と手放せん。お前たちが香りに酔いしれている間に、俺はお前らの寺を積み木の城に変えてやる)

 翌日から、福良津の北側では「明の建築術」と称した蔵造りが始まった。


 ふるきは、「蔵を造るための資材だ」と称して、越後からセメントや鉄材を運び込んだ。 そして、港の防波堤や倉庫の土台をセメントで固め、一向宗には「明の最新の建築術だ」と信じ込ませていった。実際には、有事の際に大筒を据えるための強固な砲座と、地下の武器庫が完成していった。

 これを見た老僧はふるきを呼びつける。

「あの蔵はなんだ。まるで要塞のようではないか」

「これは大徳、お戯れを。あのようなものは下賤な者たちが雨風を凌ぐ小屋に過ぎません」

「あれを小屋と申すか?」

「如来様の安置なされたこの寺院の外壁も、あのような壁にしたいと思います」

「……むう」

「如来様をお守りする寺院を、外から見て豪華にするのは不敬にございます。真の輝きは内側にあってこそ、有り難さもますものと考えます。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「この本誓寺の外壁は中々に長大です。人足が足りません。そこで、福良津の民たちに普請を手伝っていただいても良いでしょうか。勿論、賃金をお支払い致します」

「……如来様に安置されたこの寺を戦火に巻き込むわけにはいかない。そのように改修を進められよ」


 その日の夜。

 雨風で今にも崩れそうな民家に何人かの人影がやってきた。扉を叩く音に、面倒臭そうに奥から人が出てくる。

「何時だと思っとる? 孫がやっと寝たんだ。静かにしてくれ」

「それはすまなかった。久しいな、久助」

 袈裟を深くかぶった老人が、袈裟を脱ぎながら語りかける。

「誰だお前、……定吉か?」

 普段、ふるきの代わりに蔵田屋五郎左衛門を名乗っているこの老人は、以前は定吉の名で商いをしていた。久助その頃からの馴染みだ。

「そうだ、定吉だ。……後ろのお方はわかるか?」

 ふるきが前に出る。

「……その、てんの毛皮。まさか三門様の子か」

「ふるき様だ」

 定吉は床に膝をつく。

「そんな、お顔をあげてください」

「久助。助けてほしいのだ、入れてくれぬか」


「……じゃあ。本当にこの福良津を解放するつもりなのか」

「本気だ。上杉三郎景虎様は、ここに橋頭堡をお作りになる考えだ」

「しかし、それではここが戦場になってしまう。定吉よ。上杉って強いんだろう?だが、直ぐにここに来るのか?ずっと守れるのか?無理だろう。そんな博打みたいなことに俺等が関わったら、使い捨てにされるではないか」

 流石はかつて三門家で大陸と商いをしてきただけあり、世の動きをよく捉えていた。

「俺たちはな、久助。唐船で港に入ったんだ」

「……どうやって?」

「明の商人という触れ込みでな。それで、俺たちが持ってきた商品は大きく三つ。一つは精製された白い砂糖。そして石鹸」

「……!!」

「どうだ、見事だろう。この大明という表記と演技で、本誓寺の坊主はまんまと騙された。今、蔵という名前の砦を港に設営している」

「……だが、寡兵だろう。長期戦には立ち向かえまい」

「それで三つ目だが、人工石だ。砦は人工石で作られている。そのへんの岩山よりも頑丈だ。生半可な攻撃では壊れない」

「むう……」

「それでな。その人工石で、本誓寺の外壁を補修しようと思ってるんだ」

 久助は、腕を組んで悩み始めた。

「どういうことだ? 橋頭堡にするために砦を作るにはわかる。だが、なんで一向宗の寺まで補修する?」

「俺たちは製法を知っている。つまり、わざと脆く作る方法も知っているということだ」

「……」

「手伝ってくれないか、三門の民よ」

  

 数日後、ふるきたちが作った蔵の前に、久助を先頭に付近の住民たちが集まっていた。彼らに、セメントを練る際、わざと洗浄していない塩分を含んだ砂を大量に混ぜさせた。これは、表面上はすぐに固まって強固に見えるが、内部の補強に使った鉄の棒が急速に錆びて膨張し、数ヶ月から一年で内部からコンクリートにひび割れさせる。

 更に、 壁の主要な構造部分に、あえて接着しない継ぎ目を作り、そこに薄い木板や油を塗った紙を挟んでからセメントを流し込ませた。

 後日、この特定の箇所に杭を打ち込めば、パズルのピースが崩れるように壁全体が自重で崩壊していく筈だ。

 更に、 越後の入り江で解体・隠匿されていた一族伝来の唐船を、夜陰に乗じて福良津へ運び込み、「明から到着した二隻目」として再編成していった。

「やけに手際がいいな、福良津衆は」

 ふるきが得意げに答える。

「元々、畑を耕すのではなく、船を操ることに長けておりましたので」

 そして、間もなく本誓寺の改修は終わった。

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